人のくらしを起点に「移動」のあり方を見つめ直す…パナソニックHD モビリティソリューションズ担当 村瀬恭通 参与[インタビュー]

人のくらしを起点に「移動」のあり方を見つめ直す…パナソニックHD モビリティソリューションズ担当 村瀬恭通 参与[インタビュー]
人のくらしを起点に「移動」のあり方を見つめ直す…パナソニックHD モビリティソリューションズ担当 村瀬恭通 参与[インタビュー]全 1 枚

パナソニックグループは、人の生活圏にフォーカスした“Last 10-mile”というパーパスを掲げて、人と共存するモビリティソリューションの提供を目指している。新たな移動手段として注目を集める電動マイクロモビリティや、限定エリアでのモビリティへの取組みについて、パナソニック ホールディングス モビリティソリューションズ担当 参与の村瀬恭通氏に聞いた。

村瀬氏は7月28日に開催予定の無料のオンラインシンポジウム【日本発!モビリティ変革事例】産官学・モビリティコンソーシアム会議に登壇してこのテーマで講演予定だ。

完全自動運転のエリアモビリティが公道を走行中

---:まずパナソニック モビリティソリューションズの事業をご紹介ください。

村瀬:はい。我々の事業領域は、大きく3つに分かれておりまして、限定エリア内を自動運転で走行するエリアモビリティ、電動車のフリートマネジメントシステム、そして社会インフラとしてのV2Xなどのコネクティビティ、この3つです。

まず1つ目のエリアモビリティについてです。初めに我々が提供したのは、公道ではなく、道路交通法が及ばない限定したエリア内で、自動化の早期社会実装と地域の活性化に取り組むということでした。

我々の本社が大阪にありまして、その構内には信号・横断歩道・地下道などもあって、一般車も通るようなところです。そこで、最初は自動運転の四人乗りの小さなクルマで、1周2.4kmのルートで構内を走行させていました。社員向けの自動運転ライドシェアサービスとして簡単なアプリを作って、スマートフォンで呼ぶと、このクルマがやってきて、それに乗って目的地に行くことができました。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大により出勤してくる人も少なくなったこともあり、構内でのサービス提供は一時中断して、公道に出てみようという話になりました。こちらはもう少し速度を落として、人ではなくモノを運ぶ配送ロボットです。「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」*で、自動走行のロボット配送サービスの実証を実際の住宅街で始めました。

*Fujisawa SST:パナソニックが手掛けるサスティナブル・スマートタウン。神奈川県藤沢市

Fujisawa SSTでの配送ロボット は、遠隔監視・操作型ロボットということで今年の4月には日本で初めて完全遠隔監視・操作型の公道走行の許可に関わる審査に合格していまして、これまでロボット近傍に配置していた保安要員をなくして完全遠隔監視・操作型で4台のロボットが住宅街の中を走っています。

完全遠隔監視については、初めからそのようにできたわけではなくて、最初はオペレーター1人がロボット1台を遠隔監視し、加えてロボットの5m以内の距離に保安要員を配置して走らせていました。ここからしっかり実績を積んで徐々に台数を増やし、最終的にはエリア限定ではありますが、保安要員なしで 、1人の遠隔オペレーターがロボット4台を遠隔監視するという運用に至っています。

---:今後は遠隔オペレーター1人あたりのロボットの台数を増やしていくのですか。

村瀬:目論見としては、10台くらいまで増やさないと採算が合わないと思います。また遠隔監視で複数の地域を一括で稼働することも考えていますが、何かトラブルがあった時のために、現地にも駆け付け要員を置いておく必要があると考えています。

今回は「Fujisawa SST」というエリアで審査に合格しましたが、今後240時間走行すると、同じようなエリアであれば他拠点でも許可取得が簡素化できるようになります。これは警察庁が関係省庁と連携して昨年度策定された「特定自動配送ロボット等の公道実証実験に係る道路使用許可基準」に基づいて申請し許可をいただくことで実現できます。

---:いろいろなサービスに応用できそうですね。

村瀬:そうですね。デリバリーだけでなく、無人警備、ごみの回収、移動サイネージなど、いろいろなサービスが考えられます。これらを実現するためのプラットフォームとして、「エリアモビリティサービスプラットフォーム X-Area(クロスエリア)」として開発を進めています。

また、このような自動配送ロボットの取り組みは、当社だけでなくいろいろな方と一緒にやっておりまして、そこでコミュニティができたので、ロボットデリバリー協会*という一般社団法人を立ち上げました。ここでは、サービスする方、ロボットを作る方などいろいろな方が参加して活動しております。この協会の中で当社は安全基準の策定や認証の仕組づくりに貢献させていただいております。

*一般社団法人ロボットデリバリー協会 https://robot-delivery.org/

eモビリティのフリート管理システム

村瀬:2つ目は電動車のフリート管理「eフリート」です。これはEVの商用車(フリート)向けの管理運用サービスで、EVの走行データをクラウドに収集・分析して、ユーザーや管理者に最適な電池の使い方を提供するものです。日本では商用車EVはほとんど走っていませんので、海外で先行して検証を進めているサービスです。

クラウド側で残走行距離や故障の有無を検知し、正確な走行距離を算出し、電池性能を最大限に引き出すなど、EVを効率的に運用できるサービスを目指しています。

また国内での商用車のEV利用促進に向けては、当社自身も取り組んでいまして、滋賀県の草津工場で、商用車のEV導入を支援するソリューション開発にも取り組んでいます。

次に、電動バイクや電動キックボードなどのマイクロモビリティに関する取り組みです。マイクロモビリティにおいては、突然の電欠がひとつの課題です。充電したつもりでも、メーターが突然減って途中で止まるなど、残量表示が不正確な場合があります。バッテリーの健康状態を監視するとともに、突然の故障を予知することや、GPSで車両の放置や廃棄を防ぐことなど、一括した管理も求められるようになると考えています。

こういったマイクロモビリティの課題をカバーしながらサービス運用をサポートするUBMC(Universal Battery Management Cloud)というサービスを通じて、マイクロモビリティのバッテリーを管理するためのいろいろなアプリケーションの提供を目指しています。パナソニックは90年以上電池開発をしており、様々なノウハウがありますので、当社製品に限らず、他社の電池も管理できます。具体的には、いろいろなマイクロモビリティと繋げて、クラウドに走行中のデータを集めることによって、充放電データや走行データなどの利用ログを分析し、異常の予知なども可能です。

高級バイク向けの高機能サービスも

村瀬:3つの領域の最後が、社会インフラとしてのコネクティビティです。一つは「Cirrus」というDOT(米国各州交通局)向けのコネクテッドカーの交通管理サービスです。これは、ロードサイドユニットと車両を繋いでデータを集め、路面状態、事故警告、渋滞情報などの情報を車や政府のオペレーターに提供し、事故や渋滞の回避、多重衝突の防止などを目的としたサービスです。

もう一つは、「One Connect」という小型モビリティやバイク向けのコネクティビティサービスです。これを最初に導入したのは、ハーレーダビッドソンの電動バイクです。バッテリーの残量と航続距離、充電完了までの時間をスマートフォンのアプリで確認したり、充電ステーションの位置情報もアプリに表示できます。

またセキュリティ機能も実装しています。駐車中のバイクの位置を表示するほか、車体に何かがぶつかったり、移動を検知するとスマートフォンにアラートを送信する機能や、GPSによってオートバイの位置を追跡することが可能です。

---: UMBCとOne Connectは同じ仕組みを使っているのですか。

村瀬:それぞれ別のものです。One Connectはおもにオートバイ向けのサービスです。2025年にはオートバイにもeCallが義務化されるのですが、そうなると24時間365日サービスが稼働している必要があり、One Connectはそのような対応が可能です。

そういった背景もあって、最近ではヨーロッパの高級バイクメーカーから導入したいという話をよくいただいています。

---:メーカーにとっての「One Connect」のベネフィットはどのようなものですか。

村瀬:例えば盗難防止やジオフェンス機能はもちろん。eフリート、商用車の場合にはデリバリーの順序などを共有する機能があります。また、ドライバーがどのような運転をしているのか、そのようなこともわかります。

村瀬氏が登壇する無料のオンラインシンポジウム【日本発!モビリティ変革事例】産官学・モビリティコンソーシアム会議は7月28日開催。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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