近年、日産やホンダの系列解体、部品サプライヤーの再編に対して、トヨタの場合は系列内で全面的な体制の見直しを行い、部品サプライヤーだけでなく、ダイハツ、ヤマハ、マツダ、スバル、いすゞなど自動車メーカーまでをも糾合して体制構築を進めている。
◆コロナからの回復、半導体不足下での業績の改善
2020年3月期の決算では、日産は赤字、ホンダも4輪だけなら2%以下の状況であるのに対し、トヨタは2兆761億円という黒字、22年3月期には2兆5318億円に達するものとなった。トヨタ自動車は2020年3月期決算について、リーマンショック以降の収益構造の変化を以下のように解説している[1]。
「営業収益31兆3795億円、営業利益2兆9956億円、純利益2兆8501億円。この成果は新型コロナウィルス感染拡大、資材・物流費の高騰、半導体不足という厳しい経営環境の下で達成されたが、それは2009年から続けてきた収益構造の変化に支えられている。13年前、リーマンショックの際は販売台数が15%落ち込んだ結果、4610億円の赤字に転落した。それに対して、今回は同様に15%の販売台数減少があったにもかかわらず、利益は2兆3992億円から2兆1977億円と減少はしたが、ほぼ同水準を確保した。それは13年間にわたる損益分岐点引き下げの取り組みの成果であり、2009年3月期を100として2022年3月期はほぼ3分の2、66程度まで圧縮した結果である」
「『もっと良い車を作ろう』という商品を軸とした経営を進め、社内では地域CEO制度を導入、商品を軸に社内でカンパニー制を導入し、また開発の現場ではTNGAを通じ、高い基本性能と部品の共用化を両立させた。生産現場では仕入れ先と一体になった価値分析(VA)や作り方の改善など、一円一秒にこだわって原価を改善に取り組んだ。その結果、地域に合った商品ラインナップを揃えることが可能となり、車の基本性能の向上や販売価格の改定、販売費の抑制、金融収益の改善が進み、台数、為替に左右されない収益構造になった。2023年3月期の見通しは、かつてない資材価格の高騰の中で、33兆円の営業収益を上げても純利益は2兆2600億円にとどまるため、更なる収益構造の改善が必要である」
ここではリーマンショックの経験を踏まえた収益構造の改善がトヨタ自身の最大の課題だったこと、また2023年度に向けて更なる収益構造の改善を進めることが表明されている。
このようなトヨタの高い収益構造は、極めて大胆であるが、資金的にも十分な余裕をもって部品部門の再編を進め、人事を自在に行い態勢を整えるトヨタのフットワークの軽さに繋がっている。また近年の再編の結果、デンソーがシステムサプライヤーとしての重要さを増し、トヨタの戦略の要衝に位置することが明確になった。そしてトヨタの収益性の高さはグループ企業、トヨタ系列の中堅企業にも及び、2022年3月期の各社の決算では急速な業績を回復することとなった(表:トヨタグループ企業の連結決算)。

◆自動車部品業界の低収益体質と経営の危機
このような動きに懸念がないわけではない。デンソーのトヨタ色が強まることで、現在トヨタ系への依存度が40%という状況の中、トヨタ以外への販売に影響が出るとの懸念もある。