バイクのヤマハが無人ヘリで「森林の見える化」をビジネスにする理由 

森林計測をおこなう無人ヘリコプターと、ヤマハ発動機の加藤薫さん
森林計測をおこなう無人ヘリコプターと、ヤマハ発動機の加藤薫さん全 16 枚

ヤマハ発動機は9月14日~16日に開催された「第3回次世代森林産業展(FORESTRISE 2022)」で、ヤマハが提供する森林計測サービスに関する出展をおこなった。産業用無人ヘリコプターのノウハウを活かした「森林の見える化」によって林業のスマート化に貢献する。

森林の木の太さも、無人ヘリで空から計測できる

高解像度LiDARを搭載し森林計測をおこなう、ヤマハ発動機の無人ヘリコプター高解像度LiDARを搭載し森林計測をおこなう、ヤマハ発動機の無人ヘリコプター

ヤマハといえばバイクやエンジン開発、というメージが一般的だが実は産業用無人ヘリコプター(以下、無人ヘリ)については30数年の歴史を持つ。農薬散布を主用途として活躍しており、農業従事者の減少、農作物の低コスト化という課題に向け今後もさらなる期待が寄せられているという。

無人ヘリ『FAZER R』は、390ccの水平対向エンジンを搭載し、約100分の飛行が可能。作業能力としては1日あたり20ha以上だという。ドローンとの違いは大きなローターとエンジンだ。大きなローターは一定の高度での安定した航行を可能とし、ガソリンを燃料とするエンジンを搭載することで十分な航続を得る。そして自動航行、衛星通信を利用した遠隔操作が可能な点が最大の特徴だ。

無人ヘリの下部に取り付けられた高解像度LiDAR無人ヘリの下部に取り付けられた高解像度LiDAR

この無人ヘリを活用し、計測による「森林の見える化」を実現したのがヤマハの森林計測サービス。無人ヘリに高解像度LiDARを搭載し、樹頂点(木々の一番高いところ)から30~50mの上空より1秒間に75万回のレーザーを照射。これにより、木々1本1本の高さだけでなく、幹の太さや地表面の傾斜なども計測することができ、精緻な3次元デジタルデータ化が可能となっている。1日あたり最大100haの面積を計測することができ、これまでの地上計測と遜色ないデータを効率よく収集できるようになった。

ヤマハはこうして収集したデータをレポートとして納品する。無人ヘリを販売するのではなく、計測~分析~レポートまでを一括しておこなうのがヤマハの森林計測サービスの特徴だ。2019年にサービスを開始し、自治体や企業およそ30社以上で採用された実績を持つ。中には、楽器メーカーのヤマハ株式会社の名も連ねられていた。

普通のPCで立木一本一本のデータまで閲覧できる

クラウドサービス「YFMS」では木々の一本一本の情報まで閲覧できるクラウドサービス「YFMS」では木々の一本一本の情報まで閲覧できる

今回の展示では9月1日にリリースされたクラウドサービス「YFMS」も紹介されていた。これまでは計測結果をレポートにまとめデータを納品するという形だったが、民間企業や自治体では十分にその精緻なデータを活用しきれないことが多かった。これを「見える化」だけでなく直感的に、かつ標準的なPC環境でも計測データを利活用・共有できるようなアプリケーションとして提供するのがYFMSだ。

画面には、計測した山林の立木情報がすべて表示され、一本一本の木の樹高、幹の直径、樹木の種類などまで一覧することができる。さらにYFMS上では、計測した場所の断面図を作成することができ、地面に近い場所の植生の繁茂状況や地形の起伏なども確認し、共有が可能。例えば作業道(林業施業用の道)上に支障となる木があるかの確認や、林内での施業場所の事前確認などが想定されるという。

また、作業道を作設するにあたり、伐開される場所に存在する支障木や集材可能な立木の本数などを確認し、経済的かつ効率的な作業道案を選択することも可能となる。森林現場に行く前に状況を確認できること、現場の施業監督や委託先企業との情報共有に役立つなど、テスト利用した業界関係者からの声も上がっているという。

根底にある『人はもっと幸せになれる』ビジョン

森林計測をおこなう無人ヘリコプターと、ヤマハ発動機の加藤薫さん森林計測をおこなう無人ヘリコプターと、ヤマハ発動機の加藤薫さん

ヤマハ発動機で森林計測ビジネスをとりまとめる加藤薫さんは、「森林計測の重要性は今後さらに高まる」と話す。背景には、日本の林業と、山林の現状がある。日本の木材の価値は現在、海外からの輸入木材に押されて最盛期の3分の1ほどまで下がっているという。2000年前後に底打ちし、約20年で35%程度は回復したものの、人材不足や伐採~製材にかかるコストを十分に回収できる状況ではない。

企業や個人所有の山林は尚更、放置されてしまう傾向にあるという。山林は間伐などの手を入れないとCO2吸収量が下がったり、“山がダメになる”ことで昨今問題になっている山崩れなどの災害にもつながる。所有する山林や樹木の“価値”を正確に知ることで、森を守り環境保全にも貢献できる。

「最近ではJクレジットが注目されています。間伐をすることで上振れするCO2吸収量を、Jクレジットとして発行するというものです。SDGsの観点、カーボンニュートラルに貢献できるということで企業や自治体での採用が増えています。ただし、間伐のコストをすべてJクレジットで賄えるわけではありません。今後は、ヤマハの森林計測をJクレジットで支払う、という可能性も視野に入れ、ヤマハとしてもCO2削減に貢献できればと考えています」

さらに加藤さんはこう付け加えた。

「ヤマハが企業のビジョンとして掲げているのは『人はもっと幸せになれる』です。これまで危険とされてきた仕事を軽減させて、みなさんに人間らしい生活を送っていただきたい。ヤマハの製品やサービスで社会課題を解決したい。そうした思いが、この森林計測サービスの根底にあるんです」

《宮崎壮人》

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