「eアクスル」はここまで進化する…アイシンの第3世代eアクスルを体感して見えた電動化の未来

第3世代eアクスルを搭載した、トヨタ『C-HR』ベースの試作車
第3世代eアクスルを搭載した、トヨタ『C-HR』ベースの試作車全 40 枚

アイシンは9月30日、同社の藤岡試験場(愛知県豊田市)において一部メディアを招いた電動化新技術試乗会を開催した。

アイシンが開発を進めるeアクスルと、テスト車両

今回の試乗会はクルマの「電動化」に関する製品、中でも特に「eアクスル(eAxle)」の開発状況の報告を中心に行われた。eアクスルとはモーター、トランスアクスル、インバーターが一体化された電動駆動ユニットのこと。アイシンはこのeアクスルをクルマの「電動化」に対する最重要戦略製品とし、現在の第1世代、BEVの需要が急増すると予想される2025年に向けた第2世代、そしてさらにその先に向けた第3世代と、3世代構想で開発を進めている。

電気自動車(BEV)の心臓部と言えるこのeアクスルをはじめとするアイシン製品に触れられた今回の試乗会は、ガソリン車とは違う魅力を秘めた電動車が担う明るいクルマ社会に思いを馳せられるまたとない機会となった。

eアクスルのフルラインナップ化で幅広いニーズに対応

試乗会に先立ち、アイシンCESOで、パワートレインカンパニープレジデントを務める山本義久氏がプレゼンテーションを行った。その中で山本氏は「eアクスルを中心とする電動ユニットの開発は、BEVだけでなく、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)といった各種車両に向けたフルラインナップで挑んでいる」と強調した。

なぜ電動ユニットのフルラインナップ化が必要かというと、カーボンニュートラルの実現に向けた政策は国によって異なり、また、インフラの整備具合も地域によって大きく異なるため。様々な電動ユニットを取り揃えることであらゆるニーズに応えたいというのがアイシンの考え方なのだ。

その構想を実現すべく、アイシンは今年から第1世代ミディアムサイズeアクスル(中型車向け)の量産を開始。2023年からはスモールサイズeアクスル(小型車向け)を量産予定だ。そして、第1世代の改良型としてさらなる高効率と小型化を実現すると同時に、スモール、ミディアム、ラージプレミアムと、全ての車格に対してラインナップを拡充した第2世代eアクスルを2025年に量産開始。さらに、モーターとトランスアクスルを刷新して超高効率・超小型化を図る第3世代eアクスルを2027年にリリースする計画だという。

アイシン製品が搭載された量産車に試作車を加えた7台を用意

プレゼンテーションの後、いよいよ試乗会へ。ここではアイシン製品が搭載された量産車から現在開発中のユニットが搭載された試作車まで7台が用意された。

量産車として用意された『DS 7 クロスバック』はアイシンが開発した1モーターハイブリッドトランスミッションが搭載された車両。このモデルでもハイブリッドならではのダイナミックな駆動力を十分に体感できたが、そこから乗り換えた『HiPhi X』はその駆動力を何倍も上回る驚異的な動力性能を秘めた車両だった。

聞いたことがないという人がほとんどであろうこのモデルは、高級EVを作ることを目的に設立された中国の崋人運通が初めて発表したBEV。220kWのモーターが前後に搭載されており、止まった状態から100km/hに到達する時間はわずか3.9秒だという。

このHiPhi XにはアイシンのARS(アクティブリアステアリング)が搭載され、全長5200×全幅1990mmという大きなボディサイズにも関わらず5.8mという最小回転半径を実現。また、電動チルト&テレスコピックステアリングコラムもアイシン製品が採用されているそうだ。

走行抵抗を低減し、後続距離の増加に貢献する可変空力デバイス(グリルシャッターとアクティブフロントスポイラー)が搭載されたトヨタ『タンドラ』はデバイスの展開後に走行安定性が高まり、安心感が増すのも感じられた。

その他、前後左右の駆動力分配を可能とする車両運動制御ユニットが搭載されたレクサス『RX』、アイシングループのアドヴィックスが開発した前後輪独立制御ブレーキの利点を活かし、回生協調量は増加したままブレーキング時のクルマの姿勢を適正化する通称「なめらかブレーキ」が搭載されたレクサス RXという2台の試作車も、それぞれの技術の成果が感じられるものに仕上がっていた。

コンパクトさがクルマに新しい価値を生み出す第3世代eアクスル

最後に用意されていたトヨタ『C-HR』をベースとする試作車がこの日のメインディッシュだった。この車両のボンネットを開けると、そこに現れたのは横幅50cmほど、奥行き30cmほどの小さなユニット。これこそが第3世代eアクスルで、2021年8月にアイシンのパワートレインカンパニーの中に設立された「PT(パワートレイン)先行開発部」が開発したものだという。

eアクスルの小型化が進めば居住空間や荷室空間が広がるだけでなく、これまでは体積があるエンジンや電動ユニットを収めるために必要だったスペースが不要になるということで車内外のデザインの自由度が増すなど、クルマの新しい価値がどんどん生まれることになるだろう。

実際にドライブしてみても、アクセルを踏んだ瞬間にトルクが立ち上がり、スムーズに加速していく特性はBEVそのもの。第3世代eアクスルが正式にリリースされるのは2027年のようだが、現状でも十分な完成度だと感じた。

カーボンニュートラルの実現が本格的に叫ばれるようになる遥か以前の1980年代から世界に先駆けてクルマの電動化技術の開発を続けてきたアイシン。同社は2016年9月にeアクスルの開発をスタートさせ、2019年にはデンソーと共同で新会社「BluE Nexus」(ブルーイーネクサス)を立ち上げ、eアクスルの開発をさらに加速させている。

需要のさらなる拡大が見込まれるこの分野には、現在、多くのサプライヤーが参入しており、競争は激化している。今回の試乗会では、eアクスルをはじめとする電動化新技術の進化具合がアピールされると同時に、ATをはじめとする自動車技術を強みに、同社のサプライヤーとしての生き残りをかけた意気込みが伝わってくるものだった。

《加賀啓伺》

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