ポルシェは「体験」でファンを増やす…日本法人ヴィッツェンドルフ社長[インタビュー]

ポルシェジャパンのフィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ 代表取締役社長
ポルシェジャパンのフィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ 代表取締役社長全 14 枚

7月1日付けでポルシェジャパン代表取締役社長に就任した、フィリップ・フォン・ヴィッツェンドルフ氏。今回ポルシェ・エクスペリエンスセンター1周年(千葉県木更津市)を記念した式典において初めてメディアの前に登場した氏に、現在の心境や今後について話を聞いた。

◆夢を持つ人たちに向けて

「最近日本に引っ越して来ましたが、まさに日本にフォールインラブです」と日本の印象を語り始めるヴィッツェンドルフ氏。「様々な美しい土地に出かけたり、これからも日本という国を勉強させていただきたいという気持ちです。妻は私よりも日本が大好きになりました。様々な文化などに触れながら、日本に来ることができた幸運をしっかりと経験したいと思っています」と家族そろって好印象を持ったようだ。

では、日本への就任が決まった時の気持ちはどうだったのか。「ワクワクしましたし、光栄に思いました。そしてとても幸運に思っています」とのこと。来日してみてそれまでの日本とはイメージが違っているところもあったようだ。それは、「思っていたよりずっと居心地がいいです」ということだった。

そして就任して3か月たった。日本の市場をどのように見ているのだろうか。「日本はまだまだ機会があると思います」とヴィッツェンドルフ氏。彼の目から見て日本は大きく2つに分かれているという。1つは、「軽自動車やタクシーなども含めて、クルマそのものを気軽に使うシーンが見られます。その中には通勤でクルマを使っている方もいらっしゃいます」と説明。そしてもう1つは、「スーパーカーやラグジュアリーカーなどを含めてどんなクルマでもいいんですが、このクルマが欲しいと夢を見る気持ちが強くあるんですね。特に後者はかなり情熱的です。例えばポルシェのようなクルマをいつかは持ってみたいという夢が非常に強いのです。そういった日本市場でポルシェブランドの一員であることを誇らしく思っています」という。

そして夢を見る人たちに向けてヴィッツェンドルフ氏は、「夢は絶対に諦めないでください。私も夢を持っていますし、みんな持っています。実現するものもあれば、叶わないものもありますけれども、諦めてしまったら、それは当然叶わないものです。だからネバーギブアップです」と強くコメントしていた。

さらにポルシェジャパンとしても、「例えばポルシェ・エクスペリエンスセンター東京などの設備がありますので、いつかポルシェを所有してみたいと夢を持っている皆さんに、まずはブランドと出会ってポルシェを体験していただける良い機会だと思います。今すぐ買えなくても、これは絶対に欲しいと夢が強くなるでしょう。そういう経験をしていただきたいのです」と語った。

一方で日本でのポルシェユーザーはどういう特徴があるのだろう。これまで多くの国で働いてきたヴィッツェンドルフ氏の目から見て、「日本人の皆さんは、全体的にとても良いドライバーだと思います」という。それは、「安全に、そしてその先を予測できる、ということです。そして速く走れるドライバーですね」と述べる。また、「とてもポルシェを愛してくれています。自分のクルマに誇りを持ってますよね。それが私たちの誇りにもつながります」と日本という国同様高く評価していた。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京

◆体験してハッピーになってもらいたい

さて、ヴィッツェンドルフ氏は、グローバルでも業績が好調なポルシェを日本でどう率いていこうと考えているのだろう。

「まずは日本のお客様によりハッピーになっていただきたいんです。もっと台数を売りたいとかではなくて、お客様にもっとハッピーになっていただいて、素晴らしい体験をしてもらいたい。そうすることでポルシェのファンのコミュニティがますます大きくなれば嬉しいんです。もちろんそれでたくさんクルマが売れたら嬉しいのですが、だけどそこではないんですよね。本当にポルシェを体験してほしいんです」

「また、ポルシェにはいろんなブランドの神話もあり、それがどういうものなのか、皆さんご自身で体験してもらいたい。ポルシェにはレガシーがありますから、これまでの歴史に対しても責任があり、その責任をこれからも果たしていきたいと思っています。そのうえで、これからますます“驚異的に”素晴らしい瞬間を皆様に提供したいと思いますのでご期待ください」とまずはファン層を厚くするために、ポルシェを知り、体験してほしいようだ。その結果として台数がついてくると考えているのだろう。

その方向性は以前から続いており、例えば東京に「ポルシェスタジオ銀座」をオープンするなど体験型施設を増やしている傾向にある。それは今後も続くのだろうか。

「まず、日本全国に強力なポルシェのディーラー販売網がありますが、よりカスタマーエクスペリンスが重要なんですね。ですから新しいフォーマット、これまでのようにただ売るというディーラーシップのみならず、違うフォーマットを模索しています。それが体験型なんです。それは体験プラスディーラーでもいいし、小型のスタジオでもいい。あるいは一時的なポップアップやイベントの横に併設したりでもいいんです。もちろんエクスペリエンスセンターという考えもあります」

「このようにいろいろな形式があると思うので、ありとあらゆる可能性を今、実験的にトライしながら模索しています。その結果として最終的にはみんなを魅了したいんです。そして、ポルシェファンのコミュニティをますます大きくしたい。別にポルシェのオーナーじゃなくてもファンになっていただける。そういう方達皆さんを歓迎します」と積極的に体験型の施設を展開していく意向のようだ。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京

◆古いクルマや昔からのユーザーも大切にしながら

ポルシェの歴史は長く、日本においても1950年代に輸入が開始されているので70年程にもなる。その間、様々なモデルが多く輸入されてきた。当然当時からのオーナーやクルマ、そして近年輸入された新旧ポルシェも数多く存在する。そういった人たちへのアプローチも重要な命題だろう。

その点はヴィッツェンドルフ氏も認めるところで、「幸い、特に日本では新車とクラシックカーと両方あり、どちらも台数は多い。そして、古いポルシェだからといって昔からのオーナーだとも限りません。カスタマーも年配の方や30年、40年もオーナーでいてくださる方もいれば、若い方もいらっしゃいます。ですからポルシェのコミュニティに最近入りましたという次世代の方もいらっしゃるわけです」。

「ポルシェのクルマは決して安くはありませんので、20歳で買えるかというと、通常は買えない方が多いのかなと思います。でもそのくらいの年齢の方々にも私たちは注目しているんです。夢を持っていらっしゃいますから、その夢をどうやって実現してもらうかを常に考えています。そういった方々を含め、ブランドのエクスペリエンスを提供することによって、新しいお客様にも、顧客として同時に長くご愛顧いただいてるお客様にも価値を提供できていると思います」と述べ、現在のユーザーはもちろんのこと、将来ユーザーになってもらえるかもしれない人たちにも目を向けるなど、多面的なアプローチを考えているようだ。

また、ポルシェジャパンマーケティング&CRM部執行役員の前田謙一郎さんは、「クラシックのお客様に向けて、これまでポルシェジャパンとしてイベントをあまりやってこなかったという側面があります。そこで今夏東京で、空冷のポルシェを中心に20台ほど集めて“ポルシェガレージ”というイベントを開催しました。続いて10月2日にはポルシェガレージ京都を開催。こちらは空冷から最新モデルまで集めてのイベントでした。このようにポルシェジャパンでは、新しい人からクラシックな人までを集めてコミュニティを作ろうとしているのです」と活動状況を教えてくれた。

その一方でeスポーツへのスポーンサードなどアンリアルな世界にも積極的な取り組みをしている。中でもポルシェジャパンは、「Porsche Esports Racing Japan(ポルシェEスポーツレーシングジャパン)として、ポルシェカレラカップジャパンおよびポルシェスプリントチャレンジジャパンに続く、ポルシェ主催の3つめのワンメイクレースシリーズ(Eスポーツゲーム)を開催。昨年、シーズン1として初開催され、今年はオンラインだけでなくソフトウェアを持っていない人も参加できるようオフラインでの予選会も実施している。

今後はどのような方向性を持っているのか。「ポルシェは非常に革新的でイノベーティブなブランドです。もちろんトレンドが世の中には色々ありますから、まずはしっかり勉強してそれら評価していきます、実は私は前の仕事でeスポーツのプロモーションをしていました。ポルシェとeスポーツのコラボだったんです。これからもまだまだ積極的に取り組んでいくべき世界だと思っています」。前田さんも、「ソニーのグランツーリスモとコラボレーションしたモデル、『ビジョングランツーリスモ』を発表しています」とし、リアル、バーチャルの両面でより夢見るファンを増やすべく、展開していくことを示唆した。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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