九州から動態保存SLが姿を消す…100歳を迎える『SL人吉』のハチロク 2023年度限り

肥薩線を走行していた頃の『SL人吉』。
肥薩線を走行していた頃の『SL人吉』。全 4 枚

JR九州は10月24日、『SL人吉』を牽引している8620形58654号機の運行を2023年度限りで終了すると発表した。

俗に「ハチロク」と呼ばれている8620形は旧式の輸入蒸気機関車を置き換える目的で、1914年から1929年までに総勢687両が登場した旅客用の国産テンダー式蒸気機関車で、それまで海外に依存していた車両製造を国産で賄う意味で、同じ大正生まれの貨物用9600形と並ぶエポックメイキング的な存在だった。

幹線からローカル線まで幅広く運用できるように設計されたが、1930年代に入るとC11やC57、C58などの台頭により、次第にローカル線主体の運用となった。樺太庁鉄道や台湾総督府鉄道、北海道の北海道拓殖鉄道(1968年廃止)へ新製投入されたものもあったが、1975年度までに引退している。

58654号機は1922年11月に日立製作所笠戸工場(山口県下松市)で製造され、長崎県の浦上機関区を皮切りに、福岡県の若松機関区、熊本県の人吉機関区を経て九州一筋に走ったが、湯前線(現在のくま川鉄道)での運行を最後に1975年3月に廃車。その後は肥薩線矢岳(やたけ)駅(熊本県人吉市)横の人吉市SL展示館に静態保存されていた。

しかし、JR九州発足後の1988年7月に車籍が復活し、同8月に豊肥本線熊本~宮地間の『SLあそBOY』で運行を再開。JR九州における観光列車の黎明期を飾った。

営業運行を行なっているJRの動態保存SLとしては唯一の大正生まれということで注目度は高かったものの、2005年8月には老朽化による歪みが目立ってきたことから『SLあそBOY』での運行を終了したが、その後も復活を望む声が高く、JR九州としても観光列車として活用する道を模索するべく除籍を回避し、台枠を新製するほどの大改修を施した上で、2009年4月、肥薩線を含む熊本~人吉間の『SL人吉』で再度の復活を果たした。近年では令和2年7月豪雨の影響で肥薩線を走ることができなくなり、鹿児島本線鳥栖~熊本間がおもな舞台となっていた。

まもなく100歳を迎える8620形58654号。8620形の場合、8700形がすでにあったため、81号機以降(本来なら「8700」という番号になる車両)から万の位を与えて、80両ごとにそれを繰り上げて付番する特殊な番号となっていた。まもなく100歳を迎える8620形58654号。8620形の場合、8700形がすでにあったため、81号機以降(本来なら「8700」という番号になる車両)から万の位を与えて、80両ごとにそれを繰り上げて付番する特殊な番号となっていた。

2022年11月には製造から100年の節目を迎えることになるが、残念なことに、部品の調達やメンテナンス要員の確保が難しくなってきたとして、JR九州は運行継続を断念。九州から動態保存SLが消えることになった。

なお、JR九州では58654号機の100歳を記念したイベントを11月18日に八代駅(熊本県八代市)で開催するが、これに合わせて「SL人吉 58654号機百歳号」が熊本~八代駅で運行されることになっている。

鹿児島本線熊本~鳥栖間を走行する『SL人吉』編成。鹿児島本線熊本~鳥栖間を走行する『SL人吉』編成。

時刻は、熊本10時21分発~八代11時16分着・12時10分発~熊本13時4分着で、58654号機は八代方に連結される(熊本方にはディーゼル機関車を連結)。

このほか、同区間では観光列車の特急『いさぶろう1号』(熊本10時55分発~八代11時26分着)、特急『しんぺい4号』(八代12時発~熊本12時33分着)も運行される。

道路のすぐ脇を走ることもあった肥薩線の『SL人吉』。道路のすぐ脇を走ることもあった肥薩線の『SL人吉』。

《佐藤正樹(キハユニ工房)》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  3. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 「三菱っぽくないけどカッコいい」ルノーの兄弟車となる『エクリプス クロス』次期型デザインに反響
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る