カーボンニュートラル時代のMaaSと自動車業界…計量計画研究所 理事 牧村和彦氏[インタビュー]

カーボンニュートラル時代のMaaSと自動車業界…計量計画研究所 理事 牧村和彦氏[インタビュー]
カーボンニュートラル時代のMaaSと自動車業界…計量計画研究所 理事 牧村和彦氏[インタビュー]全 1 枚
12月9日にオンラインセミナー「脱炭素社会のモビリティ戦略2023」が開催される。スピーカーはMaaS分野の識者のひとり、一般財団法人計量計画研究所 理事 兼 研究本部 企画戦略部長の牧村和彦氏だ。今回はセミナーの見どころについて聞いた。

自動車業界はモビリティカンパニーになっていく

MaaSやモビリティビジネスは、自動車業界とも関係が深い。従前より、自動車業界はスマートシティやMaaS関連の実証実験参加や委員会に名を連ねている。しかし、その一方でメーカーにとってはなかなかビジネスにならないという現実もある。ビジネスに直結しないので、「企業としてのやっている感」を出していれば十分という考え方でいないだろうか。

一理あるが、それでは100年に一度の変革期に対応できない。市場や社会が変わっているというのに、製造業だけ同じビジネスを続けていてよいとは限らない。牧村氏は「これからの自動車業界は、車を所有していない人も顧客として考える必要がある」と警鐘を鳴らす。

高齢化は先進国共通の悩みだ。免許人口やドライバー人口の減少圧力は強い。絶対数ではオーナードライバーの数は多数派を占める時代は続くが、シェアリングやサブスクリプションのような所有(利用)形態は車両販売のみのビジネスに影響を及ぼすだろう。

「今後はサブスクリプションで車を保有する人、シェアリングやサービス利用で車を所有する必要を感じない人などが増えるはずだ。世界の自動車メーカーは、移動を対象としたビジネスにも目を向けてモビリティカンパニーになる必要がある。」(牧村氏:以下同)。

脱炭素はEVにすれば済む話ではない

自動車産業のモビリティビジネスシフトは、人口問題やシェアリングエコノミーのような社会的な変革だけで進んでいるわけではない。

カーボンニュートラルは、車を電動化するだけで達成することは不可能だ。自動車産業もEVを作るだけでは顧客や投資家の理解は得られない。これもモビリティ産業への取り組みを拡大させる要因となっている。

EVだけを作っていればいいわけではない、というと、水素やHVなどのマルチパワートレインの全方位戦略が思い浮かぶ。しかし、そもそも自動車ライフサイクルでのCO2削減だけでは、IPCCや世界が主導するカーボンニュートラルは実現不可能だ。エネルギーから物流などを含めた産業構造の転換、企業・消費者の行動変容が求められている。

EVや電動化はひとつのソリューションだが、それも自動車だけではなく航空機・船舶・鉄道・バス・タクシー、そして物流トラックやラストマイル輸送など、交通・物流手段全般を含めた移動で考える必要がある。

「たとえば、ロンドンでは市内の2階建てバスをすべてEV化する計画を発表している。フランスでは市内のバスやトロリーのEVバス、電化が進んでいる。道路上には普通充電スポットが設置されている。アプリで借りられるレンタルバイク(自転車)は西ヨーロッパの各地で市民の足となっている。EUでは、8段階評価のエネルギークラスAかBの車両の侵入を許可しないエリアも増えている。」

重要なのは、EU各国のメーカーはこの状況を新しい市場としてポジティブにとらえ、積極的に投資していること。

EUにおいて、EVバス、連節バスの多くは自国もしくはEU圏内のバスメーカーによって開発・製造されたものが走っている。物流トラックやラストマイル輸送の商用バンも、ダイムラー、ボルボトラックス、フォルクスワーゲンがEV化を進めている。

モビリティビジネスは地域ごとに答えがある

日本は特殊な交通事情、エネルギー事情があり海外のようにはいかない。MaaS市場も海外より盛んではない。したがって、企業は移動ビジネスを絡めた温暖化対策や新市場への投資を慎重にならざるを得ない。もっともな意見に聞こえる。

だが、本来MaaSや移動ビジネスは地域のニーズや状況に強く依存するものだ。海外の成功事例や各地の実証実験、特区の試みをそのまま各地に展開できるものではない。日本ではスマートシティとともに実証実験が盛んだったため、パイロットを各地に展開することがゴールのように誤解されていたかもしれない。

「海外のMaaS事例は、エリアや地域に特化したもので、展開している事業者も地域の交通事業者やサービスプロバイダーが多い。移動や交通手段は、地形や街づくりに依存するものなので、本来MaaSはエリアごとに事業もサービスも異なる。日本でも、自治体ごとに交通の課題に取り組むためのMaaSが広がっている。自治体ごとに地元の事業者が展開していると目立ないかもしれないが、日本のMaaSも着実に進んでいる。」

モビリティビジネスにおける自動車メーカーの強み

地域ごとの取り組みはビジネスとしてスケールしないと考えるかもしれない。この点について牧村氏はMaaSの潮流には人間中心とデジタル化の2つがあるとして、次のように述べる。

「人間中心とは利用者目線という言葉に置き換えることができる。ようはメーカーや事業者の都合でサービスを考えるのではなく、利用者にとって最適な移動、体験を考える必要がある。それを実現するにはデジタル化が欠かせない。デジタル技術とビッグデータは、マッチングアプリや配車サービスの精度と効率を最大化するだろう。MaaSにおいて車両のデータを持っているメーカーは、重要なMaaSプレイヤーになれる。カーボンクレジットや排出権の考え方では、移動のCO2排出および削減量がマネタイズを含む付加価値を生む。GAFAがMaaSや自動運転に注目しているのはこのためだ。自動車メーカーとしては、逆に積極的にこの市場に関与することで、海外プラットフォーマーの進出を牽制する必要がある。」

言い方を変えれば、MaaSやモビリティの視点を持たない自動車メーカーは、プラットフォーマーにとってただの「移動デバイスを供給するメーカー」になってしまいかねないということだ。

牧村氏が登壇する【オンラインセミナー】脱炭素社会のモビリティ戦略2023は12月9日に開催される。詳細・お申込はこちらから。

《中尾真二》

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