【MaaS体験記】自動運転バスBRTの隊列走行…JR西日本とソフトバンクの実証実験

自動運転・隊列走行BRTとは

自動運転・隊列走行BRTの試乗体験

自動運転バスBRTの実用化へ

地域の交通課題の解決に取り組む

専用道の整備など走行環境の課題

雨の中自動運転・隊列走行中の連節バス(右)、大型バス、小型バス(左)
雨の中自動運転・隊列走行中の連節バス(右)、大型バス、小型バス(左)全 12 枚

今回の取材は、西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)とソフトバンクが、滋賀県野洲市に整備した専用のテストコースで、自動運転・隊列走行BRTの実証実験の取り組みだ。実証実験は、2021年10月から開始しており、車種の違う3台の自動運転バスに実際に試乗して取材してきた。

◆自動運転・隊列走行BRTとは

自動運転・隊列走行BRTの特性は、ちょうど鉄道と路線バスの中間くらいに位置すると説明された。BRTとは、バス・ラピッド・トランジット(Bus Rapid Transit)の略で、バスを基盤とした大量輸送システムだ。今回は、自動運転・隊列走行をすることで、複数台のバスを柔軟に組み合わせや解除を可能にし、ドライバーを増やさずに輸送人数の変動に対応する。JR西日本はソフトバンクと連携することで、まちづくりと連携した持続可能なモビリティサービスを目指す。

2021年10月に「MI-NNA(みんな): Mobility Innovation - Next Networked Action」の自動運転BRTプロジェクトが始動。JR西日本のモビリティ運行のノウハウとソフトバンクの通信ネットワークの技術ノウハウを組み合わせることで、2020年代半ばを目処とした社会実装を目指す取り組みだ。

車両3台のドア開閉も自動化車両3台のドア開閉も自動化

◆自動運転・隊列走行BRTの試乗体験

小雨降る野洲駅、自動運転車両はこれまでにも試乗したことがあるが、今回は日本初となる連節バスの自動運転および車種の異なる3台のバスによる隊列走行ということで、昨年設置された野洲テストコースで行われた。野洲テストコースは、コース総延長約1.1kmあり、これを1.5周走行する。走行する車両は、種類の異なる3台で、連節バス、大型バス、小型バスとがある。

自動運転・隊列走行用の車両装備は、車両前方にLiDARセンサ・カメラ、ステレオカメラ、LiDARセンサ・ミリ波センサがあり、屋上にはGNSSアンテナ、カメラがある。床下には磁気センサ・RFIDリーダがあり、積雪などでも識別できる磁気マーカーが走行車道には埋め込まれている。隊列走行時の車間距離は10~20mほどで、後続車両には協調型車間距離維持支援システム(CACC)追随する仕組みだ。

自動運転・隊列走行用の車両装備の説明風景自動運転・隊列走行用の車両装備の説明風景

まず、先頭車両から後続車両に車内アナウンスがあり、ドアを開閉する。システムを連携することで後続車両にドライバーがいなくても操作が可能になる。そこから実際に連節バスに乗り込み、自動運転・隊列走行を車内から体験した。車内には専用モニターがあり、前方の対象物を識別している様子がうかがえる。当日は雨が降っていて視界が相当悪かったが、センサにより識別できている様子がわかり安心できる。

車内にある専用モニターで車両周辺の対象物を識別する車内にある専用モニターで車両周辺の対象物を識別する

運転手は、本実証の自動運転システムを担当する先進モビリティ(ASMobi)の方が担当していた。自動運転のため、ハンドルは軽く手を添える程度で走行が開始。走行中は、磁気マーカーが埋まっているコースを加速や減速をしつつ直進やカーブで走行する。隊列走行の実証実験になるため、後続車も同じように加速や減速をし追従するが、3台がまとまって走行するため、3台目がカーブを終えないと先頭車両は次の加速ができないようだ。テストコースの直線最長は約600mあるが、3台分の長さなどを考慮すると、もう少し長い直線距離があると良いように感じた。最高速度も時速25km程度のため、ゆったりとしたペースでの周回だった。

周回風景周回風景

連節バス、大型バス、小型バスとそれぞれ試乗したが、乗車体験としてはとくに変わりはなく、ただ連節バスのみ先頭車両ということで、後続車両の車内モニターなどが設置されていた。車内監視には、BOLDLYの監視システムが使われており、将来、先頭車両のみ有人ドライバーにして、後続車両をドライバーレスにすることが可能になることがわかる。

隊列走行中の運転席隊列走行中の運転席

◆自動運転バスBRTの実用化へ

本実証に参画している先進モビリティ(ASMobi)は、2022年12月5日からJR東日本と気仙沼線BRT柳津駅から陸前横山駅間にて自動運転バスの実用化を開始する。今回の複数台の隊列走行とは異なるが、同システムを採用した自動運転バスの実用化は、大きなマイルストーンとなる。

この自動運転バスの実用化にあたっては、BRT専用道の整備が急務だ。先に紹介した磁気マーカーによる自車位置推定技術がその一つだが、複数台の隊列走行となると、乗降車場所(バス停)の整備もそれに合わせて必要になるだろう。ドライバーレスで一般車両と一緒に一般道を走行する未来はまだ先になりそうだが、このJR西日本・JR東日本が挑むBRT自動運転には期待が大きい。

◆地域の交通課題の解決に取り組む

ソフトバンク執行役員法人事業統括付(鉄道事業推進本部担当)の永田稔雄氏からは、ソフトバンクの成長戦略「Beyond Carrier(各産業界やさまざまな分野の課題解決をしていく戦略)」のなかで、今回の地域交通の課題を解決していくJR西日本との実証実験の取り組みは意義があるものだとし、JR西日本が国鉄と呼ばれていた時代に、ちょうど国営の通信会社であった同社の歴史とも重なると話す。

鉄道開業150周年を迎えたJR西日本鉄道本部理事イノベーション本部長の久保田修司氏からは、社会課題として人口減少や少子高齢化などがあるが、鉄道だけで本当にそれらに太刀打ちできるのかといえば、そうではないとし、地域に合ったモビリティサービスが望まれるだろう、と話した。その選択肢のひとつに、今回の自動運転・隊列BRTはなりえるとして、輸送規模の適正化だけではなく、ドライバレスなど労働力の課題を解決する取り組みに育てていきたいと話した。

現在、どの路線でも共通する基本構成を備えたテストコースでの検証段階であり、今後は社会実装を見据えて独自の路線に対する検証も必要になってくる。今後は、関心をもつ自治体や事業会社とそうした一定の条件下のもとで自動運転・隊列BRTを実証できるよう進めてく考えだ。

JR西日本鉄道本部理事イノベーション本部長の久保田修司氏(左)とソフトバンク執行役員法人事業統括付(鉄道事業推進本部担当)の永田稔雄氏(右)JR西日本鉄道本部理事イノベーション本部長の久保田修司氏(左)とソフトバンク執行役員法人事業統括付(鉄道事業推進本部担当)の永田稔雄氏(右)

◆専用道の整備など走行環境の課題

2022年5月に、大阪・関西万博の実験会場で体験した自動運転バスが小型だったことを振り返ると、今回の自動運転バスは、車両も大きく隊列走行になるため大量輸送が可能になる。ちょうどバスと鉄道の間と表現されていたが、問題は車両というより、走行環境・インフラのほうだろうと感じた。

今回はハイブリッドでEVではなかったが、EVも同様で、車両ではなくインフラ(充電場所)の問題のほうが大きい。今回の自動運転・隊列BRTでいえば、専用道の整備および乗降場所や停車スペースの整備がそれにあたるだろう。また今回は、車両間通信で実現していたが、複数台でシステム連携するためには、通信インフラも必要になってくる。さらに、後続車をドライバレスにするためには、自動運転レベル4が必要条件になってくるなどを考えると、とても個別の取り組みだけでは社会実装はなかなか難しいようにも感じた。

今回の自動運転・隊列BRTは、大阪・関西万博での運行は具体的には計画はないと説明されたが、むしろそうした特別な空間をできるだけ利用して、主要事業者どうしで一斉に取り組むほうが社会実装へは近道のように思えるのだが、どのように発展していくのか今後も注目したい。

とくに、この自動運転分野については、車両や技術革新という視点ではなく、社会実装やサービス商用化などの視点で見ていくべき課題のように感じた。

■3つ星評価

エリアの大きさ★☆☆
サービスの浸透★☆☆
利用者の評価★★☆
事業者の関わり★★★
将来性★★☆


坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長
グラフィックデザイナー出身。

2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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