2030年自動車産業にこれから起こる潮流 – 日本総研 シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]

2030年自動車産業にこれから起こる潮流 – 日本総研 シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]
2030年自動車産業にこれから起こる潮流 – 日本総研 シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]全 1 枚

12月13日に開催する無料オンラインセミナー「2030年自動車産業にこれから起こる潮流」に登壇し同テーマで講演する、株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャーの程塚正史氏にセミナーの見どころを聞いた。

セミナー概要
2030年自動車産業にこれから起こる潮流
開催日時:2022年12月13日(火)13:00~16:00
申込締切:2022年12月9日(金) 12:00
参加費:無料
セミナーの詳細はこちらから

センシングとHMIが重要

---:今回のセミナーのテーマは、「2030年自動車産業にこれから起こる潮流」ですね。

程塚:はい。自動車産業にこれから起きる潮流を一言で表現すると「自動車 DX 」という言い方ができると思います。車の利用価値が変わる、製品構造が変わる、ビジネスモデルが変わる、ということを示しています。

自動車 DXが既に顕在化しつつあるものとして、自動運転があります。自動運転のシステムが車に搭載されることで車の利用価値が変わる。また、「走る、曲がる、止まる」を楽しむものではなくなり、快適に移動できるという価値を提供するものになります。

製品構造も、トヨタのe-Paletteをはじめとして直方体のシャトルのコンセプトカーがいろいろと出ているように製品の仕様が大きく変わったり、ビジネスモデルも売り切り型ではなく、地域でシェアされるような車になるなど、自動運転の流れを受けてこういった自動車 DX が起きるのだという捉え方が一般化しています。

もう1つ起きるであろうと考えているのは、情報系のシステムを起点にした変化です。自動運転が実装されるに当たって、車外環境をセンシングするためのLiDARが搭載され、カメラが搭載されるようになっています。

それと同時に、自動運転レベル3においては、運転者からシステム、システムから運転者への権限移譲を想定した運転者のモニタリングが必要になるので、表情分析のシステムや、場合によってはバイタルサイン(*)を取得する仕組みが実装されつつあります。

*バイタルサイン:呼吸や心拍、脈拍、体温、発汗など人の体から取得するデータ

こういった表情分析やバイタルサインを取る仕組みを、運転の権限移譲のためだけに使うのはもったいないという話にどこかのタイミングで必ずなり、他のことにも使っていこうという話になる。

そして先ほどLiDARやカメラが車外のセンシングと申し上げましたが、これも自動運転のためだけに使うのではなく、もっと他にも使っていこうという話に、どこかのタイミングで必ずなってきます。おそらくそういう検討はいろいろなところへ進んでいて、その事例として例えばトヨタ紡織のMOOX(*)などがあります。

*トヨタ紡織 コンセプトカー MOOX https://tech.toyota-boshoku.com/ces2022/MOOX.html

あとはセンシングだけではなく、HMI機能の進化もあります。車の窓がディスプレイになり、オーディオがソフトウェアで制御できるようになり、触覚とか嗅覚の制御機能が出てくることで、空間という特性を生かした情報系コンテンツがリッチになってくることを想定しています。

なので、ソフトウェア・ディファインド・ビークルといったときに、自動運転のソフトウェアというだけではなく、コンテンツのためのソフトウェア、両方の意味でSDVという世界になってくると捉えています。

コンポーネントとソフトウェアによる価値

程塚:SDVの時代になった時に、自動車産業界はおそらくスマイルカーブ化という傾向が出てくると考えます。完成品の価値が相対的に下がって、完成品から見た川下や川上の価値が相対的に上がってくるというものです。

川下というのがここではソフトウェアであり、ソフトウェアを使ったサービスになります。そして川上は、特に情報系の DXという文脈で大事になってくると思いますが、ソフトウェアの制御を受けるのは車そのものではなく、実は車を構成するコンポーネントであり、シートやディスプレイや香りの制御という世界になってくる。なので SDVになったときに大事になるのは、車全体ではなくてソフトウェアの制御を受けるコンポーネントだという話になり、車全体よりも個々のコンポーネントの価値が向上してきます。

ですので、個々のコンポーネントメーカーにとっては、自社の製品や技術を使ってどんなことができるかを考え、価値を創造するという世界になると捉えています。

このように、川下だけではなく川上も相対的な価値が上がってくる流れがあり得ることを想定しておく必要があると捉えています。

---:先ほどのMOOXも、川上の価値創造の一例ということですか。

程塚:そうです。シートというコンポーネントを起点としつつ空間全体の価値を構想するというスタンスが可能であることを示しているのではと捉えています。端的に、川下はソフトウェア、川上はHMI機器とセンシング機器、これが重要になります。このHMIやセンシング機器を持っているメーカーの重要性が高まります。

---:川上と川下の組み合わせで新しい価値が創造される、ということですね。

程塚:SDV ということで、ソフトウェアが大事なんだ、これが価値を取っていくんだ、Google がやっているじゃないか、Apple がこれから来るぞという話になるし、中国でいえばファーウェイが今すごい勢いで自分のブランドを作っているという話になっていきます。

川上のプレイヤーも、ソフトウェアが重要になることで利益率が下がるのではないか、という危機感のほうが強い。ただ一方で、自社のコンポーネントを使えばこんなことができると発信していく良い機会だという捉え方もできるのかと思います。

e-PaletteやNAVYA、バイドゥーの車もそうですが、自動運転の車になると何でもかんでも直方体のがらんどうの車になったときに、良くも悪くも車の足回りの重要性は下がり、コンポーネントのほうが大事になるとなったら、むしろ直方体の車になったときの価値の源泉はコンポーネントメーカーにあるという世界になるはずです。

ロングテール化するアプリケーション

程塚:川下側ではソフトウェアが大事になるといった時に、もう少しソフトウェアを分解して考える必要があると捉えています。OS レイヤー・ミドルウェアレイヤー・アプリケーションレイヤーとなったときに、アプリケーションレイヤー以外のところは、キラーとなるようなソフトウェアが独占、寡占するような状況になるというイメージでいます。

これは駆動系にしても情報系にしても同じですが、一定の精度を求めるというようなシステムがそこでは求められるはずで、そうなると作れるプレイヤーが限られてきます。

だから、運転支援システムは特定の一部企業が作るという話になりますし、情報系では、視覚的な刺激についてはこの会社、聴覚的な刺激はこの会社のシステム、など、いくつか限られた会社がそのシステムを提供するという構造になると思います。

なので、自動車メーカーとしては、そういったシステムを提供する人との連携が大事になって、自動車業界としては、システムレイヤーのプレイヤーに価値の源泉が奪われていくことが、今危惧されているのかと捉えています。

一方でアプリ層は、ロングテールの世界になるという認識です。車の中でこんな体験ができたらいいという話を、独自に構想して独自に作るというサードパーティが、これから出てくるはずです。

車のメーカーとしても、サードパーティのコンテンツを使うことで、車の中での体験価値を上げることができると考えています。これからアプリ層でのロングテール化が進んでくるのではないかと考えています。

程塚氏が登壇するオンラインセミナー「2030年自動車産業にこれから起こる潮流(無料)」は12月13日開催。
セミナー詳細・お申込はこちら。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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