2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)は、日産『サクラ』/三菱『eKクロスEV』に決定した。軽自動車の受賞は初めてのことでK CAR オブ・ザ・イヤーとW受賞という快挙だった。
今回は、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーにヒョンデ『アイオニック5』、デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーにBMW『iX』が選出され、日本市場のEVシフトの始まりを象徴するかのような出来事だった。
今回は、販売も好調な日産サクラをテーマにBEVを評価する「軸」について考察してみる。自動車関連メディアでは、従来のエンジン車での評価軸、評価項目を継承してBEVを評価している記事も多いが、BEVとエンジン車ではそもそも「ものさし」が違うのだ。
◆クルマ評価の2つの「軸」とは
筆者は、自動車業界に30年以上身を置いている。故に、エンジンの音、オイルの匂い、排気音といったものにも愛着を感じる、いわゆるクルマ好きの一人である。しかしながら、テスラをはじめとするBEVの魅力も捨てがたいと感じている。なぜなら、エンジン車と、BEVでは、「クルマを評価するものさし」が全くと言ってよいほど異なるからである。
「ものさし」が違うというと、「あぁ、センチとインチのような違いでしょう」と思われる方も多いと思うが、ここで言う違いは、そのような「長さという視点(軸)は同じで単位系が違う」という違いではない。例えて言えば、「ステーキと刺し身を評価する指標」といった表現が近いかもしれない。つまり、「評価する対象の特性が全く違うため、評価する『軸』を変える必要がある」ということである。
これまで、エンジン車の場合、クルマの価値は「走る・曲がる・止まる」という基本性能、「安心・安全」といった安全性能、「燃費・排ガス対策」などの環境性能、そして「乗り心地・操縦性」などの感性性能で評価されることが多かった。
エンジン車は、動力源をエンジンという複雑なメカニズムの回転機器に依存する。エンジンは、十分なトルクを得るためには回転数を上げることが必須となり、適度な回転域を維持しながら車速を制御するためには、多段の変速機が必須となる。スムーズなエンジン回転の上昇、変速ショックのない変速機など、心地よい加速を得るための開発項目は多く、結果として、エンジンや変速機のフィーリングがクルマの印象を決めてしまう。
対してBEVの場合、動力源はモーターとなる。モーターは低速から十分なトルクを発生可能なので、高速域にこだわる高級BEVを除けば変速機は不要となる。つまりエンジン車で開発に苦労したフィーリングの部分は、BEVではほぼ皆無と言ってもよいほど軽減される。
これは「スローフード的なエンジン車」と「ファストフード的なEV」という感覚に近いかもしれない。3万個に近い精密な機械部品で構築され、さまざまな運転状況において、出力・排ガス・燃費という、相反する要件を高次元にバランスさせた動作点を、エンジン適合という職人技でつくりあげるエンジン。それはまさに職人が丹精込めてつくるスローフードである。対照的にEVは、少し乱暴に言えば、モーターを選定しそこに流す電流を決定すれば、それで基本的な部分は完了する。つまり、ファストフードだ。
スローフードとファストフードという喩えを使うと、日本人的な価値観では、「どちらが正しいのか」または「どちらが良いのか」という議論になりがちであるが、実際には「違う」ことを理解することが重要であり、全く違うものを比較しても意味はない。