ソニー・ホンダ新会社がめざすのは「クルマというよりモビリティの進化形」、キーパーソンが語った

ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役社長兼COOの川西泉氏(左)と代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏(右)
ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役社長兼COOの川西泉氏(左)と代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏(右)全 16 枚

今、日本で最も注目を浴びているEVメーカーが「ソニー・ホンダモビリティ」だ。年明けのCES2023では新たな動きが予想されている。そんな新会社のキーパーソンとなる代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏と、同代表取締役社長兼COOの川西泉氏の2人に話を聞いた。

事の発端は2020年1月に、米国ラスベガスで開催された「CES2020」に遡る。この時に開催されたプレスカンファレンスでソニーは初のEVコンセプト『VISION-S』(当時)を発表し、メディア関係者の間では騒然となった。流麗かつ堂々としたボディとソニーならではのエンタテイメント技術が盛り込まれ、すぐにでも販売できそうな完成度を見せていたからだ。

CES 2020で初公開されたソニー「VISION-S」CES 2020で初公開されたソニー「VISION-S」

その後、ソニーは欧州での走行試験の様子や、各エリアごとにコンセプトカーを配備するなどその本気度を内外に示し、CES2022ではSUV版のEVコンセプト『VISION-S 02』を発表。ここではソニーがEV販売を目指して新会社設立することも明らかにされた。そうした中で迎えた3月、ソニーとホンダが新会社「ソニー・ホンダモビリティ」を設立することを発表し、世間をアッと驚かせた。

そこから6月に両社は設立に関する合弁契約を締結。出資比率も互いに対等となる50%ずつとした。そして、10月には新会社での具体的な行動計画が示され、2025年前半には第一弾となる新型車を発表し、同時にオンラインでの受注を開始。デリバリーは26年にも北米からスタートして26年後半には日本への展開を計画するとした。また、ここでは欧州での展開も視野に入れていることも明らかにされている。

そして、次なる発表の場となりそうなのが、2023年1月4日(現地時間)にソニーがメディア向けに公開するCES2023のプレスカンファレンスだ。10月の行動計画発表の場ではスクリーンにティザー広告っぽい動画と共に「January 4, 2023 in Las Vegas」の文字を投影。これはソニー・ホンダモビリティがこの場で何らかの発表をすることを示すものに他ならない。インタビューはそんな状況を踏まえてのこととなった。


移動時間の過ごし方の価値はますます高まる

まず話を聞いたのは社長兼COOである川西泉氏。1986年にソニー入社後、一旦はプレイステーションで知られるソニー・コンピュータエンタテインメントに出向。2008年にはSuicaでお馴染みのFeliCa企画開発部門長を務め、電子決済の流れを導いた立役者でもある。その後、AIロボティクスビジネスグループ長として「aibo(アイボ)」を担当し、いわば自動運転にもつながる経験を深く積んできた。

ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役社長兼COOの川西泉氏ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役社長兼COOの川西泉氏

---:ソニー・ホンダモビリティはどんなクルマづくりを目指しているのでしょうか?

川西泉氏(以下敬称略):クルマというよりモビリティの新たな進化形をどう作り出していくのか。ここに興味があり、従来とは違うクルマにしたいという気持ちが強くあります。クルマは走り以外の楽しみ方も必ず出てくると思っていますし、それを実現するのが将来の自動運転技術で、そういった技術に支えられて新たな価値が出てくる。そこにソニーが持つエンタテイメント技術、コンテンツとか、そういったものが活かせるんじゃないかと思っています。

---:これまでクルマにおけるエンタテイメント機能は+α的な要素でしかありませんでした。今後はその楽しみ方ができるからクルマに乗ることになるんでしょうか。

川西:(クルマにとって)移動そのものは大事なことですし、もちろん、これからもなくなることはありません。しかし、ワープするわけじゃないからそれに要する時間をどう過ごすかとの課題は残ります。そこに我々は価値を探していくことになるんです。もちろん、そこには運転を楽しみたい人や、運転を面倒と思う人もいるわけで、同乗者が隣に座って寝ているだけというケースもままあります。その時間を新たな広がりとしてどう考えるかが重要になると考えていますし、そこに需要は必ずあると思っています。

---:そうした中で登場するクルマは価格面でも高そうな高付加価値なものになりそうという印象を受けます。個人的にはソニーがやるならウォークマン的なカジュアルなクルマをイメージしていました。

川西:自分たちがやりたい、こういった機能を入れたい、あるいはもっとIT技術をふんだんに取り入れたいとなれば、価格面で安くすることはできないでしょう。価格と調整しながら開発することで中途半端な製品にはしたくないのです。モビリティを新たに成長させる、進化させるためにはそれなりの投資もしたいですし、まずは自分たちが実現できるものを作ってみて、そこから生まれた技術や経験からコストダウンが進んで普及できるものを作っていく。そんな流れを考えています。

高性能SoCの採用はITのカルチャーとして堅持

---:エンタテイメントを車内で楽しむには自動運転はレベルが高いことが理想的ですが、現実は難しい。当面は「レベル2+」といった技術で展開する考えはあるのでしょうか?

川西:自動運転は人から信頼されるようになることが何よりも大事ですし、そこに慣れ親しむ時間が必要だと思っています。ただ、その実現には技術的にも法規上も時間がかかる。しかし、実際は未来の運転感覚を一般の人に普及させることが大事だと思っているので、まずは「レベル2+」といったところで、自動運転に慣れ親しんでもらい、互いに信頼関係を築き上げていくことが重要です。たとえば、自動運転技術の進化自体をエンタテイメントにして互いが理解できるようになれば、このクルマはここまで認識できるんだということがより分かりやすくなり、それはそれで楽しいし、興味も湧いてくるでしょう。そうやって互いに信頼性が生まれてくるのだと思います。

---:新会社設立発表会において、800TOPS以上(1秒当たり800兆回以上)の演算性能を発揮する高性能SoCを採用すると述べました。これはアップデートしても高い処理能力を維持し続けられることを想定してのことだったのでしょうか。

川西:そこはITのカルチャーなんです。僕らは普通に当たり前だと思っていても、自動車を作っている人にとっては普通ではないこともあります。そのカルチャーギャップを埋めるためにもそこの重要性を意識的に説明したつもりです。今見えていないものに対して、どれだけの可能性を示せるのかだということですね。でないと(オーバースペックとして)コストカットの対象になってしまいかねません。そうなると、その時は良くても将来的に何も対応できないクルマになってしまう可能性が出てきてしまいます。そんなクルマ作りはしたくないのです。

---:OTA(Over The Air)の運用について、5Gでの運用をアナウンスされていましたが、現状で普及しているLTEでの対応も考慮されていくのでしょうか。

川西:ネットワークの普及は今後も継続されていかなければならないものです。5Gに必要性についての質問のようですが、3Gから4Gになったときも、そんなの必要あるのかとの意見はあったはずです。でも、いつの間にか、みんなはそれに慣れてきてしまっています。人間は良いものに慣れると後戻りはできません。車載として考えれば、なるべく広帯域のネットワークが欲しいというニーズもあります。クルマでは厳密に言えば常時接続はしておらず、それでもコネクテッドとして成立する技術の進化はやっておくべきと思っています。今後、クルマはV2Xでコネクテッドの重要性はますます高まってきますし、つながる先(IoT)を増やしておくことも必要だと思っています。


ソニーとホンダの出資比率は対等で事業が進められる50:50

次に話を聞いたのは代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏。1986年に本田技研工業に入社し、2010年より東風本田汽車有限公司総経理として中国へ赴任。その後2019年までの約10年間にわたって中国市場でのホンダの中国における市場拡大に貢献した。帰国後は常務執行役員となり、2020年5月には四輪事業本部長としてホンダ四輪事業の実質トップとなる。

ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏

---:今回の事業では家電メーカーであるソニーと資本比率でも対等となりました。それは開発の上でも対等であることを意味するのでしょうか?

水野:ソニーとは対等で事業を進めるために、資本比率も50:50にしました。もともと個人的にソニーはTVやカメラなどモノを作る会社というイメージがものすごく強かったんです。しかし、彼らと話して一番驚いたのが「我々はソフトウェアカンパニーである。IT企業である」と自ら言っていたことでした。そこの転換がとても進んでいる企業だという認識を持ちましたね。なので、どっちが上とか下と言うことではなく、お互いに組み合うことが結果として良いモビリティを生み出すことにつながるのではないかと思うようになりました。

---:今やそのソフトウェアは、たとえばTVひとつにしても、あらゆる分野で欠かせない存在となっています。そうした面でソニーの新たな側面が見えたと言うことですね?

水野:そうなんです。ソニーはソフトウェア切り口を持ってきて、かといってものづくりを捨てているわけでもない。そういった方々とパートナーシップを組めることをありがたいと思っているし、私は中国駐在時に現地の会社と合弁事業を進めましたが、その時も手掛ける対象が我々以上に幅広いことを実感していたんです。それだけに今回のソニーとの提携も違和感はありませんでした。

---:ソニーとホンダの社員が一緒に携わると言うことで、切磋琢磨と言うより互いに共鳴し合うという感じになっているのでしょうか。

水野:双方の社員が同じフロアで働いていて、互いの知見が発見できて楽しいという声が聞こえて来ています。“共に作ろう”という競争領域がとても多いと感じていて、ハードウェアを中心とするホンダからすればソニーはソフトウェアの会社なので話はとてもしやすいんですね。たとえばADAS用カメラについて、ホンダなら「雨が降っても白線が○m先まで見えるよう」にしていると言うでしょう。それそれでいいですが、ソニーからは「カメラを使ってSNSやったらどうなりますか?」となる。そんな発想は自動車会社には絶対にないんですよ。

---:ラインナップとして、当初発売するのはイメージリーダー的な高付加価値なクルマになると聞いていますが、将来的にラインナップに幅を持たせていく考えはありますか?

水野:それは十分考えているし、より幅広いユーザーに車を届けたいと思っています。たとえば、『ホンダe』は日本で使うのに使いやすいサイズでもあり、そのサイズをコミュータとして将来手掛ける可能性はあるかもしれません。航続距離についても、私が10年間駐在した中国では、ほとんど人が経済特区の中に住んでいて、その中には学校も職場もすべて揃っているので航続距離の長さはそれほど必要はないんです。日本でもそうした需要は十分考えられます。ただ、他のアジアやアメリカなど長い距離を走る地域ではそれが課題となりますが、シティコミュータとしてはチャンスは十分あると考えています。

独自のブランド名を速やかに発表すべく「絶賛検討中」

---:ソニー・ホンダモビリティが出していくクルマのブランドはどうなるのでしょうか。

水野:その件については、まさに絶賛検討中です。この事業は2社のパートナーシップで成り立っているので、新たなブランドを立ち上げることを考えています。名刺にはソニー・ホンダモビリティという名前が付いていますし、「ソニーホンダ」ならすぐに皆さんにわかってもらえると思いますが、新たなブランドとなれば浸透にも時間がかかります。それだけに時間をかけて浸透させなきゃいけないと思っていますから、できるだけ速やかにブランドは立ち上げたいと思っているところです。

---:ソニー・ホンダモビリティはEVに特化した会社なのでしょうか。

水野:今のところはそう考えています。ホンダには新エネルギー車として燃料電池車もありますが、現在は他を考えている余裕はないというのが正直なところです。

---:ソニー・ホンダモビリティの、会社としてのビジョンや人材の確保・育成などについてどうお考えですか?

水野:その部分は現状であまり決まっていないというのが正直なところです。“すべてはこれから”の部分が多いというのが事実で、クルマ作りについても今はソフトをどうするかという議論を行っている段階です。(今回の合弁で)ソニーとホンダが互いに上手に補完し合えればいいと思っています。

---:自動車業界でもIT関連の人材不足が課題になっています。今後の採用計画あるいはソニーからの人材登用など、今後はどう考えているのでしょうか。

水野:現在はソニーとホンダからそれぞれ来てもらっていますが、人材は今や取り合いとなっているので確保するのは難しいですね。今後は自前で採用を考えていかないといけないと思っています。その理由は、ソニーとホンダから来ている人たちはいつか帰ってしまう可能性が高いから。その時はいろんなしがらみのない人材確保をするためにも、たとえば給与なども考えないといけないでしょう。そのため、ソニー・ホンダモビリティとして将来の人材確保しようと議論の真っ最中で、なるべく早めにスタートしたいと考えています。

---:最後に、CES2023ではソニー・ホンダモビリティとして何らかの動きがありそうですか?

水野:まだ“お楽しみに”レベルなので、これから仕込まないといけないことは数多いですが、何らかの形は出すつもりで準備をしているところです。できるだけ期待にお答えしたいと思っています。

《会田肇》

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