前川氏は日本政策投資銀行 産業調査部 産業調査ソリューション室 副調査役として、自動車業界の調査を継続して行っている。セミナーでは、まず各種統計情報や調査データに基づき2022年の市場動向をまとめる。そのうえで業界の変化、ビジネスモデルの変化にサプライヤーを含む自動車業界が注目すべきポイントはなにかを解説するという。注目ポイントについては、なるべく事例を交えて紹介できるように、データを集めているところだそうだ。
2022年業界動向で注目はロシアと中国
前川氏(以下同):「自動車業界は、2020年のコロナパンデミック、2021年の半導体不足と連続して大きな波にさらされている。100年に一度の変革期でありながら、不測の事態への対応も余儀なくされている。22年は半導体不足の緩和、回復も見られるものの、依然19年のレベルには達していない。23年も引き続き回復基調が期待できるが、コロナ前の水準に戻るのは24年頃になるのではないか。」
22年全体の動向をこのように分析した。市場動向の詳細データはセミナーでスライドとともに紹介されるはずだ。その中では先述した半導体不足の影響に加え、2つのポイントがあるという。
ひとつはロシアによるウクライナ攻撃に関係する影響。現在は落ち着きをみせているものの予断を許さない状態だ。22年はロシア国内での生産販売停止のほか、ハーネスなどの部品生産にも影響を与えたとみられている。23年以降は、エネルギーの価格高騰などに伴う欧州の景気後退リスクに注視すべきと前川氏はいう。仮に欧州の景気後退が進むなら、日本への影響も避けられない。
もうひとつは中国のゼロコロナ政策だ。
「ゼロコロナ、ロックダウンは中国経済に影を落とした。4月、5月の上海ロックダウンは、中国製の部品を輸入する日本の自動車業界にも影響が及んだ。ただし、足元では中国政府のゼロコロナ政策が緩和に転じており、23年はプラスの動きが目立つと予想する。」
電動車・CASE市場の動向
22年の業界の大きなニュースは、Hyundai、BYDといった海外OEMが日本市場に参入してきたことが挙げられる。国産車の長納期化傾向が続く中、この2社の新車は数か月で納車可能といい、Hyundaiは22年5月発表で7月には納車が始まった。BYDは22年11月に販売を開始し、今年の1月には納車が始まる。電動車やCASE車両の市場はどうだろうか。
「EV市場は依然として課題もあり本格的な普及は未知数だが、日産サクラ、三菱eKクロスEVといった軽EVの登場は、日本国内でのEV普及の足掛かりになるのではないか。国内のEV比率は今後上昇する可能性が高いが、インフラ整備など政策的な支援はまだ必要だと考えている。その際、海外市場はEV化がより進んでいるのでそのキャッチアップが必要だが、国内でその戦略や施策をまねる必要はない。日本の特徴や強みを生かした戦略が望ましい。」
CASE車両に関して、日本は海外市場との温度差があるものの座視していればいい状況ではなくなってきているようだ。
実はチャンスが大きい自動運転市場
サプライヤーが生き残りをかけて考えるべき技術として、前川氏は「自動運転」を推奨した。
「米中ではすでに無人タクシーが稼働している。23年4月にはレベル4自動運転が国内でも解禁される。国内でも無人タクシーや無人バスが走り始めるだろう。乗用車の主流は未だレベル2だが、無人バスやラストマイルなど自律走行、無人走行のニーズは高まっているので、サプライヤーはキャッチアップして、自社の強みを生かすチャンスとしたい。」
オーナーカーにレベル4や5の自動運転はあまり必要ではなく、自動車業界の興味は薄れているかもしれないが、無人タクシーやラストマイル輸送他でのロボットカー(無人搬送車)のニーズは高まっている。そして、この分野はOEM以外の企業が入ってきている点も忘れてはならない。
脱OEMでどんな市場ポジションがとれるか
「CASEの進展に伴い、自動車のハードとソフトの分離が進んでいる。とくにソフトの存在感はどんどん高まっていく。無人タクシーなどは、ソフトの設計を先に行い、必要なハードウェアを決めるというスタイルが広がるだろう。この場合、ハードウェアは共通化されたもの、標準化されたものになる。そのとき自社はどんなポジションをとれるか。OEMを頂点としたピラミッド構造で対応できるのか。セミナーではこの議論もできればと思っている。」
ケイレツやピラミッド型のサプライチェーンは、日本の自動車産業の特徴でもある。OEM依存は一概に悪いとは言えない。しかし最適解ではなくなりつつある。サプライチェーンの生き残り戦略では、特定OEMへの過度な依存から脱却し、多角的な経営を行うことが重要だと前川氏はいう。ケイレツなどの良いところは残しつつ、自立する、さまざまな業界に打って出ることも考えるべきという意見だ。
「例えば、安全部品は既存の自動車と無人タクシーやロボットカーでは機能や要件が変わってくる。座席の向きが進行方向と逆だったり横向きだったりする。位置も固定ではないかもしれない。歩行者保護の考え方も必要となる。エアバックやシートベルトの新しい部品や機構が必要になるだろう。この領域に如何に入り込めるかが重要である。セミナーではこのような新しい事例も紹介したいと思っている。」
2023年、サプライヤーの生き残り戦略も様変わりしそうだ。
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