【マツダ×パイオニアの挑戦 】第1話:純正オーディオの常識を打ち破る! パンドラの箱を開けた技術者の挑戦~短期集中連載全5話~

【マツダ×パイオニアの挑戦 】第1話:純正オーディオの常識を打ち破る! パンドラの箱を開けた技術者の挑戦~短期集中連載全5話~
【マツダ×パイオニアの挑戦 】第1話:純正オーディオの常識を打ち破る! パンドラの箱を開けた技術者の挑戦~短期集中連載全5話~全 4 枚

車内の静粛性の高まりや自動運転などとも関連して、車内のエンターテインメントは改めて脚光を浴びつつある。中でも純正オーディオにはさまざまな高級オーディオブランドが設定されるなど、高音質化への取り組みは近年盛り上がりを見せつつある。

しかしそんなシーンを先取りするかのようにクルマのオーディオを抜本的に見直してきたメーカーがある。それが今回取材したマツダだ。“スピーカーはドアに取り付けるもの”といった今までの固定概念を打ち破り、クルマの中でより良い音を再生するための開発を始めたのは『マツダ3(MAZDA3)』(2019年発売開始)の開発段階だった。マツダの開発陣がどんな音を求めて開発をスタートさせたのか、クルマメーカーの技術力に加えて協力するオーディオメーカーのノウハウも取り入れることになった開発。その発端から経緯までを開発陣に取材して真相へ迫った。

◆ターニングポイントはMAZDA3の開発
全社を巻き込むチャレンジがスタートする

マツダ 統合制御システム開発本部・若松功二氏マツダ 統合制御システム開発本部・若松功二氏

マツダがクルマのオーディオを大きく変革することになるのはMAZDA3の開発がターニングポイントになった。そこで当時からマツダでオーディオ関連の開発に携わっている統合制御システム開発本部・若松功二さんに開発の発端についてうかがった。

「元々はZoom-Zoomを体現する音を目指して開発を始めたんです。元気ハツラツに低音までを心地良く鳴らすことで、マツダのコンセプトを体現するような音を出すのがひとつの目標でした。しかし私たちはさらに本来音源に含まれている音をちゃんと届ける原音再生にも着目、いわゆるハイファイサウンドですね、それをクルマの純正オーディオで再現することが開発のテーマになったんです」

ここで若松さんのバックグラウンドを軽く紹介しておこう。若松さんは若い頃からクルマと同じぐらいにカーオーディオ好きだった。九州にある有名なカーオーディオプロショップに行って愛車のオーディオのグレードアップをオーダーしていたほど。その時にアフターオーディオの高音質を身をもって体験するのだった。そこでは純正オーディオのように“すべての乗員に良い音”では無く、ドライバーにピンポイントで良い音を聴かせるのが常識な世界。そんな思いが開発者となってからも地下水脈のごとく静かに脈々と流れ続けていたのだ。

MAZDA3で結実するオーディオ開発がスタートするのは2013年のこと。しかしクルマのような大規模な製造が伴う製品で、従来と大きく設計を変えるのは全社を巻き込む一大事、もちろん選択肢としては前例に倣ってドアにスピーカーという技術を踏襲する手法もあった。しかし“今のオーディオが一番良いのか?”と自らに問うて変革させることをあえて選択したのだ。

◆今までの常識にとらわれない思考
純正オーディオとして前代未聞の取組が始まる

カウルサイドに、そしてエンクロージャーへ収まった状態のスピーカーを装着しているカウルサイドに、そしてエンクロージャーへ収まった状態のスピーカーを装着している

真っ先に開発テーマになったのはスピーカーの取り付け場所だった。一般的にクルマのスピーカーはドアに取り付けられている。しかし“スピーカーにとって、もっと良い場所があるはず”と模索することから開発はスタートする。そもそもドアはスピーカーを取り付ける場所として加工も難しくハードルが高い。またドアと車体を結んでいるチューブを介して配線を通さなくてはいけないなど、いくつもの難点を含んでいた。さらにサウンド面ではドア取り付けよりもさらに低域が出せる場所を探すことになる。加えてスピーカーをボックス(エンクロージャー)に入れることで十分な低音を出す構造の検討もはじめている。音に対する課題としてはダイナミックレンジの拡大もあった。小音量になると音が周りの音に埋もれてしまい聴き取りにくくなる。音量の大小にかかわらず広い周波数帯域をしっかり聴かせることを必要としたのだ。

ここまでのコンセプトが決まるとオーディオメーカーとの協力関係が始まる。複数のオーディオメーカーに開発目標に沿ったパーツの試作を依頼することになる(そのひとつのオーディオメーカーが結果的にMAZDA3のスピーカーを担当することになるパイオニアだった)。車内のさまざまな場所にスピーカーの設置を検討し、ひとつの案として浮上してきたのがカウルサイド(キックパネル部分)へのスピーカー設置だった。ここに小容量のエンクロージャーを設置してスピーカーを取り付ける、純正オーディオとしては前代未聞の開発が始まった。

そんなマツダからのリクエストを受けたパイオニアは自社の技術力を注ぎ込んだ試作品を提案することになる。するとパイオニアが提案してきた試作品を聴いた若松さんはマツダの開発サイドが考えていた基本プランに間違いが無かったことを確信するのだった。

「試作のスピーカーは私が思っていた通りの良い特性が出たんです。低域の鳴りも良い、さらに中高域のスピーカーとの音のつながりも悪くない。これはクルマのスピーカーとして高い可能性を持っていることを確信したんです」

実際に実験用の車両のカウルサイドに取り付けて試聴してみたところ、想像以上の低音再生能力に驚くほどだったという。

◆こだわりはスピーカーだけにとどまらず
車室内環境を整えることまでを突き詰める

マツダ3に装着されているフロントスピーカーシステムマツダ3に装着されているフロントスピーカーシステム

新しいマツダのオーディオ開発の過程においてスピーカー開発に加えてもうひとつの大きなテーマになったのはDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)だった。アフターオーディオの世界ではすでに広く普及しているDSP、自分自身も経験していた若松さんは純正オーディオにDSPを取り入れることを計画する。そもそもDSPとはオーディオの信号をデジタルデータの状態でコントロールして各スピーカーの帯域分割をしたり、スピーカーから音の出るタイミングなどをデジタル調整することができるプロセッシング・ユニットだ。これを駆使することで帯域バランスが整い、目の前に音場が広がるサウンドの再生が可能になるのも若松さんは愛車のオーディオシステムでも経験していた。

「純正オーディオを初めて聴いたお客さまにガッカリしてほしくないと思ったんです。そして世の中にはもっと良い音があることを知ってもらいたかったんです。ボーカルや演奏するバンドが目の前でクリアに現れる音を表現したいと思ったんです。これこそがDSPを導入することを決めた経緯です」

従来の純正オーディオではなし得なかったサウンドを、スピーカーの変革やDSP導入で実現しようとしたマツダの開発陣。オーディオメーカーであるパイオニアと密に協力しつつ、これまで無かった純正オーディオを作り上げて行く過程は非常にダイナミックだ。いよいよMAZDA3のオーディオの骨格が決まりいよいよ新しい純正オーディオの幕が開くことになる。

《土田康弘》

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