【三菱 eKクロスEV 冬季1200km試乗】充電回数は30回!軽BEVにはあまりに厚かった「圧雪路の壁」[前編]

三菱の軽BEV『eKクロスEV』での1200km雪国ツーリング。
三菱の軽BEV『eKクロスEV』での1200km雪国ツーリング。全 27 枚

三菱自動車の軽規格バッテリー式電気自動車(以下BEV)『eKクロスEV』で冬の東北を1200kmあまりツーリングする機会を得たので、旅レポートを交えながらレビューをお届けする。

◆雪道で苦戦するのは火を見るより明らか!

ここ数年、豪雪が降るたびに「立ち往生でBEVは大丈夫か」という声が出る。実際、BEVは低温に加え走行抵抗が格段に高まる圧雪路、深雪路では航続性能が極端に落ちる乗り物だ。クルマが動かなくなることが死活問題になる雪国ユーザーや雪国に出かける機会の多いユーザーが心配するのは当然だ。問題はどのくらいまでなら大丈夫かということで、それを判断する材料がなくては話にならない。

そんな意図もあって、昨年は日産自動車『リーフe+』で雪国ツーリングを行い、本サイトでレポートをお届けした。車体への着氷がエンジン車より大幅に多い、雪上では電力消費率が極端に落ちる等々のネガティブ要素がある半面、バッテリー残量に問題がなければ降雪時も一酸化炭素中毒の心配をせず快適にビバークできる、クルマのシステムを起動させた直後から暖房が使える等々、BEVならではのメリットもあった。デメリットの許容度は人それぞれだが、筆者個人としては「思ったより全然使えるじゃないか」という感想を抱いた。

昨年12月に試乗した際に撮影した三菱『eKクロスEV』のフロントビュー。昨年12月に試乗した際に撮影した三菱『eKクロスEV』のフロントビュー。

そこで今回のeKクロスEVである。筆者は昨年12月に一度、eKクロスEVを681km走らせており、充電受け入れ性は基本的に高くないということ、低温環境下では航続も短いことなどをその時点で確認済み。雪道ではなお苦戦することは火を見るより明らかだ。それをわかったうえでのあえての雪国ツーリングがどういうドライブになるのか。いや、そもそもドライブすることはできるのか。雪道での走行性能や快適性、低温・悪天候下での電力消費率や充電、ビバークの電力消費量など、いろいろ観察しながら烈風逆巻く厳寒期の日本海の波濤を見に行く旅であった。

eKクロスEVに関して軽くおさらいしておこう。総容量20kWhの軽規格BEV(バッテリー式電気自動車)。ベースモデルはエンジンタイプの軽自動車、日産自動車『デイズ』/三菱自『eKクロス』で、開発実務は日産が行った。日産自動車のBEV『サクラ』と共に日本カー・オブ・ザ・イヤー2022-2023の大賞を獲得している。2009年に世界初の量産型BEV『i-MiEV(アイミーブ)』をリリースした実績を持つ三菱自にとってはその後継という位置づけのモデルでもある。

ドライブルートは東京を起点として福島、新潟、山形と厳寒期の雪国を巡るというもので、総走行距離は1216km。高速道路や通行料を必要としない自動車専用道路の比率は1割未満で、ほとんどは一般道と山岳路。雪道比率は全行程の3分の2に達し、氷点下の割合は8割以上。エクストリームテストとしてはなかなか理想的なコンディションだった。

本論に入る前に雪国におけるeKクロスEVでのドライブの印象を箇条書きしておく。

1. 左右輪駆動力配分システム「グリップコントロール」は雪道で絶大な威力を発揮。
2. 快適性、静粛性は悪条件下でも超が付くレベルの高さ。
3. 冬季、とりわけ雪道においては航続距離がきわめて短くなる。
4. 経路充電頼みの長距離走行の場合、航続距離の関係で走破できないルートがある。
5. 元の充電受け入れ性は低いが低温時も速度はほとんど低落しない。連続充電にも強い。
6. 底面とタイヤハウスへの着氷が著しいのはリーフe+と同様。
7. 充電15分経過後はペースが落ちるため充電器によってはそこでやめるのも大いにあり。
8. 電池容量が小さいため継続可能時間はリーフe+のようには長くないがビバークは快適。

立ち寄ったコンビニエンスストアで撮影。クルマはもうほとんど氷結状態。立ち寄ったコンビニエンスストアで撮影。クルマはもうほとんど氷結状態。

◆1200kmで充電回数は30回!走りはリーフを超える素晴らしさだが

本論に入っていこう。小容量バッテリーBEVであるeKクロスEV、雪国でのパフォーマンスは走りについてはリーフe+を大きく超えてポジティブ、航続性能についてはリーフe+を大きく超えてネガティブという印象だった。

経路充電については事前の予想通り奮闘という感。eKクロスEVの充電特性から30分充電にこだわらず短時間で切り上げることも多かった点は割り引く必要があるが、充電回数は30回に及んだ。経路充電では充電率を100%にするのは非現実的なため、圧雪路では1充電で稼げる航続距離もかなり短い。日本海沿岸の新潟~山形県境では途中に1か所だけある充電スポットが何らかのトラブルで使えない場合に完全に詰むため踏破を諦めたということもあった。山形の日本海沿岸部の三菱ディーラーでは「(県庁所在地の)山形まで冬に無充電で届かないのでは買えない」といった顧客の声が少なからずあるという話を聞いたが、雪国の生活実感からすれば当然の意見だろう。

半面、雪道での走りは昨年、FWDであるにもかからず優秀と感じたリーフe+をも問題としない素晴らしさ。ツーリング時はかなりの荒天で除雪が追い付かない深雪路を走るシーンもしばしばだったが、ノースタックで走り抜いた。床が雪面にのしかかって前輪に荷重がかからなくなったときもステアリングを左右にこじりながら後退するだけで脱出できたほどで、AWD(4輪駆動)でなくても問題もないと心から思える初めてのFWD車だった。またクルマが完全に冷え切ったコールドスタートでもシステム起動直後から暖房が使えるという点も北国では魅力だった。

充電料金の安い三菱ディーラー、公共充電スポットのみを使う方針で旅をした。充電料金の安い三菱ディーラー、公共充電スポットのみを使う方針で旅をした。

運用コストは電力価格の状況や政府が新たにかけようとしている走行税など不透明な部分も多いものの、現状ではまぎれもなく激安。三菱自動車は顧客向けに電動車両サポートというサービスを提供しているが、三菱ディーラーや道の駅などでは非常に安価に充電することが可能。他メーカー系ディーラーを1回も使わずに走り、1216kmのツーリングの途中充電の費用を計算すると6068円。それに最初の充電分(推定15kWh)と返却時の充電欠損分(推定5kWh)のぶんを足した総費用は約6700円。クルマのエネルギー効率が極端に落ちる雪道主体のうえ、6時間ビバークテストを3回試したぶんも含んで1kmあたりの走行コストが5.5円、ガソリン価格165円としてリッター30km相当というのはお財布に優しいというほかなかった。

雪国ユーザーとeKクロスEVのマッチングは冬季の航続性能をどうみるかにすべてがかかっていると言える。地方では軽自動車は決してセカンドカーユースばかりでなく、ファーストカーとして使われることも多い。雪国でのファーストカー用途としては、eKクロスEVはいくら何でも航続性能不足だ。が、複数台数保有の1台をBEVにする、通勤が主用途、主要都市在住で遠出は遊びが中心といったユーザーであれば、デメリットを押してeKクロスEVをチョイスしても余りあるメリットを享受できそうに思えた。

また非積雪地帯のユーザーが雪国を旅する場合もスタッドレスタイヤさえ履けば、そして頻繁な充電に足止めを食っても大丈夫な時間的余裕さえあれば、十分に楽しむことができるだろう。実際、今回の雪国旅は何とも味わい深い、素敵な旅だった。

◆最初は平和な旅だった…クルマの電気的特性を分析

福島・西会津までは極端に寒いということもなく、平和そのもののドライブ。福島・西会津までは極端に寒いということもなく、平和そのもののドライブ。

では、実際のツーリングについてデータを随時紹介しつつ述べていこう。東京・葛飾にある三菱自動車のBEV貸出スポットで車両を借り受け、スタート。充電率は100%。

まずは国道新4号奥州街道から鬼怒川、会津経由で新潟に向かう。昨年のリーフe+冬季ドライブにおいては横浜をスタート後、最初の充電場所は260kmあまり先の福島の郡山だったが、バッテリー容量が3分の1のeKクロスEVはそうはいかない。108.3km走行後、電費7.2km/kWh、充電率3%で最初の充電スポット、宇都宮の三菱ディーラーに滑り込んだ。有効桁数をあえて無視して単純計算すると電力消費量15.04kWh、充電率100→0%に換算すると15.51kWhだ。

厳しい条件でのドライブを行うにあたっては、最初にクルマの実力値をできるだけ詳細に把握しておくことが肝要。まず30分充電を行い、5分ごとに充電のラップタイムを測ってみた。充電器は東光高岳製の最大出力30kW機で最大電流値は72アンペア。投入電力量の推移は5分2.1kWh→10分4.3kWh→15分6.6kWh→20分8.5kWh→25分10.1kWh→30分11.5kWh。充電率は67%と、64%ぶん回復した。これを100%に換算すると投入電力17.96kWhとなる。これを先ほどの100→0%蓄電量と対比させると、投入電力に対して14%ほどのエネルギーロスだ。

バッテリー容量が小さいeKクロスEVの場合、充電率19%台で充電促進のアラートが出る。バッテリー容量が小さいeKクロスEVの場合、充電率19%台で充電促進のアラートが出る。

宇都宮で走行可能距離の予測値は83kmとなったが、この値を信じてはいけないこともすでにわかっている。次の充電スポットは46.4km先の鬼怒川温泉の最大電流75アンペア機で、区間電費は登り勾配が影響したこともあって6.3km/kWh、消費電力量の計算値は7.37kWh、100→0%換算で15.64kWh。

ここでもう一度詳細に充電データを取ってみる。バッテリーの充電率は燃料タンクのように正確に測れるわけではなく、あくまで推算値。何度かデータを取って平均を取らないと本当のところはわからないからだ。30分の投入電力は10.41kWhで充電率は17%から79%に回復。充電時の損失は7%。2ヵ所の平均を取って蓄電量15.6kWh、充電時の損失10%と仮定。それと著しく異なるデータが出たらその都度修正を加えて行けばいい。

早くに天候が崩れるという予報とは裏腹に、福島北部の西会津あたりまでは路面は時々凍結していたものの全般的に良好。天気も良く、西会津では遠方に標高2105mの飯豊山(いいでさん)が美しい白銀の姿を見せていた。何気に西会津から新潟に至るルートを通るのは初めて。何でも初めてというのは感慨深いもの。気が早いことに、大吟醸の日本酒なんぞお土産に買いはじめる始末である。鬼怒川からここまで会津田島と会津若松で15分ずつ、そこから新潟に向かう国道49号線と只見川が直交する場所にある彌満和製作所という精密加工会社で30分、それぞれ充電した。

◆ドライ路面での走り、快適性は感心するほどに良い

道の駅に頻々と寄り道した。写真は道の駅にしあいづ。道の駅に頻々と寄り道した。写真は道の駅にしあいづ。

ドライ路面におけるeKクロスEVの走り、快適性は感心するほどに良かった。最も印象的なのは軽自動車にあるまじき防振性の高さとロードノイズの遮断ぶり。履いていたタイヤ、ブリヂストンのスタッドレス「ブリザックVRX3」がもともと優秀ということもあるが、そのパターンノイズを車体側で見事にシャットアウトしており、舗装面が滑らかでも荒れていても常に車内は静寂が保たれる。

このタイヤは乗り心地も大変優秀だが、それでもサイドウォールはサマータイヤに比べると少し固め。それを微小振動の吸収性に優れたショックアブゾーバーやブッシュがブロックし、滑走感はCセグメントコンパクトと比較しても中位よりは上にいるという感じであった。軽自動車のライドフィールのディフェンディングチャンピオンはホンダ『N-BOX』だったが、eKクロスEVは軽自動車とは別次元の位置にいる。足まわりのセッティングはまったく同じという日産サクラも同じようなフィールを示すだろう。

平和そのものという様相の会津ドライブ。もしかしたら去年の2月のツーリングと同様、雪は空振りだったりしてなどという思いもよぎるくらいの天候がにわかに変わってきたのは西会津を過ぎ、福島・新潟県境の鳥居峠に差しかかるあたりから山の残雪が急に分厚くなり、粉雪がぶわっと舞ってきた。峠を越えて新潟に入ると雲は厚く、雪は間断なく降り、平地に下りる頃には道路は真っ白な圧雪コンディションになっていた。南国鹿児島出身の筆者にとっては異国情緒もはなはだしい、雪国ドライブがここから始まるという感じであった。

◆軽BEVにはあまりに厚かった「圧雪路の壁」

充電口やプラグにあっという間に雪が付着していく。充電口やプラグにあっという間に雪が付着していく。

彌満和製作所から峠を越えて新潟に入り、最初に充電したのは道の駅阿賀の里。充電率は17%。そこから30kmほど走れば三菱ディーラーの充電スポットがあるので短時間充電ですますことも考えたが、路面コンディションが圧雪に変わってから電費が急激に落ちる兆候が表れていたため、念のため30分充電することにした。

ここで新鮮な衝撃だったのは北国の雪の積もりっぷり。横殴りの雪を避けるために道の駅の建物に入り、15分ほど経ってふとクルマのほうを見ると、もうホイールが雪に埋まりはじめている。降雪だけでなく地吹雪がクルマのほうに向かって押し寄せているがゆえのペースの早さだ。昨年の冬季ツーリングの経験から除雪用にシャベルを持ってきてはいたが、このペースでもう15分積もるとどうなることやらと緊張。そう、刻々と状況が変化する雪国では何でも時間との闘いなのだ。「急速充電30分などのんびり待てばいい」という考えは平穏な世界に住む人間の甘え。この経験だけでも雪国ドライブに来た甲斐があったというものだ。

とりあえず充電率64%まで回復後、駐車場を脱出して新潟の三菱ディーラーへ。圧雪に変わってからはブリザックVRX3の本領発揮。安全なところで幾度か強いブレーキングを試みたが、アイスバーンでもゴゴゴッと氷を掴むフィールが伝わってくる。雪を噛んでいれば完璧だ。雪道はもともと滑るものなのでもちろん無茶はご法度だが、この性能は心強い。

15分くらい経過してふと見るともうタイヤが地吹雪で埋まりはじめていて少々緊張が走った。30分経過時にはグラウンドクリアランスがほとんどない状態に。15分くらい経過してふと見るともうタイヤが地吹雪で埋まりはじめていて少々緊張が走った。30分経過時にはグラウンドクリアランスがほとんどない状態に。

圧雪になると除雪車のチェーンの痕が凍った雪に刻まれたりと、凸凹が急にきつくなる。驚いたことに、eKクロスEVはそんな路面状況でも快適性の低下は最小限。両社は軽BEVを作るにあたり、単に電気で走るというだけでは商品性を保てないと考えたのだろうか、乗り心地の作り込みへの執念のようなものすら感じられた。

新ジャンルでちょっとでも顧客の支持を得ようとして素晴らしいチューニングが生まれるというケースはいろいろ前例がある。トヨタ自動車の第2世代『プリウスPHV』はノーマルモデルに比べてはるかに上質なライドフィールを実現していたし、ホンダのBEV『Honda e』はこんなにサスペンションのフリクション感を減らすことができるのかという動きを実現させていた。eKクロスEVの良さもそういう“新物”の凄味の事例と言えよう。

ドライブは続く。30kmちょっとの距離なのだからどうせすぐ着くとタカをくくり、買い物に寄り道しつつ35.8km走行後に到着したときは充電率は何と15%まで低下していた。平均電費4.6km/kWh、消費電力は7.8kWhなので計算すればそんなものなのだが、道の駅阿賀の里で充電した分を航続30km台で使い果たしたというのはさすがに少々衝撃が大きかった。後で振り返ると全行程の中でこの区間が最も電費が悪かったのだが、この経験は無茶をしがちな筆者の判断を着実なものにするのに大いに貢献した。

◆過酷な日本海ドライブへ、充電ルート選びがカギになる

真夜中の国道113号線で山形内陸に向かう。写真ではわかりにくいが結構吹雪いていた。真夜中の国道113号線で山形内陸に向かう。写真ではわかりにくいが結構吹雪いていた。

さて、新潟からはいよいよ山形に向かう日本海ドライブだ。ナイトセッションは距離を稼げる時間帯なので、できるだけ北上しておきたいところ…なのだが、降雪が次第に強まる中を47.8km走り、ローソン荒川十文字店で充電中、充電情報サイトの地図を眺めていてはたと思う。「途中にある道の駅あつみしゃりんの充電器が万が一ダウンしていたらそこで詰むんじゃないか?」。

ローソン荒川十文字店から県境を越えて山形・鶴岡の三菱ディーラーまでの距離は100km弱。これはバッテリー充電率100%、使える電力量15kWhを確保しても電費7km/kWh(105km)ペースで走ってようやく届く距離だ。今回は他メーカー系ディーラーの充電器を使わないというマイタスクを降ろして県境に近い村上の日産ディーラーをウェイポイントにしても80kmはある。充電率80%、使用可能電力量12kWhでは7km/kWhペースで走らないと届かないし、時間をかけて充電率100%近くまで持って行っても電費が5.4km/kWhを切ったらリタイアだ。この時の気温はマイナス5度で、電費に一番厳しいシャーベット路になる心配はなかったが、除雪直後ならまだしも時間が経って新雪が降り積もっていれば5.4km/kWhを上回れる保証はどこにもない。

…道の駅あつみしゃりんの充電器の様子が分からない以上、ここは勇気ある転進だ。超遠回りにはなるし天候悪化も懸念されるが、山を越えて山形の内陸部に至る国道113号線にはいくつか充電スポットがある。山形県の鶴岡~山形を結ぶ山越えルートの国道112号線は吹雪で通行止めになっていたが、同じ山越えルートでも50kmほど南の国道113号線は通行止めにはなっていない。意を決して内陸に向かった。

もうすぐ三菱ディーラーのある山形・長井に着く。小容量BEVでの厳寒期ドライブは航続との戦いになる。制約は多いが気ままな旅をするには意外に悪くない。もうすぐ三菱ディーラーのある山形・長井に着く。小容量BEVでの厳寒期ドライブは航続との戦いになる。制約は多いが気ままな旅をするには意外に悪くない。

雪国の夜道は寂寥感に満ちている。走っていると時折雪げむりの中からカーブに設置された照明が浮かび上がる。が、真夜中でもクルマがまったく通らないわけではない。荷運びのトラック、それより数は少ないが乗用車、そして時折、探照灯を煌々と照らしながらゆっくり走る除雪車。国土交通省と車体に書かれたラッセル車、ロータリー車、ブルドーザーは雪国における道の守り神だ。定時除雪ばかりでなく、スタックしたクルマがいるとそこに急行して脱出に手を貸してあげ、さらにその場所の除雪を行うのだ。そんなシーンをこの旅行中何度も見た。

閉鎖になった国道112号線に比べると地吹雪だけですんでいる国道113号線は雪国基準でみれば平穏という感じだったのだが、峠越えではピークで車載温度計表示マイナス12度まで下がる低温に見舞われた。道の駅白い森おぐにといういかにも寒そうな名前の道の駅での充電はそんなさなかで行った。最大電流60アンペア、公称25kWという決して速くはない充電器だが、それでも経路充電ができるというのは有り難い話だ。

このeKクロスEV、充電のさいの受け入れ電流の最大値は86アンペアだが、実際に使ってみると最大電流72~75アンペアの公称30kW機で充電パフォーマンスはほぼ上限に達する。日産ディーラーなどによく置かれている最高107アンペアの公称44kW機、最高125アンペアの50kW機を使っても投入電力量はほぼ同じで意味がない。反対に低性能充電器でも60~65アンペアの公称25kW機であれば、実際の投入電力量は1割程度しか変わらず、そこそこ使えるという印象だった。

◆熱源のないBEVは普通のクルマに比べて着氷が著しい

熱源がないBEVは底面、ホイールハウスへの着氷がはなはだしい。大してサボっているわけでもないのにあっという間にこうなる。熱源がないBEVは底面、ホイールハウスへの着氷がはなはだしい。大してサボっているわけでもないのにあっという間にこうなる。

充電中、その気になればクルマの中で暖房をかけてぬくぬくと寛ぎながら過ごすことができる。充電電力量は若干減るが、せいぜい充電率にして数%の違いで、そう神経質になることはない。が、毎度毎度そう寛げるほど雪国ドライブはヒマではない。昨年のリーフe+で経験した車体やタイヤハウスの着氷落としタイムが待っている。

BEVは内燃機関のような熱源がほぼないため、普通のクルマに比べて着氷が著しい。雪国でBEVユーザーやディーラーの営業担当者に出会うたびにその対策を聞いたところ、結局は完全に氷になってしまう前にこまめに落とすしかないという意見が大勢を占めた。が、ごく低温だったりブリザードコンディションだったりすると、その作業もサボりがちになってくる。

自分が南国人だから根性がないのかと思ったが、雪国人も似たようなものなのだという。鹿児島の台風(最近は強い台風はとんとご無沙汰だが)や火山灰もしかり、人間はそれぞれの置かれた環境と折り合いを付けながら生きていくものなのなのだとあらためて思いつつ、ゴムハンマーやスコップで最低限のすき間を作っているうちに16分が過ぎ、充電を停止した。

着氷を放置していると前輪の舵角を確保できなくなるので、適宜落とす必要がある。スコップの把手をゴムハンマーで叩いて氷を割るが効率が悪い。探せばおそらくげんのうのような、もっと便利な道具があると思う。着氷を放置していると前輪の舵角を確保できなくなるので、適宜落とす必要がある。スコップの把手をゴムハンマーで叩いて氷を割るが効率が悪い。探せばおそらくげんのうのような、もっと便利な道具があると思う。

厳寒の中、eKクロスEVとブリザックVRX3の性能に守られながら旅を続ける。線形が改良された国道113号線は非常に安全で走りやすいが、トンネルの出口の先が地吹雪で真っ白になっているのが見えるたびに、こんな厳しい気候の地でも交通が開かれているというのはそれだけですごいと感心するばかりであった。

無事に山岳路を越え、出羽路の長井に着いた。三菱ディーラーで30分充電の後、最上川に沿う国道287号線を走り、泊地になり得ると見定めていた道の駅あさひまち・りんごの森に到着。気温はマイナス8度。ここで30分充電の後、ビバークでどのくらい電力を消費するかを調べてみることにした。(後編へ続く

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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