ディーラーは長納期・抽選より即納のEVを売りたい?…BYDの販売戦略を分析

BYD正規ディーラー1号店オープン:販売戦略を分析
BYD正規ディーラー1号店オープン:販売戦略を分析全 9 枚

BYDオートジャパンの国内正規ディーラー1号店となる「東名横浜店」が2月2日よりオープンした。これにより、同社の国内での本格的な乗用車販売がスタートした。

■王道でパートナーを増やす販売戦略

BYDオートジャパンは昨2022年12月に、『ATTO 3』の国内販売価格の発表時にディーラー展開を含む販売戦略も明らかにした。電気バスやフォークリフトなど日本市場にも地道に浸透している同社は、乗用車(EV)市場への展開も地に足をつけたものとする戦略だ。ボディワークは日本の工場を買収しクオリティを担保し、メンテナンスや販売については新興メーカーながら実店舗のディーラー網、アフターサービス網を構築するという。

ATTO 3は、同社の最新技術を投入したe-Platform 3.0を採用し、コネクテッド機能も充実しOTAによる機能アップデートにも対応する。e-Platform 3.0は、三元系リチウムイオンバッテリーより発火しにくいリン酸鉄リチウムイオン電池を板状に配置した独自のバッテリーパックにバッテリーマネジメントシステム、DCチャージャー、インバータなどEV制御ユニットをまとめたもの。ボディやキャビン設計の自由度を高めるだけでなく、ボディ剛性や衝突安全性にも有利に働く。2022年のEURO-NCAPではファイブスターズ(5つ星)を獲得している。

ディーラー網は、2025年までに国内100店舗という目標を掲げている。1号店のお披露目の日には、日本全国、合計で33店舗の確定した正規ディーラーのリストも公開した。リストされた店舗は23年3月までに開店する。1号店の東名横浜の他、大阪堺市にも次の開店が予定されている。北海道や沖縄でもBYDディーラーがオープンする。

これらは、国内各地の有力輸入車代理店、中古車代理店、販社をパートナーとしてBYDブランドの正規ディーラーを運営していもらうスタイルだ。契約済みで開店場所や時期が調整中のため発表できない候補がさらに30程度あるという。2025年までに100店舗開店の目標にはあと30店舗程度なので、同社としては目標達成は見えているのだろう。

■充電・メンテナンスのサポート体制とショールームの両輪

店舗には、BYDとして独立したショールームの機能を持つ店舗(1号店はこの形)と、試乗や商談など店舗機能は持つものの、BYDのロゴ看板、ショールームなどがない「開業準備室」というタイプがある。開業準備室は既存ディーラーとオフィスを共有したり、仮店舗での営業となるが、すべてが正規ディーラーとしての独立した店舗に切り替わっていく。充電インフラについては、正規ディーラーは50kW出力のDC充電器を最低でも1基を設置するという。

ATTO 3自体は欧州などでも発売済みで、車両の充電能力は100kWh以上でも問題ない。ATTO 3、『ドルフィン』のあとに控えている『シール』は800Vのバッテリーシステムを搭載するので、150kW以上の高出力充電器もほしいところだが、現状では50kWを超える充電設備の設置要件、費用がかさむことから最低ラインを50kWとする。

BYDはHVやPHEVも手掛けているが、EV専業といっていいくらいの自動車メーカーだ。国内パートナーに輸入車に強い販社、代理店が多いとはいえ、セールスやメンテナンスのEVスキルを心配するかもしれない。BYDオートジャパンは、日本向けのマニュアル、トレーニングをすでに開発しておりパートナーとなる店舗のマネージャ、メカニックの受講を必須としている。

■王道で真っ向勝負の秘策はスピード感

日欧米の主要自動車メーカーに比べると新興メーカーに分類されるBYDだが、店舗戦略、マーケティングはむしろ王道を行っている。ディーラー重視の戦略もそうだが、車両の設計ポリシーも同様だ。BYDのEVは回生ブレーキの効きをあえて抑えている。アクセルオフでも減速感はあまりなく完全停止もしない。日産『リーフ』やテスラオーナーにとっては、これはネガティブポイントになるうるのだが、ガソリン車からの移行をしやすくするため、EVらしさを前面に出さない。

EV新興メーカーが、既存OEMの戦略や考え方を踏襲するのは、あえてライバルの土俵で真っ向勝負するということでもあり、車両性能や品質に対する自信がなければできないはずだ。したがって、国内メーカーや販社は、BYDの日本展開をみて「業界の戦略をまねているだけで知見はこちらが上」と過小評価すべきではない。

たとえば、グローバル企業、とくに中国企業の持つスピード感はBYDオートジャパンも十二分に備えている。昨年7月の発表からほぼ予定どおりのマイルストーンをこなしている。発表からわずか半年ほどで新車販売を実現し、実店舗をオープンさせた。変化が激しい市場においてスピード経営、迅速な意思決定は必須だ。市場の様子をみて慎重に戦略を決めるというセオリーは通用しない時代だ。様子を見ている間に状況が変わっていくので、趨勢や情勢が定まってから全力でコミットしようとしても時すでに遅しだ。情勢が定まらないので結局決断できないまま市場の変化を見ているだけになる。

メーカーの機動力、アジリティは、販社・代理店との関係、販売チェーンにも影響を与える。円安による景気後退(エネルギー、資材コストの上昇)。物価上昇。シェアリング市場の成長、リース販売やサブスクリプション風販売契約の拡大。これらは新車販売市場にも暗い影を落とす。車が売りにくくなる状況にありながら、国産車の生産体制や供給体制の問題が指摘されている。半導体不足や資材不足によって新車の長納期化が恒常化しつつある。販社は商品力のある新車がほしいのに、それがままならない。

2023年からはメーカーも増産に入るという動きはあるが、その効果が表れるのは数か月先だろう。22年に発表されたいくつかの新型車は、生産数が確保できないとの理由から、ディーラーに割り当て制や抽選を導入したという。新型トヨタ『プリウス』は「愛車として届けたい」という想いと裏腹に月産5000台程度で、国内ディーラーには2台しか供給できない状況が危惧されている。

■専売・特約店モデルの崩壊

新車の供給不足は、リセールバリューの維持や価格維持というメーカーにとって都合のよい要素もあるが、買えない車を「人気車種なので」と慢心すれば、ユーザーに愛想をつかされても文句はいえないだろう。これは、販社にとっても言える。

日本の自動車販売は、ケイレツが強く特約店状態の店舗が多い。日本OEMはブランド力も高く顧客ロイヤルティも高い。販社はマルチブランド展開より専売のほうがメリットがあるが、メーカーの都合で自由に販売できないなら、メーカー・販社の関係がバランスが崩れてくる。新興メーカーでも商品力があり供給もしっかりしており回転率も確保できるなら、その車を売りたい本音があってもおかしくない。

実際、BYDの1号店の関係者によるとATTO 3の納期は2月中でも可能だそうだ。しかし、顧客はCEV補助金の適用を確実にするため4月納車にしたいという要望が寄せられているという。ちなみに、2022年の状況でいうと21年度の申請終了後、年度内の納車車両については、補正予算によって繰越適用されたので、22年度の申請締め切り(2月17日とされる)後、23年度の申請開始までの間の納車も補助金が受けられる可能性はゼロではない。CEV補助金のウェブページには、23年2月18日から3月31日までの新規登録分についても当該年度の補助金対象にすることがアナウンスされている。

高度成長期の家電メーカーは、特約店方式の販売チャネルで成長拡大していった。いわゆる「街の電気屋さん」だ。だが、大規模小売店舗法の改正や市場の変化とともに量販店が拡大していった。その結果、家電は量販店、通販で買うものになり、特約店式の電気店は地域の事業者向けの販売や工事に特化せざるを得なくなった。乗用車販売のビジネスモデルも変革の時期を迎えている。

《中尾真二》

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