EVの効率を上げるオクトバルブによるサーマルマネジメント…シェフラージャパン 田中昌一 代表取締役[インタビュー]

EVの効率を上げるオクトバルブによるサーマルマネジメント…シェフラージャパン 田中昌一 代表取締役[インタビュー]
EVの効率を上げるオクトバルブによるサーマルマネジメント…シェフラージャパン 田中昌一 代表取締役[インタビュー]全 6 枚

来たる3月9日、「EV海外OEM・部品メーカーセミナー 第4回 次世代を動かすシェフラー」が開催される。ゲストスピーカーとして登壇するシェフラージャパン株式会社 代表取締役 マネージング・ディレクターの田中昌一氏に、セミナーの見どころを聞いた。

セミナーの詳細はこちらから。

◆4 in 1 のE-Axleとは

---:セミナーでもご紹介いただくと思いますが、この4in1のE-Axleの4はなにを指しているのでしょうか。

田中:普通のE-Axleは3in1ですよね。モーター、デファレンシャル。そしてモーターをドライブするインバーターもしくはPCUと呼ばれるもの。これらが3in1の構成ですが、これに熱マネージメントのシステムを直接くっつけたというものです。

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ご存知かとは思いますが、電気自動車は熱源がすごく少ないので、それをいかに有効に使うかということが課題です。それに、エンジンを冷やしていたガソリン車やディーゼル車と違い、バッテリーの温度コントロール、インバーターの温度コントロール、モーターの温度コントロール、キャビンのコントロール、これらコントロールする温度帯がみんな違います。なので電気自動車のほうが熱マネージメントに関しては非常に複雑です。それも熱を作るというのをヒーターでやってしまおうとなると、バッテリーの電気を消費してしまうので、そこのバランスをいかによくするかというような提案です。

---:このE-Axleではパワコンとモーターを冷やすのでしょうか?それは液で冷やすのですか?

田中:モーターの場合はオイルを使います。オイルはモーター室に封じ込められていて、そこで拾ったモーターからの熱を水に逃して、その温まった水を使って何かを温めます。インバーターのほうはもともと水です。

あとはモーターの黒い部分の後ろに小さくオレンジの部分が見えると思います。4in1にもう一つ足しているのがこの部分で、二酸化炭素の冷媒を使ったコンプレッサーです。二酸化炭素の冷媒にすると、日本でよく使われているホットとコールドが出せる自動販売機のように、両方できるわけです。ヒートポンプとして使えます。

ヨーロッパでは将来的にこれを使って、キャビンも温められるし、冬場のバッテリーも温められる、というところまで考えたものが出てきていまして、既に基礎の部分の開発は始まっています。

モーターも、巻線の会社を買っています。特殊な巻線であるウェーブワインディングというものです。通常のワインディングは両側を溶接しますが、それでステーターの長さが長くなってしまいます。それを片側だけの溶接にすることによってある程度短く作れる、密度もあげられるということをやっています。

◆オクトバルブによるサーマルマネジメント

それから、ハイライトとしては、これが先ほどお話しした熱マネです。矢印がついているところの温度帯がそれぞれ違うのですが、これを一度に全部マネージしなければなりません。ここは電気自動車の効率を上げるために本当に大事な技術になると我々は思っていて、力を入れているところです。

実は熱マネに関しては、電気自動車が出る前から、既にガソリンエンジン、ディーゼルエンジンでかなり進んでいました。その頃から水のチャンネルを変えるようなバルブや、その機構、コントロールは持っていました。それをさらに高度化してやっているというのが現在の熱マネになります。当社では、サーマルマネジメントモジュールと呼んでいるものです。

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一つのシステムの例として、モーター、インバーターの回路とコンプレッサー、コントローラーが入っていて、この1箇所から液を流してあげたり止めたりして、熱マネをしようということです。

---:テスラも同じような部品を使っていますが、同様のものですか?

田中:そうです。これ一つでやりたいという会社もあれば、分散して付けている会社もあります。チャンネルごとにバルブとモーターをつけたり、いろんな考え方があります。我々はインテグレーションが一番いいであろうと考えています。熱もセービングでき、パイプの数も減らせます。

あとはモーターのベアリングです。右側にあるのがシャントベアリング、これはアースをしているタイプです。モーターが回った時の、静電気が溜まってバチっとなる現象をアースで防ぎます。

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左側にあるのがベアリングの外側のレースにサーモセットのプラスチックをモールドして、それで絶縁するタイプ、絶縁ベアリングです。

これは新しい試みで、普通はセラミックのボールを入れて絶縁するのですが、セラミックのボールは鉄に比べてかなり高いので、そこを普通の鉄のボールを使って、リングのところで絶縁しようというものです。モーターの中に出てくる電気をそのまま絶縁して戻してあげるものです。右側のほうは静電気が溜まってバチっとくるものを防ぐもの、モーターの中でこの2つが起こっているものですから、2種類必要になります。

それからこれはトランスミッションです。当社はハイブリッドにも携わっています。これは面白いモーターで、実はコイルが二つ、二重に巻いてあります。コイルの一番外側もモーターのシャフトです。

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---:入れ子になっているということですか?

田中:そうです。中にもローターが入っていて、これで発電機とドライブモーターを一度に回そうという考え方です。本当に回るのかなと私も最初疑問に思いましたが、こういうものの開発もしています。

◆フリクションを半減する3列のホイールベアリング

田中:あとはシンプルなところで、ホイールベアリング、ハブベアリングです。3列になっているところが特徴です。従来のベアリングのパッケージと同じところに入るように作っているのですが、3列にすることによって、転がり抵抗をかなり減らせるようになっています。特に直進の時に有効で、実はもう電気自動車に採用が決まっています。

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---:フリクションが53%減とはすごいですね。

田中:そうなんです。これは本当にすごいことです。ただ、どのメーカーに決まったかについては、まだ言えないんですけどね(笑)

---:モーターに対しても、サイズやパワーなどいろいろな要求がありますね。

田中:我々はエネルギー・デンシティと言っているのですが、これからは、ある体積の中にどれだけエネルギーを出せるモーターを突っ込むかということが重要になってきます。要は小さく軽くということが大事になってきます。

そうするとやはり巻線の密度が重要です。銅線には銅抵抗という、電気を通すと熱に変わってしまう部分があります。これをサーマルマネジメントでいかに減らしていくか。モーターというのは、あのスピードで回っていて、しかも奥のほうに位置するものなのでなかなか難しいです。外側に水やオイルを回すということはできますが、中までとなるとなかなか難しいです。だからまだ全然商品化されてはいないですが、ローターのワインディング、中の巻線を直に冷やす手段はないかというような研究もしています。

---:モーターにはまだ進化の余地があるんですね。

田中:自動車会社さんと話していると、みんなそこに集中して見ているようです。そこについては、基礎技術からもう一回見なければいけないという会社さんが多いです。

---:モーターは効率的にはかなり高いので、進化の余地がそんなにないのかなと思っていましたが、そうではないのですね。

田中:私も7-8年前に「モーターなんて買えばいいじゃないか」と同じようなことを言っていました(笑)。ベアリングにしてもそうです。どこのベアリングでも見た目は一緒ですが、エンジニアに聞いてみると、「ここが違う」「あそこが違う」「このコーティングが違う」などと言い出します。レースのボールが走る溝の削り方とか、そういったことでも高速耐久性などが大きく変わります。

---:ものすごく速く回転する部品もありますよね。

田中:エンジンだと今まではせいぜい回っても7500回転ほどでした。モーターはもう1万2000回転、高速のモーターですと2万回転というものもあります。そうなると同じベアリングでは持ちません。

---:しかもトランスミッションがないものが多いので、高速を走っているとずっと高回転で回るということですね。

田中:モーターについてはそうです。そのスピードで回りっぱなしです。その領域に入っていくと、オイルにジャブ漬けというようなものでは、こんどはオイル自体が抵抗になってしまいます。なので、こんどはオイルをどうやって掻き出そうかというようなことなど、いろいろなことを考えています。

◆熱害のないEVで素材から最適化

---:モーターになると、エンジンとは違うことが求められるのですね。

田中:逆にガソリン車のときは、エンジンの排気ガスの熱害の問題が常にありました。そのせいでプラスチックは使えなかったのですが、プラスチック屋さんにとっては、電気自動車はチャンスだと思います。

---:熱がそんなに厳しくないからですね。

田中:車重は航続距離に大きく響いてくるので、少しでも軽くしていき、バッテリーをその分小さくできるというような利点が出てきます。軽量化、小型化というのは、電気自動車になるとさらに大事になってきます。

---:前提が変わったことによって、素材のレベルから様々な最適化が図れる領域があるということですね。鉄を樹脂に変えたり。

田中:私はよくファースト・ウェイブと呼んでいるんですが、今の電気自動車の市場はちょうど、各社のモデルがひと通り出揃ったという段階で、セカンド・ウェイブがもうすぐ来るのですが、それは27、28年頃だと私は読んでいます。

なぜかというと、その頃になると電気自動車と内燃機関の比率が大きく変わり変わり出すからです。その時には競争がものすごく激しくなりますから、そこに今作っている電気自動車を投入してももう勝てないです。

---:世代が変わらないと駄目なんですね。

田中:商品性も、お客さんの期待値もそこでガラッと高くなって変わってくるはずです。そこで何ができなければならないのかというのを、かなり危機感を持って皆さん見ている気がします。

田中氏が登壇するオンラインセミナー「EV海外OEM・部品メーカーセミナー 第4回 次世代を動かすシェフラー」は3月9日開催。申込締切は3月7日正午まで。セミナーの詳細はこちらから。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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