全固体・ナトリウム?次のトレンドは軽量化・次世代電池の今後…富士経済 山口正倫氏[インタビュー]

全固体・ナトリウム?次のトレンドは軽量化・次世代電池の今後…富士経済 山口正倫氏[インタビュー]
全固体・ナトリウム?次のトレンドは軽量化・次世代電池の今後…富士経済 山口正倫氏[インタビュー]全 3 枚

資源確保など課題はあるが、急速な電動車市場の立ち上がりは電池需要の増大につながっている。ニーズはイノベーションのドライバーとしても機能するので、各国は課題克服に向けて次世代電池の開発にいそしんでいる。

3月29日に開催するオンラインセミナー「次世代電池(全固体・革新型)の開発状況と市場展望」では、富士経済 エネルギーシステム事業部 第二部の山口正倫氏が、電池市場における中長期展望の参考になる次世代電池の市場および開発動向、問題点などを洗い出す。現状の2次電池市場とその課題について、山口氏に話を聞いた。

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■ニーズと課題克服のせめぎあい

本稿でいう「電池」は、とくに断りがなければ充電可能な2次電池を指すものとする。また、「次世代電池」は、全固体電池、ナトリウムイオン電池、リチウム空気電池、金属リチウム負極電池、リチウム硫黄電池、フッ化物電池などを指す。LFPは現行のリチウムイオン電池として分類し、次世代電池には含めない。

電池業界の現在の動向はどうなっているのか。山口氏は「脱炭素化を背景にしたEV市場の拡大により、電池の需要も増えている。モビリティ需要以外では、ESSなどエネルギーストレージ需要も拡大している。スマートフォンやウェアラブルデバイスなど民生用電子機器でも拡大傾向が続いている。」と分析する。

非常に好調な電池市場だが、旺盛な需要は一方で、資源調達が無視できない課題として立ちはだかる。リチウムやニッケル、コバルトなどのレアメタルに加え銅も世界的な不足が懸念され、電池のコスト高の要因となっている。さらに、電池の安全性確保や性能限界が見られるリチウムイオン電池の性能向上も課題だ。

課題克服が既存電池のブラッシュアップや技術開発にもつながっている。「次世代電池のようなこれまでと違う素材、違うアプローチの電池にも注目が集まっている。代表的なものは、性能と安全性を両立させる全固体電池だろう。資源問題ではナトリウムやカリウムイオン電池などポストリチウムイオン電池の開発が進んでいる」(山口氏)。

■全固体電池にかかる期待

次世代電池のうち、直近の話題はやはり全固体電池だ。ポストリチウムイオン電池は、まだ研究開発段階のものが多いが、全固体電池は各国で量産化に向けた取り組みが始まっている。特徴は、名前のとおり電池を構成する電解質を固体にすることで安全性を担保しつつ、高容量化や入出力特性の向上を実現できる可能性があることだ。

富士経済の予測によれば、次世代電池の市場は2022年の61億円程度から2025年には1,000億円を超えると見込まれている。全固体電池の市場が立ち上がれば2040年には4兆508億円に達する可能性がある。CAGRにしてじつに43.5%という予測数値だ。

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全固体電池には硫化物系と酸化物系の2種類を中心に研究が進められている。硫化物系全固体電池は、電解質が柔らかく大容量化に向けた量産プロセスの構築が期待されるが、製造時に有毒ガスである硫化水素を発生させる可能性があるため徹底した露点管理が必要となる。また、酸化物系全固体電池は、小型のものが一部で実用化されている。電気化学的安定性が高く、耐熱性・耐久性にも優れているため、屋外に設置されるIoTセンサやFA機器などのバックアップ電池、ウェアラブルデバイス向けの電池としての採用が期待されている。

マクセルではコイン型の硫化物系全固体電池を開発しておりFA機器での採用が進んできている。また、将来的にはドローンなど中・大型機器への展開を考えてセル開発を進めている。

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国内自動車メーカーでは、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業がxEVへの搭載を目指している。トヨタ自動車はハイブリッド車からの実用化をアナウンスしており、日産自動車は2028年までに乗用車(EV)に搭載するとしている。本田技研工業は乗用車・二輪車を念頭に開発を進めている。

■電池ガリバーの中国の動き

欧米勢は、電池スタートアップを巻き込む形で全固体電池に取り組み、中国は疑似固体電池・半固体電池だ。固体電解質にゲルやイオン液体、電解液を微量に添加を開発しながら市場および技術動向を注視している。また、中国CATLがナトリウムイオン電池へのコミットを表明したことは、業界にとってインパクトをもって迎え入れられたという(山口氏)。

「電池業界のガリバーであるCATLが開発を発表したことで、ナトリウムイオン電池市場が活発化する可能性がでてきたからだ。電池容量ではリチウムイオン電池に若干劣るものの、資源のポテンシャルとコストメリットで、定置型蓄電池等への応用が広がるかもしれない。」

全固体電池の課題は、量産体制の確立の他、資源調達にからむコスト問題、そして製品ライフサイクルを含んだサプライチェーンの構築だ。既存電池の性能が向上してくる中で、価格にみあった付加価値が創出できるかどうかもポイントとなる。山口氏は、

「拡大する電池需要は全固体電池の需要や応用を広げているが、市場の主流は従来型のリチウムイオン電池になるだろう。高エネルギー密度化や超急速充電への対応といった付加価値がつけられる高級車や、省スペース化が求められる商用車など、用途に合わせた普及をするのではないか」

と予測する。

■新しいアプリケーションへの期待

次世代電池のもうひとつのトレンドは「軽量化」だ。単に重さを軽くするのではなく、同じ容量でも、あるいは大容量でも従来品よりも重さを軽くすることが重要だ。500Wh/kgがひとつの目安となっているが、ドローンや航空機でとくに求められる要件だ。

アプリケーション視点では、飛行体において革新的な新電池のニーズが高まる可能性がある。たとえば成層圏で飛行を続ける無人航空機型基地局(HAPS)のような用途だ。このような用途では、サイクル特性より軽さと容量が優先される。サイクル特性に制限があるようだと乗用車への応用は難しいが、軽量化は空飛ぶクルマや業務用サービスロボット、ドローンでのニーズは高い。

電池は一般に低温に弱いとされている。この課題についてはナトリウムイオン電池での対応が考えられる。

「リチウムイオン電池より低温特性の良いナトリウムイオン電池は、寒冷地での電池活用を広げる。制御は難しくなるがリチウムイオン電池とナトリウムイオン電池を組み合わせたハイブリッドパックも研究されている。」

温度によって特性の異なる電池をうまく使い分けられれば、EVの航続距離を延ばしたり外気温・環境による性能のばらつきを抑えられるかもしれない。

電池産業は、課題も少なくないが、その分技術開発も盛んで新しいニーズの掘り起こしにもなっている。電化はカーボンニュートラルには必須とも言われているので、自動車業界としてもゼロエミッション車、次世代車両の最重要技術のひとつとして注目すべきだろう。3月29日開催のセミナーで、山口氏がここでの話のさらに詳細を解説する予定だ。

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《中尾真二》

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