◆義務化された「EDR」の活用
2022年7月から販売される新型車には、イベント・データ・レコーダー(以下、EDR)の搭載が義務化された。EDRは、衝突の直前から衝突した間の車両のデータを記録する装置。音や、ドラレコのような動画ではなく、数値として記録されていくものである。
もともとは、エアバッグの誤爆を検証するために搭載されていたものを進化させ、事故解析に使えるよう開発&法規化されたもの。アクセルやブレーキをどのくらいの力で踏んだか、ハンドルをどう操作したか、どの角度でどのくらいの衝撃でぶつかったのか、などなどが記録されていく。
池袋で発生した暴走死傷事故では、当初、加害者が「ブレーキが効かなくなった」と無罪を主張していたものの、検察側が提出した、「アクセルペダルを踏み続けていたEDRの解析結果」が証拠として採用され、実刑判決が出されている。EDRはこのように、(1)事故原因の解明 に活用されるほか、(2)適正な修理費の算出 にも活かされる。
では、事故が起きたとき、今後はEDRのデータが証拠として使われるようになっていくのだろうか。というか、今現在、EDRはどう活用されているのだろう?
◆0.5秒の空白
そこで今回は、もみのき・友近法律事務所の弁護士で、名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所の特任准教授でもある友近直寛氏に話を聞いた。友近氏はこれまで、損保会社の顧問弁護士を長く務めてきた経験から、交通事故時の人の曖昧な証言に頼っている現状を変え、事故状況を正しく再現するためにEDRに期待して活動をしている一人である。
まず、EDRでとられたデータは、信頼できるんですか?
友近弁護士(以下、友)「EDRに記録された数値自体は、信頼できます。これでクルマを動かしているので、自動車メーカーも一番、気を使っている部分ですから」
EDRは米国連邦法規に基づいて作られており、記録すべき必要項目など基準を満たさないとリコールの対象にもなるという。
友「ただ、メーカーによって、数値をとる頻度が違うんです。0.1秒毎にとるところはまだいいんですが、0.5秒毎にとるようなところもある。そうすると、0.5秒間の空白部分ができるんです。その間に、もしかしたら突発的な動きが起きているかもしれないので、ドラレコの映像や人の証言を集めて、仮説を検証していきます」
0.5秒毎に記録していくのは、荒くないのだろうか。実際、現場を知る友近弁護士も苦労している様子も感じられる。せっかく車両搭載が義務化されたのに、これでは使い勝手が悪いではないか。
友「今後、自動運転が出てくると、自動運転がらみの事故も出てくるので、今、自動運転の記録装置の仕様は、国際会議で話し合われています。さすがに0.5秒毎ということはないと思います。ただ、いくら細かくしても点でとっていくため、行間は出てくるはず。点と点の空白を埋める作業は残ると思います」
EDRのデータだけでは事故を確実に再現できているとはいえない、ということは、池袋の事故もEDRの証拠に疑義が生じたんですか?
友「それはないです(きっぱり)。あのケースは、ペダルの踏み間違いで、ずっとアクセルを踏んでいたというデータがとれています。もっとも加害者があの状況のなか、コンマ数秒ごとの空白タイミングにアクセルとブレーキのペダルを踏みかえていたら別ですけれど……」