モビリティデザイナーへの登竜門、現役デザイナーも感心する提案多数…コンテスト表彰式

モビリティデザイン大賞:『MLO ムロ』 菅﨑瑞希君 岡山県立岡山一宮高等学校2年
モビリティデザイン大賞:『MLO ムロ』 菅﨑瑞希君 岡山県立岡山一宮高等学校2年全 10 枚

公益財団法人自動車技術会のデザイン部門委員会が企画する『第11回モビリティデザインコンテスト』の表彰式が3月27日に開催された。今回から名称が変更され、カーデザインからモビリティデザインになったことで、より幅広い価値を持つ提案が集まっていた。

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第11回モビリティデザインコンテスト第11回モビリティデザインコンテスト

◆デザイナーはまだ見えない未来の方向性をイメージし共有できる存在

自動車技術会のデザイン部門委員会が行うモビリティデザインコンテストは、人材育成をプログラミングして次世代のモビリティデザイナーの育成につなげていこうという施策の一環で行われている。

「モビリティデザインを取り巻く環境は、100年に一度といわれる大きな変革期を迎えており、これは単に電動化を主とした動力源の変化や、運転の自動化だけでなく、交通インフラの変化によるクルマの使われ方や所有の仕方、あるいはデザインを含めたクルマ自体の形が、従来我々が正しいとされていた常識が通用しなくなってきている。いままでクルマに関わって、同じ方向に向かっていけばよかった人たちが、新たな方向に向かわなければいけない」と時代背景を語るのは、デザイン部門委員会人材育成ワーキングリーダーを務めるトヨタの堀井育郎氏だ。

そこで、「まだ世の中にないもの、ない形を想像できること。まだ誰にも見えていない未来を想像できる能力を持ったデザイナーの存在は大変重要になっている。デザイナーはただ絵を描くだけではなく、新しいイメージを具現化し、皆が向かっていく目標を共用のものにできる重要な存在だ。モビリティデザインの世界は新しい価値の創造に向けてさらにクリエイティビティを高めていく必要がある」としたうえで、「私たちは創造することの喜びを学べる場作りをしっかりと企画推進していこうということでこの人材育成活動を進めている」という。

モビリティデザインコンテストは、「感性の敏感な時期にある思春期の中高生に焦点を当て、自分は将来何をやりたいのか、どんな仕事に就きたいのかを考え始める時期に、何かを作り出す楽しさに気づいてほしいという思いと、自動車開発への志望者の裾野を拡大し、世界をリードするすごいデザイナーの誕生につなげていきたい」ということからスタート。

自動車技術会のホームページには、モビリティデザインに挑戦というページがあり、モビリティデザインの心得や必要な能力、そして技が学べる学習の扉。学校や就職先が分かる進路の扉。そしてこのコンテストの扉で構成。この3つの扉の相乗効果としてモビリティデザインの創造の世界を学ぶということを目指しており、モビリティデザインコンテストもこのホームページ上で展開された。

今回モビリティデザインコンテストは11回目を迎え、“カーデザインに挑戦”から名称が変更された。その理由について堀井氏は、「近年様々なジャンルの乗り物が増えてきた社会動向を踏まえ、第7回のコンテストから自動車に限らない広い範囲の乗り物ということでアイデアを募集しており、応募作品も中高生の皆様の視点で時代のトレンドを捉えた自由な発想の提案や、社会的な問題に目を向けた提案がとても増えてきた。このような提案の広がりは、自動車技術界における人材育成上の目的である、新領域への拡大への適応、創造性を養える人材育成にもかなうと捉え名称を変更した」とその理由を説明した。

◆10年後の暮らしを楽しく

モビリティデザインコンテストの今回のテーマは“10年後の暮らしを楽しくする乗り物”だ。「現在のクルマにとらわれない全く新しく創造されたオリジナリティあふれる革新的なデザイン」が募集されたのだ。応募資格は全国の中学生をA部門、高校生並びに高校専門学校生をB部門とし、募集期間は昨年の11月1日から本年の1月16日までの3か月間とされ、提案スケッチとともに、作品の考え方やアイディアをまとめた説明図のセットでの応募とされた。

今回の応募総数は329件で、ここ数年毎年300件を超える応募があり、特に近年は、「個人だけではなく学校単位での応募も含め新規の方が増えており、私たちの取り組みが少しずつ広がりを見せている」とのことだった。

審査方法はデザイン部門委員会において、“テーマに沿った作品になっているか”、“自分が考えているイメージや機能が絵に表現されているか”、“新規性、進歩性、特創性、近未来での実現性があるか”の3点をもとに、現役のデザイナーやエンジニアなど32名により審査が行われた。

◆デザイナーが驚く作品の数々

今年受賞した作品は以下の通り。それぞれの講評とともに紹介する。

モビリティデザイン大賞(総合的に最も優れた作品で、A部門とB部門を合わせた全体で1名):『MLO ムロ』 菅崎瑞希君 岡山県立岡山一宮高等学校2年

モビリティデザイン大賞:『MLO ムロ』 菅﨑瑞希君 岡山県立岡山一宮高等学校2年モビリティデザイン大賞:『MLO ムロ』 菅﨑瑞希君 岡山県立岡山一宮高等学校2年大賞を獲得した菅崎瑞希君と自動車技術会常務理事の東雄一氏大賞を獲得した菅崎瑞希君と自動車技術会常務理事の東雄一氏

デザイン振興ワーキンググループリーダー、デンソーの生駒知樹氏は、「人を運ぶのではなくモノを運ばせるという発想が斬新で面白いデザインモビリティだ。中心の荷台は四方どこからでも荷物を載せることができる円筒状のデザインで、荷台の回転や低い車高など使い勝手がよく考えられている。その荷台を強調するような駆動部とフレームも相まって荷物が主役という見せ方も見事だ。菅崎さんは絵に現れているように、ユーザーの視点で街中でどのように使えばいいかを考え抜かれたのだろう。発想が面白いだけでなく、こんなモビリティがあったら街が楽しくなりそう、人はもっと幸せになりそう、これは実現したい、そして実現できそうというレベルにまとまっている。総合的に非常に優れた作品だ」と高く評価した。

モビリティデザイン賞(イメージや機能が最も優れて絵に表現されている):
・A部門 『MOBAR』 加藤凜君 三重県四日市市立三滝中学校2年

モビリティデザイン賞:A部門 『MOBAR』 加藤凜君 三重県四日市市立三滝中学校2年モビリティデザイン賞:A部門 『MOBAR』 加藤凜君 三重県四日市市立三滝中学校2年

「自動運転中に何ができるのか、何をさせるのかは次世代のモビリティ社会にとって重要。移動するバーという発想やスクエアなタイヤというものは審査するデザイナーにすごく大きな刺激を与えた。これはスクエアが面白いというだけでなく、バーという静寂が求められる空間だからこそ、スクエアなタイヤが大切だと考えるとなるほどと思わせる点も高評価だ。居住空間を最大限に確保するスクエアなフォルム、スクエアなロゴなど、スクエアをポイントにする見せ方も見事だ。形の捉え方、描き方など高いスケッチ力もあり、動くバーを魅力的に伝えられている作品だ」と述べた。

・B部門 『ZERS』 増田朔山君 横浜市立横浜商業高校3年

モビリティデザイン賞:B部門 『ZERS』 増田朔山君 横浜市立横浜商業高校3年モビリティデザイン賞:B部門 『ZERS』 増田朔山君 横浜市立横浜商業高校3年

「都市農業の発展を見据えて、若者に農業に興味を持ってもらうべく、農業用とは思えないスタイリッシュなモビリティとなっている作品に審査するデザイナーはみな驚かされた。陰影の付け方、パースの捉え方など高いスケッチ力もあり、これだったら若者は農業に従事したいだろうと思わせ、感じさせるデザインである。カスタマージャーニーマップで考えられている点も素晴らしく、パネルへのまとめ方もセンスを感じさせる作品だ」。

・ダビンチ賞(工学的な工夫に優れた作品):『CONVEYING TOWN』 山口レオン剛史君 私立東山中学校2年

ダビンチ賞:『CONVEYING TOWN』 山口レオン剛史君 私立東山中学校2年ダビンチ賞:『CONVEYING TOWN』 山口レオン剛史君 私立東山中学校2年

「街をモビリティとして捉えて提案した作品。街中に張り巡らされた動く道路のおかげで、人は体ひとつで気軽に出かけることができる。物流も同様に動くため、宅配業者に依頼するといった手間も必要なく、この街に自動車が入ってくることはないという、交通事故のない安心安全な社会の実現を期待させる作品だ。社会インフラを大きく変えるダビンチ賞に相応しい壮大な発想の作品である」と講評。

審査員特別賞(特に創造性に優れ、審査員の総意で選出すべきであるという作品):『ON-boo』 宇野暁斗君 奈良工業高等専門学校3年

審査員特別賞:『ON-boo』 宇野暁斗君 奈良工業高等専門学校3年審査員特別賞:『ON-boo』 宇野暁斗君 奈良工業高等専門学校3年

「医療現場における車椅子の新しい形を提案した作品。名前のごとくおんぶされるような形で移動するという発想が面白い車椅子だ。ベッドからの乗り移り、階段の移動などON-booならではの安心感のある乗り方だけでなく、AIによるサポートやインターフェースデザインも考えられている。看護師など人手不足が懸念される中、このように安心できるモビリティであれば、医療現場の助けになることが期待できる作品だ」とのこと。

審査員特別賞:『CV:TOL』 浜名克聡君 神奈川県立湘南高等学校2年

審査員特別賞:『CV:TOL』 浜名克聡君 神奈川県立湘南高等学校2年審査員特別賞:『CV:TOL』 浜名克聡君 神奈川県立湘南高等学校2年

「昨年のコンテストに引き続き、今回も非常にメカ愛を感じる、人命救助の作品を提案してもらった。救急車とそれを運ぶ飛行機と盛りだくさんな内容で、駆動部、放熱部など相変わらず細かい部分まで丁寧に書き込まれている。ここまで描くのは大変だったろうなと思い、感心の一言だ。浜名さんのデザインにかける情熱が伝わってくる作品だ」と評価した。

◆多様化する未来に向けて

自動車技術会教育会議議長で早稲田大学の近藤圭一郎氏は、「今回名前がカーデザインからモビリティデザインと変わり、その作品を見てみると、クルマをデザインするというのは動くものをデザインするということであるのに対し、モビリティデザインは動くこと、あるいは動くことの価値をデザインするものだと感じた。動くことの価値までデザインできる若い方々が、将来自動車の業界を支えていく、自動車の世界を支えていく、あるいはどんどん開いていくという期待をとても感じた」と所感を述べる。そして、「過去10年間の受賞者はデザイナーの職務に就かれた方が多く、登竜門になっている」とこのコンテストのスタンスが十分に発揮しているとした。

また、自動車技術会の東雄一常務理事も、「自動車からモビリティという言葉に変えたことによってすごく大きな広がりが持て、すごく良い作品につながった。名前を変えたら、その名前にぴたっと合うような作品をたくさん作っていただけたことは凄い。都市の過密化の問題、高齢化社会の問題、さらには農業の課題。そういう社会の課題をきちんと捉え、それを作品に織り込んで素晴らしいデザインだ。スケッチをする技術やスキルはもちろん大事だが、同時に創造性を豊かにし、自分で考えそれをどうやって人に分かってもらうように作品にしていくかも大事。これからどんどんいろいろな経験をして、もっともっと素晴らしいモビリティのデザインを作っていただきたい」と期待を語る。

最後にデザイン部門委員会委員長でスズキの田口雄基氏は、「(デザイン部門委員会は)二輪、四輪、バスやトラック、人を運んだり物を運んだり、教育に関わる方などたくさんの方で構成されている。それぞれにベストを尽くして活動はしてるが、どうしても自分が関係する範囲に集中してしまう。しかし世の中は多様性が求められ、ただ走るものを作っていればいいという時代ではなくなった」と述べる。従って、「コンテストの評価も、あるジャンルの乗り物とせず、モビリティとしてどんな価値があるのか、使った人がどのように生活ができるようになるか、楽しくなるのか、すごく困ってる人が楽になるななどが表現できてるのかどうか。それが一番核にある価値であり、それをうまく表現できているかだった」と話す。

そして、「実は各社理想があり、意見が分かれたこともあった。しかし、冷静に考えると世界で求められる多様化は、使う人にとってベストなものであり、そのためにはきめ細かく考えていかなければいけないという時代が来ていると思った。それに相応しい提案がコンテストに来てほしいと考えていたら、本当にそういうアイディアがたくさん出てきて、非常に良かった。ちょっと感動し、正直学ぶところがあった。自分たちが考えてきた世界は、決められた形式に偏っていたところもあったと気づかされたので、すごく感動した」とし、「使う人がいて、その人たちがワクワクすることがすごく大事。常に人がいるんだ、使う人がいるんだということが核心だということを考えながらアイディアを考えていくことは、今回のコンテストだけではなく社会に出てからもずっと変わらないことだと思う。それを重点的に繰り返し続けていけば、頭にイメージしているものが、実現できていく、そういう未来ができると期待をしている」とエールを送った。

表彰式後には受賞者たちを相手にマンツーマンで、現役のカーデザイナーたちが今回の受賞作品をもとに、直接デザインスケッチの描き方だけでなく、スケッチのレイアウトからプレゼンテーションのポイント、ひいては進路相談まで細かく講習。受賞者たちは、この貴重な機会を逃すまいと、その一言一言に真剣に耳を傾け、テクニックを身に付けるべくそのペンの動きひとつひとつにキラキラとした目を向けていたのが印象的であった。

第11回モビリティデザインコンテスト第11回モビリティデザインコンテスト

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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