二次電池展2023で、「ポストリチウムイオン電池として期待される次世代電池の最新動向」と題するセミナーが実施された。登壇したのは、東京理科大学の駒場慎一教授と、京セラの三島洋光主席技師だ。駒場教授の講演は“ナトリウムイオン二次電池の研究開発と今後の展望”、三島氏は“クレイ型リチウムイオン電池の開発状況と今後の展望について”がテーマである。
ナトリウムイオン電池実用化の鍵を握る電極材料
駒場教授によるナトリウムイオン電池とは、リチウムより原子番号の大きいナトリウムを正極に使った電池で、正極と負極の間をイオンが行き来することで電気が流れる点は、リチウムイオン電池と同じ仕組みだ。ただし、これまでナトリウムイオン電池に関しては、電圧が低く、リチウムイオン電池が1990年代に実用化のめどを立てたあと、注目されずに来た。リチウムイオン電池が1セルで4ボルト(V)の電圧をもたらすのに対し、ナトリウムイオン電池は2.5V程度でしかなかったのだ。
電力(ワット:W)は、電圧(V)×電流(アンペア:A)で求められる。電気で物を動かそうと同じ値の電流を流したと仮定すると、電圧が低ければその分の電力が不足する。不足を補うため、電流量を増やせばワット数は満たせても、抵抗も増え、電流を増やした分だけ動力を増大できるわけではない。机上の計算ならともかく、現実には抵抗分が割り引かれるからだ。そこで、抵抗を少なく、効率を上げるには電圧を高くすることになる。
そのうえで、そもそも電池容量(ワット・アワー:Wh)が少なければ、電気自動車(EV)を例にすると、一充電走行距離が短くならざるを得ない。このため、ナトリウムイオン電池の将来性は電圧が低いゆえに疑問視されてきた。
しかし、2009年頃にナトリウムイオン電池でも3Vを実現できるのではないか、との論文が発表された。2009年といえば、三菱自動車工業から軽EVの『i‐MiEV(アイミーブ)』が発売された年だ。翌10年には日産自動車から『リーフ』が発売され、世界初の量産市販EVがいよいよ誕生した。それでも、過去10年ほどEV販売は必ずしも好調とはいえなかった。だが、ここ数年、世界的に気候変動による自然災害の甚大化が明らかになり、各地域でEV導入の強制的な政策が発表されるようになった。そして2015年のパリ協定を経て、日本でも2050年までに脱二酸化炭素を実現する目標が明確化された。
EVの普及台数が増えだすと、駆動用バッテリーとして使われるリチウムイオンの資源問題が浮上。リチウムは、海水に含まれるほか、地殻中にも広く分布するので、資源枯渇という切羽詰まった資源ではない。それでも、急速な電動化においては需要に供給が間に合わない懸念は残る。こうした世相の変化に、リチウムイオン電池に次ぐ電池の模索が注目される状況となったのである。そして、ナトリウムイオン電池の開発と実用化が後押しされるようになった。