同じ並列4気筒ネイキッドでこうも違うのか!? マイルドな『CB1000R』かワイルドな『MT-10SP』か

MTの頂点にいるヤマハMT-10 SP(右)とスポーツCBの頂点にいるホンダCB1000R(左)
MTの頂点にいるヤマハMT-10 SP(右)とスポーツCBの頂点にいるホンダCB1000R(左)全 40 枚

◆2台の価格差が性能差に直結

スーパースポーツのエンジンを搭載したホンダとヤマハのネイキッド。それがここで紹介するホンダ『CB1000R』とヤマハ『MT-10SP』だ。その出立は似ているし、2台ともストリート最強を思わせるパフォーマンスを持っているが、実際にはまるで異なる2台に仕上がっている。

良い意味でコンサバなホンダ CB1000R(左)とアグレッシブなヤマハ MT-10 SP(右)良い意味でコンサバなホンダ CB1000R(左)とアグレッシブなヤマハ MT-10 SP(右)

まずはその価格や装備を見てみよう。

●CB1000R:167万900円~
●MT-10SP:218万9000円

こうしてみるとMT-10SPが高く見えるけれど、それは装備が大きく異なるから。MT-10SPはオーリンズ製の電子制御式サスペンションや6軸のIMUを使った『YZF-R1M』譲りの電子制御を搭載。またエンジンも最新YZF-R1Mのコストのかかった仕様である。一方でCB1000Rのエンジンは2006年式の『CBR1000RR』がベースでサスペンションは機械式、制御もエンジンモードと連動するトルクコントロールなどを装備するがそこまで緻密な仕様ではない。

ヤマハ MT-10 SP。エンジンはMotoGPマシンの技術がフィードバックされた、クロスプレーンクランクを採用した並列4気筒。YZF-R1よりもクランクの慣性を増やして一般道で扱いやすい特性としている。11,500rpmで166psを発揮するヤマハ MT-10 SP。エンジンはMotoGPマシンの技術がフィードバックされた、クロスプレーンクランクを採用した並列4気筒。YZF-R1よりもクランクの慣性を増やして一般道で扱いやすい特性としている。11,500rpmで166psを発揮する

他にもMT-10SPはYZF-R1譲りのスイングアームやリンク式リヤサスペンションを採用するなど、ネイキッドとは思えないスポーティなディテールの数々を装備している。ちなみに機械式サスペンションを装備するスタンダードのMT-10は192万円である。

ホンダ CB1000R。2006年式のCBR1000RRのエンジンをベースに低中速寄りにチューン。スーパースポーツのエンジンがベースとは思えないほどフレキシブルな味付けとなっているホンダ CB1000R。2006年式のCBR1000RRのエンジンをベースに低中速寄りにチューン。スーパースポーツのエンジンがベースとは思えないほどフレキシブルな味付けとなっている

さらにエンジンスペックを比較するとCB1000Rは145ps/10500rpm、MT-10SPは、166ps/11500rpm。重量はCB1000Rが213kg、MT-10SPが214kg。シート高はCB1000Rが830mm、MT-10SPが835mm。身長165cm、体重65kgの筆者(小川勤)でも、足着き性や取り回しで特にストレスを感じることはなかった。

◆同じ並列4気筒エンジンでも異なる個性

ヤマハ MT-10 SP。ウエット路面ではスライドコントロールを巧み介入させてくるヤマハ MT-10 SP。ウエット路面ではスライドコントロールを巧み介入させてくる

新しい楽しみを発見できるに違いないと思わせる圧倒的個性の塊であるMT-10SPは、跨るのも躊躇するほどのいかついデザイン。セルを回すと他の並列4気筒エンジンにはないエキゾーストノートが轟く。「ヴァー、ヴァッヴァッ」不等間隔爆発特有の鼓動感がエキゾーストノートからも伝わってくる。バラついたような音を発するが、走り出すと振動はなく、どこまでもスムーズに回っていこうとする。

対してオーセンティックなスタイルのCB1000Rは、その雰囲気の通り慣れ親しんだ並列4気筒エンジンの音を発する。低速では穏やかに、そして高回転にいくほどに甲高くなる「フォーン」という音がCBらしい。エンジンの回転を上げるほどに「いかにもパワーが出ています」というフィーリングは、これぞホンダ直4エンジン!と思わせてくれる。

そしてこの2台のエンジンは速度レンジでまったく異なる表情を見せる。MT-10SPはモードにもよるが市街地の速度域では「もっと回してくれ」と急かしてくるような印象。CB1000Rは市街地では終始穏やか。高いギヤの3000rpm以下でも粘りを見せ、難しさを感じさせない。

ホンダ CB1000R。身長165cmでもフィットするポジション。CB1300シリーズの巨体を征服する走りとは対極にあるCBだホンダ CB1000R。身長165cmでもフィットするポジション。CB1300シリーズの巨体を征服する走りとは対極にあるCBだ

ただ速度レンジを上げていくとMT-10SPのフラットにトルクを乗せていく扱いやすさが光る。モードによって動きを変えるオーリンズ製の電子制御式サスペンションのおかげもあり、わずかなスロットルワークでもきちんと車体を反応させる。もっともアグレッシブなAモードは正直なところ公道では手に負えないが、モードを下げれば一気に身近になる分かりやすさが良い。

対してCB1000Rはエンジンモードはシンプルで扱いやすいものの、モードを変えてもサスペンションの動きは変わらないため、モードを落とした時の車体の反応は出にくく、MT-10SPほどの懐の深さを感じさせない。ただ、CB1000Rはどんなシチュエーションでもとてもマイルドなのだ。

◆マイルドなCB1000RとワイルドなMT-10SP

跨った瞬間に安心感に溢れるCB1000R。このホンダ特有の安定感は素晴らしい。ライダーを急かすことなく、すべてを許容してくれる優しさがある。万能という表現は「何でもこなすけれど面白くない」という印象に繋がりがちだが、CB1000Rは市街地からツーリングまで本当に万能で、どこまでもマイルド。常に気を抜けない刺激だらけのMT-10SPのAモードから乗り換えると、この万能さにホッとすることが多かった。

水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒。排気量は998ccで145psを10,500rpmで発揮水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒。排気量は998ccで145psを10,500rpmで発揮

一方でMT-10SPはシチュエーションやキャリアに応じてモードを選択しないとならない。モードによっては厳しくもなるし、従順にもなるからだ。Aモードは明らかにライダーを挑発しているのか思うほど過激。是非とも挑んでいただきたい。

この手のバイクにライダーが歩み寄るのは難しいが、MT-10SPならバイクをライダーに歩み寄らせることが可能。モードに連動する電子制御式サスペンションは、スポーティな走りのためだけではない。難しいことを考えずに、スイッチを押すだけで乗り心地や馴染みやすさを得ることができるのだ。そういう意味ではMT-10SPはモードによってワイルドにもマイルドにも変身する。トップエンドのレースで培った技術を速さと馴染みやすさの両方に結びつける上手さがMT-10SPにはある。

ヤマハ MT-10 SPヤマハ MT-10 SP

CB1000Rは数あるストリートファイター系の中では圧倒的にマイルド。昔ながらのネイキッドらしさと最新ネイキッドの良いところを取り入れており、万能で優しいのである。MT-10SPはアグレッシブなルックスが与えられ、とにかくコストを注ぎ、それが速さはもちろんだが上質さや快適さに直結している。

スーパースポーツをネイキッドにしたバイクに見られがちな2台だが、その中身は別物だ。ただわかりやすいのはホンダファンはCB1000R、ヤマハファンはMT-10SPという選択で間違いはないということ。新しい価値観が与えられた2台だが、メーカーの個性がしっかりと表現されている2台でもあるのだ。

ホンダ CB1000R、ヤマハ MT-10 SPと筆者(小川勤氏)ホンダ CB1000R、ヤマハ MT-10 SPと筆者(小川勤氏)

■5つ星評価(MT-10SP)
パワーソース:★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★

■5つ星評価(CB1000R)
パワーソース:★★★
ハンドリング:★★★
扱いやすさ:★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★

小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

《小川勤》

モーターサイクルジャーナリスト 小川勤

モーターサイクルジャーナリスト。1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

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