チューニング界の“陸王”がダートラに?!あのHKSが本気で挑む意外な理由とは

2023年 JAF全日本ダートトライアル選手権 第3戦 DIRT‐TRIAL in NASU
2023年 JAF全日本ダートトライアル選手権 第3戦 DIRT‐TRIAL in NASU全 42 枚

HKSが2023年の全日本ダートトライアル選手権に参戦中だ。なぜ今、HKSがダートラに参戦するのだろう?その経緯やマシンスペックを探るべく、栃木県の丸和オートランド那須で開催された「2023年 JAF全日本ダートトライアル選手権 第3戦 DIRT‐TRIAL in NASU」を取材した。

◆創業50周年を期に全日本選手権へ復帰、若いスタッフの人材育成の場に

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はじめにダートトライアルという競技について少し紹介しよう。ダートトライアルは、ラリーのSS部分のみを行うような競技。または未舗装路で行うジムカーナといったところだ。ラリーはドライバーとコ・ドライバーの2名乗車で行うが、ダートトライアルはドライバー1名のみで行う。レースのように全車が一斉にスタートするのではなく、1台1台が順番に走りタイムを競う「スピード行事」のなかに含まれる競技。

丸和オートランド那須は特殊なコースで、ダートコースのなかに一部ターマック(舗装路)が組み込まれている。地方選手権もあるダートトライアルだが、全日本ダートトライアル選手権は、スーパーフォーミュラ、スーパーフォーミュラライツ、ラリー、ジムカーナ、カートともに6つ設けられている全日本選手権の1つのカテゴリーだ。

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ダートトライアルのクラス(車両規定)は基本無改造PクラスやPNクラスから、自由に改造さらには製造までできるDクラスまでさまざまな種類が存在している。HKSが参戦するクラスは、もっとも自由にマシン作りができるDクラスとなる。

最近のHKSのモータースポーツ活動はドリフト競技やサーキットでのタイムアタックが多くなっているが、1994年にはオリジナルエンジンによる全日本F3選手権への出場、1994年の全日本ツーリングカー選手権(JTCC)への参戦、1995年のイギリスF3参戦、2002年の全日本GT選手権(JGTC)への参戦など、数多くのモータースポーツに参戦してきた歴史がある。

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今回の全日本ダートトライアル選手権への参戦について、HKS 代表取締役社長水口大輔氏は「当社は今年創業50周年を迎えました。この機会にしばらく遠ざかっていた全日本選手権に参戦しようということになりました。どのカテゴリーにするか迷ったのですが、ダートトライアルのように参加型のモータースポーツがいいだろうということになったのです。このプロジェクトには若い社員を中心に、モータースポーツ部門以外の社員も関わるようにしています。社内で参加したい人材を募り、参加してもらっています。従来の経験者は一歩引いてアドバイスする存在になってもらい、知識や技術、ノウハウを伝承していただきます」とのこと。

さらに深く話を聞いていくと、HKSでまだ極めていない分野としてダートラに挑戦するという側面も。加えてHKSのオリジナル車高調整サスペンションであるハイパーマックス(HIPERMAX)について、今後ダートラモデルの市販化を含めた開発の場としても活用されるそうだ。

◆HKSらしいマシンメイクが光るランエボX、独創的すぎる“助手席マウント”の吸気系

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さてHKSのダートトラックマシンを紹介していこう。マシンのベースは三菱『ランサーエボリューションX』。エンジンはエボXに搭載されている2リットル4気筒の4B11型をHKSの2.2リットルキットを使って排気量アップしている。2.5リットルも試したそうだが、2.2リットルのほうが相性がいいとのこと。過給はGT3RSターボキットを用いる。エンジン出力は450馬力から600馬力程度で、コースによって出力特性を変更しているとのこと。

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エンジンまわりのレイアウトはノーマルとはかなり異なる。まず冷却系統の配置変更だ。ご存じのように通常、ラジエータは車体の最前部にあり、そこから水路が設けられてエンジンを冷やしている。しかしこのエボXは、ラジエータを助手席部分に移動しそこから水路を設けている。こうすることでフロント部分はインタークーラーのみの装着となり、効率的に吸入エアを冷却できる。また吸気系統もフロントではなく助手席に移動されている。

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排気は車内を貫通しリヤバンパー部分からまっすぐ後方に出されている。この方式を採った理由は、ボディ下面をフラットフロア化したかったからにほかならない。フラットフロアとすることで、空気抵抗を減らし最高速を稼ごうという考えだ。車両規定により、車室内にラジエータや排気管などに配置でないため、車内は運転席、助手席部分、後席の3つのボックスに隔壁によって分離されている。ボディはフルカーボンで、車重は1250kg程度に抑えられている。

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足まわりはHKSのハイパーマックスのダート用。3重構造でサブタンク付き。こちらについては、D車両だけでなく下のクラスでも使える仕様の開発も念頭におかれており、さらには市販品のフィードバックも考えられている。ホイールはADVAN Racing「RC3」にタイヤは横浜ゴムのアドバンA031、アドバンA036、アドバンA053の3種を用意。ダートトラックの場合は、天候によって路面が変わるだけでなく、走行順位が遅くなると他車が路面を削っていくため路面状況が刻々と変化するため、そこを見極めてのタイヤチョイスが重要だという。

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タイヤサイズは205/65R15で、これは参加者の紳士協定によるもの。レギュレーション上はタイヤサイズも自由だが、紳士協定でタイヤサイズを1サイズにしているのは、コストダウンが目的。タイヤサイズを変更していくと、足まわりからデフやミッションのギヤ比などさまざまな部分に影響がでる。そこを統一することは、コストを大きく抑える効果があるというわけだ。

◆ドライバーは経験豊富な田口勝彦選手!第3戦の結果はまさかの結末に…?

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HKSランサーエボリューションをドライブするのは岡山県出身の田口勝彦選手。1972年生まれで18歳からダートトライアルに参戦。20歳で全日本ダートトライアル初優勝。2021年からは全日本ダートトライアル選手権に参戦。2015年、2016年、2018年はシリーズチャンピオンに輝いている。

HKS&田口勝彦選手は2022年10月に行われた「2022年 JAFカップオールジャパンダートトライアル JMRC全国オールスターダートトライアル in 関東」に、HKSランサーエボリューションにて初参戦(スポット参戦)し3位入賞を果たす。2023年はシリーズ参戦を予定しており、3月18日、19日に京都コスモスパークで開催された「第1戦 2023 FLEET Dirt in KYOTO」で優勝を果たす。

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第2戦のスピードパーク恋の浦ラウンドは中止になったため、今回の第3戦が実質的な第2戦となった。土曜日の練習走行時のタイムはトップ差約1.5秒の4位につけ、セッティングの煮詰めなどを行うことで優勝を狙える圏内であったが、日曜日・決勝時の1ヒート目にまさかの横転でリタイヤとなってしまった。

3回転を超える横転であったが田口勝彦選手は無傷。ダートトライアルではHANSの装着は義務ではないが、田口選手が率先してHANSを装着していたことも功を奏したのだろう。さらに幸いだったのは、水口社長以下スタッフが笑顔だったこと。モータースポーツはいつ何が起こるかわからない、ドライバーが無事だったこともあり、今回のクラッシュに対して前向きに接していたことは幸いである。水口社長も「次までにやることが増えてしまいましたが、育成目的の参戦ですから、スタッフはさらに育つチャンスを得たことになります」とポジティブな発言だ。

取材時には次回の「2023年 JAF全日本ダートライアル選手権 第4戦 北海道ダートスペシャル in スナガワ」は5月27日、28日の開催に向けて修復作業が行われるとのことであった。しかし予想外にマシンの損傷は激しく第4戦は欠場、第5戦の復帰を目指して作業を続けていくとのこと。

タイトなスケジュールのなかマシンの修復に時間を要すことは用意に想像できるが、ただで転ぶだけでは終わらないHKSの復活劇に期待したい。

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《諸星陽一》

諸星陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

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