「開いたジッパーを閉じていく」BEV時代に向けたメルセデスベンツのデザイン戦略

ビジョン・ワンイレブンとそのデザインを指揮したゴードン・ワグナー。
ビジョン・ワンイレブンとそのデザインを指揮したゴードン・ワグナー。全 8 枚

メルセデスは2025年以降の新型車をすべてBEVにする。この新時代に向けて、デザインにも変化が現れてきた。それが「アイコニック・ラグジャリー」という新たなテーマだ。

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「アイコニック・ラグジャリー」を体現するのが、先日発表されたコンセプトカーの『ビジョン・ワンイレブン』。披露の場となった南カリフォルニアにある同社デザイン拠点で、チーフデザインオフィサーのゴードン・ワグナーに「アイコニック・ラグジャリー」に込める想いを聞いた。キーワードは「ジッパー」である。

◆モダンとプログレッシブ

まずはワグナー時代のメルセデスのデザインを振り返っておこう。

2008年にデザインを総指揮する立場になったワグナーが、基本コンセプトとして打ち出したのが「センシュアル・ピュアリティ」。官能性と純粋性を両立させる、言い換えれば情熱と知性という対立する概念を二律創成させる考え方だ。

それによってメルセデスらしい「モダン・ラグジャリー」を表現するというのが、2012年の先代『Aクラス』以降のデザインである。しかしそこに電動化の波が押し寄せ、デザイン戦略にも変化が現れた。

2019年のEQCはICEのGLCよりシンプルで進歩的なデザイン。ここからICEのモダン、EQのプログレッシブという2つの方向にジッパーを開くデザイン戦略が始まった。2019年のEQCはICEのGLCよりシンプルで進歩的なデザイン。ここからICEのモダン、EQのプログレッシブという2つの方向にジッパーを開くデザイン戦略が始まった。
メルセデスベンツ GLC。この写真は2019年のもの。メルセデスベンツ GLC。この写真は2019年のもの。

2019年の『EQC』はメルセデス初の量産BEV。ICEの製品群とデザインを差異化するため、ワグナーはEQCで「プログレッシブ・ラグジャリー」というテーマを掲げた。「モダン」の一歩先を行こうというわけだ。EQCでそれをヘッドランプと一体化したグリル、折れ線のないシンプルなフォルムなどで表現した。

『EQS』や『EQE』の「ワン・ボー・デザイン」、すなわちひとつの弓なりのカーブでシルエットを作るデザインは、「プログレッシブ・ラグジャリー」のひとつの極みと言えるだろう。フロントにエンジンという大きなカタマリがないことを活かして、ICEの『Sクラス』や『Eクラス』とはまったく違うプロポーションを実現した。

◆差異化のためにジッパーを開いた

「これまでやってきたことを、我々は『ジッパーを開ける』と呼んでいる」とワグナー。「センシュアル・ピュアリティ」というひとつのジッパーを、「モダン・ラグジャリー」と「プログレッシブ・ラグジャリー」の二つ方向に開いてきたのが、EQC以降の作戦だった。ワグナーがこう語る。

「その段階では、BEVを合目的にデザインすることが大事だと考えていた。電動車を求める人々に明快なメッセージを送るために、EQシリーズはICEのメルセデスよりプログレッシブなデザインにした。BEVのメルセデスとして最初のアイコニックなデザインはEQSだと思っている。スタンスやシルエット、空力などの点でEQSはとても革新的だからね」

「そうやってジッパーを開いてきたわけだが、今では多くのBEVが市場にある。日本からも中国からもBEVが出てきている。しかし私からすると、どれも同じだ。そこに我々がどんな違いを持つラグジャリーを提供できるのか? 我々のアイコニックな歴史を振り返り、それを未来に向けて解釈し直して、普通を超えた何かを創造したい。だからこそ今後はアイコニックな道に向かうのだ」

EQSは「ワン・ボー・デザイン」の造形手法で、EQシリーズが目指すプログレッシブ・ラグジャリーのテーマをアイコニックに表現する最初の例になった。EQSは「ワン・ボー・デザイン」の造形手法で、EQシリーズが目指すプログレッシブ・ラグジャリーのテーマをアイコニックに表現する最初の例になった。

◆ジッパーはすでに閉じ始めている

すべての車種がBEVになれば、ICEとの差異化をデザイン表現する必要はなくなる。「アイコニック・ラグジャリー」を目指して、ジッパーを閉じるときが近づいているようだ。

「市場で今すぐに、ということではない。我々デザイナーは市場の3年から5年先を見ているからね。現在の市場ではまだ合目的なデザインが合っているので、2020年代末に向けてジッパーを閉じていく見通しだ」

しかし新型Eクラスを見ると、これはICEだが、ジッパーがすでに閉じ方向に動き始めているようにも感じる。

新型Eクラスにオプションのスーパースクリーン。ドライバーディスプレイを独立させつつ、インパネのセンターから助手席側へディスプレイが広がる。新型Eクラスにオプションのスーパースクリーン。ドライバーディスプレイを独立させつつ、インパネのセンターから助手席側へディスプレイが広がる。EQS/EQEで選べるハイパースクリーン(写真はEQEセダンのAMG)は、ドライバーディスプレイも含めてインパネ幅一杯に3つのディスプレイを1枚のガラスでカバーしている。EQS/EQEで選べるハイパースクリーン(写真はEQEセダンのAMG)は、ドライバーディスプレイも含めてインパネ幅一杯に3つのディスプレイを1枚のガラスでカバーしている。

グリルの周囲にグロスブラックを配し、それとヘッドランプを連続させた顔付きは、EQシリーズに一歩近づいた印象だ。インテリアではインパネのセンターから助手席側までをカバーする「スーパースクリーン」をオプション設定。これはEQS/EQEの「ハイパースクリーン」を連想させる。

「その通りだ。我々は今、フュージョン段階にある」とワグナー。ICE車のデザインをよりプログレッシブしながら、その後の全電動ブランドになったメルセデスのデザインは、ジッパーを完全に閉じて「アイコニック・ラグジャリー」というひとつのテーマで統一されるわけですね? 確認を求めるようなこの問い掛けに、「イエス。わかってるね」とワグナーは微笑んだ。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは審査委員長を務めた。

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