【和田智のカーデザインは楽しい】第3回…新型プリウスは、トヨタ史上最高のデザインかもしれない

和田智氏が新型プリウスについて「トヨタ史上最高のデザインかも」と語る理由とは。
和田智氏が新型プリウスについて「トヨタ史上最高のデザインかも」と語る理由とは。全 6 枚

連載3回目となる『和田智のカーデザインは楽しい』。カーデザイナー和田智がいま一番高く評価する日本車の1台、新型トヨタ『プリウス』について2回に分けて語る。なぜプリウスのデザインが良い、と言い切れるのか。そこから見えて来るものはクルマそのものだけでなく、プリウスに関わるチームへの高い評価だった。

◆新型プリウスはトヨタ史上最高のデザインかも

----:今回の話題は5代目となる新型トヨタ プリウスです。和田さんはこのクルマのデザインを、今の日本車の中でも高く評価しているということですが、その理由を教えてください。

和田智(敬称略、以下和田):今回の新型プリウスはトヨタ史上最高のデザインかもしれません。街で初めて出会ったとき、衝撃すら覚えました。そのくらいすごい。ぼくはカーデザイナーですから、その同志が素晴らしい仕事をしたということを業界だけでなく、広く皆さんにお伝えしたいと考えたのです。

ただ、トヨタといえば“キング・オブ・ジャパニーズカー”です。ぼくの立ち位置からいうと、本当はあまり褒めたくない(笑)。できれば2番手、3番手のメーカーのクルマを褒めたいんですけどね。実はこの連載で、後日『マツダ3』も取り上げようと考えています。この2台、プリウスとマツダ3は現在日本を代表するデザインのクルマです。そこまで言い切る人はなかなかいないから、ぼくが言い切ります。

この2台は世界でも最高峰のデザインです。これをきちんと伝えることが重要なんです。

----:伝えることが重要、というのは?

和田:日本の様々な業種のポテンシャルのなかで、いま残されているエネルギーは、デザインにあるんだということをぼくは言いたい。デザイナーやクリエイターの活用方法によっては、日本が再生するきっかけにすることもできるはずです。ですが、いま現在その活用が極めてうまくいっていないと感じていて、そこに視点を持っていかないと、次なるクリエイションが生まれてこないということをすごく感じているんです。

今ぼくの仕事のうち85%はEVのデザインで、グローバルでやっていて、そういう仕事をしていると、大体5年後にどうなるかは個人的には見えています。ですから、中国圏、ヨーロッパ圏、アジア圏、アメリカ圏といった中で、日本の立ち位置もほぼ明確にわかっている。

ぼくはフリーランスで、世界を自由に動いて仕事をしていますので、ぼくのコメントが、メーカーの中に沢山いるプロダクトデザイナーや、カーデザイナーたちにとって、何らかのヒントになればいいかなと思ってもいるんです。

◆まれにみる開発チームのなせる業

----:つまりこのプリウスを通して日本のデザイン力を伝えていきたいわけですね。

和田:はい。今回のプリウスのデザインを含めた開発チームには、トヨタの中でも特別なものを感じるんです。CMや広告もそうで、これもトヨタ史上最高峰だと言える。ここまで含めてデザインの領域だとぼくは捉えています。

つまりプロダクトブランディングの話になるのですが、トータルで共通認識をしっかり持った素晴らしいチームが、プロダクトからコミュニケーションまで手掛けているんです。この統一性、なおかつこのクオリティがトヨタ史上最高なのです。

ぼくも長く自動車業界にいて、多くのプロダクトデザインを手掛けてきていますし、ブランドのデザインもやっていますので、色々な宣伝もクルマも見てきています。そういった経験を踏まえてこのチームに感じたことは、過去のプリウスをつくり上げた人たちに対する敬意です。ぼくは彼らと直接話したわけではないのですが、クルマやCMを見ると、今回のチームはものすごく謙虚でクレバー、そしてトヨタ史上最高にスマートなチームだと感じます。

3BOXタイプでCALTY(トヨタのカリフォルニアにあるデザイン部門)のデザインから始まった初代から、2代目、3代目、4代目、そして今回の5代目。デザイン的にネガティブに働いたモデルもあったかもしれませんが、それでも非常にうまく、社会の流れとリンクして受け止められた時もあった。そうした流れの中で、「ハイブリッド」を掲げたエポック車として、正常進化してきている。そうした経緯や進化の度合いをきちんと踏まえてこのチームがあるということは、今回トヨタを再評価するきっかけになりました。

そして、開発責任者の大矢賢樹さん、チーフデザイナーの藤原祐司さんをはじめ、この開発チームが、非常に冷静にプリウスについて考え、分析して、さらに、豊田章男さんのいわゆるスポーツエモーショナルなマインドを、うまく利用したなと捉えています。

◆プリウスが初めてスタイルに注目した

----:では、デザインとしては初代から新型までどのように進化してきているのでしょうか。

和田:面白いフォーカスポイントはプロポーションなんです。初代から始まって2代目、3代目、4代目、5代目と繋がっていくのですが、初代プリウスは確かに3BOXではありますが、シナリオとしてのストーリー性は全ての代に感じるんです。つまり、突然新型が生まれてきたというよりは、それまでの恩恵の中で、うまくデザインを変化させていったのかなと。それぞれプロポーションを、ハイブリッドとしての明確な形のスタンスとしてつくり上げてきているんですね。

特に3代目はプロポーションが良かった。実はシルエットの方向性は2代目と3代目、そして5代目にはとても近似値があるんです。もしかすると、2代目や3代目を描いたときに、今回描いたスケッチにほぼ近い形のプロポーションがあったのではないかと想像できます。

もうひとつエンジニアリング的な側面として、プリウスは燃費向上が最大の課題です。そのためにタイヤを小径化させるとともに、乗用車として空間を広く取るという命題がありますので、その中でどうあるべきか。それについて、それぞれの代で回答を出してきているのです。


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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