【ホンダ N-BOX 新型】新シボを採用し、リビングライクに…CMFデザイナーにインタビュー

本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さんとオータムイエロー・パールのホンダ N-BOX
本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さんとオータムイエロー・パールのホンダ N-BOX全 16 枚

ホンダは軽スーパーハイトワゴンの『N-BOX』を今秋にフルモデルチェンジする。標準車とカスタムの2グレード構成で、カラー等でも明確な差別化が図られた。そこでCMFデザイナーにそのこだわりを聞いた。

◆リビングライクな空間を目指して

---:松村さんが新型N-BOXのCMFの担当が決まった時にどう思いましたか。

本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さん(以下敬称略):本当に私でいいんですかという感じです(笑)。N-BOXはホンダの顔でもあるクルマですし、日本の皆様に本当に多く乗っていただいているので、重圧があったのは事実です。

本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さん本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さん

でも、カラーデザインは内外装、パッケージなど全部に関わっていかないといけないものですから、皆さんとコミュニケーションをとって、連携して完成したのがこの新型N-BOXです。ですからカラーデザインだけでは到底できない、高い次元にまで達成できていると思います。

---:カラーデザイン全体のコンセプトはどういうものでしょうか。

松村:毎日使えるおうちのような、リビングライクな空間、デザインを目指しています。それを一番体現できているのが標準のN-BOXで、そこからキャラクターを振ったのがカスタムという位置づけです。

---:松村さんが今回一番やりたかったことは何だったのでしょう。

松村:CMFのコンセプトは“リビングライク、おうちライク”ですが、これまで通りですと、どこか既存のクルマ感が拭えないかなと若干思っていました。そこでこのコンセプトを達成するために新しいシボを開発したのです。かなり苦労しましたが、ここでちょっと踏み出さないと既存のものと変わらないとユーザーの方々に感じられてしまいそうですし、時代も進化して他のクルマも変わってきています。ですからきちんと時代を反映しつつホンダならではの表現をしなければと思っていました。

◆新シボは家の壁紙をイメージ

---:新型N-BOXのCMFで一番こだわったのはどういうことでしょう。

松村:一番は質感です。そのためにシボを新しくしたのです。N-BOXは軽自動車であるということもあり、様々な用品や加飾などをつけることは難しいのですね。その状況下で、この空間をリビングライクなものにするには、どういった表現をすれば一番満たせるかと考えていきました。そこでシボをよりおうちの壁材のように変えることはどうかと思ったのです。シボは大面積で使われていますので、それを新しくするだけでもかなり雰囲気が変わりますし、質感もかなり高くなります。ですからそこに一番こだわりました。

ホンダ N-BOXの新シボホンダ N-BOXの新シボ

いままでの革シボと呼ばれるものは結構丸みのある豊かな立体感としたもので、それはそれで充実感はありました。一方で新しいシボは、これまであまり使われていなかったものなので、フラットですが、でも立体感もきちんと表現出来ているのです。そのシボ自体もある程度角の丸みを持たせるなど、そういう細かい調整をしています。やりすぎるとダレてしまって壁材に見えなくなってしまったり、そのバランスを取るのにはかなり苦労しました。さらにこれは作る側のお話ではありますが、意外と型を抜くのが大変だったんです。

---:軽自動車で新しいシボを開発して使うことはとても珍しいですね。

松村:使っても一部だったりでしたね。やはり時代変化もありますので、N-BOXはおうちライクっていうところを目指して、より鮮明に分かりやすく、本当に新しくなったよといったところが伝わればなと思って、新たにシボを開発したのです。

---:これは松村さんが発想したのですか。

松村:インテリアデザイナーと一緒にこういう方向性にしたいと考えていった結果です。これが革シボでしたら雰囲気も含めて一歩踏み出せていないと感じられてしまいそうでしたので、新シボをやってみようとなりました。

---:このシボはおうちの壁紙をイメージしてということでしたが、壁紙以外にも色々な案があったと思います。その中でなぜ壁紙をイメージしたのでしょうか。

松村:おうちの壁紙は情報量として全くないわけではありませんが、目立ちませんよね。その一方で存在していることで安心感もあると思うのです。そう感じるのは目立つ柄ではなく、目立たない柄があるからこその感覚だと思うので、そこを目指しました。例えばもう少しモルタルっぽい、ポコポコしたような案もありましたが、それだと壁紙というよりはコロコロコロと塗った感じに見えてしまったんです。そこで質感をよりワンランクアップさせて、きちんとピシッとクロスを貼っているイメージを持たせた石目調にしました。

ホンダ N-BOXの新シボホンダ N-BOXの新シボ

また、カスタムではN-BOXと違って黒を使っているんですけど、黒になった時でも見栄えがするように、それぞれが両立できるものを考えた結果、この石目調に行きついたんです。N-BOXの明るい内装で使っていても、カスタムの黒になってもどちらもすごく馴染んでいながらも、それぞれで表情が違って見えるのが特徴かなと思っています。具体的には黒ではちょっと硬く見える。一方で標準のN-BOXのように明るいカラーだと柔らかく見えて、でも壁っぽいというところを目標に作りました。

ホンダ N-BOXカスタムの新シボホンダ N-BOXカスタムの新シボ

◆それぞれ“僅かに”違う異色ミックス樹脂トレイ

---:今回、異色ミックス樹脂トレイというインパネ上のトレイがありますが、これはどういうものでしょう。

松村:標準車ではベージュを基調に複数のカラーを取り入れました。樹脂製でありながらコルクのような見え方を実現し、塗装やフィルムといった従来加飾とは異なり、樹脂材そのもので加飾と機能を両立させる新しい表現となっています。

ホンダ N-BOXのミックス樹脂トレイホンダ N-BOXのミックス樹脂トレイ

これは打ちっぱなしの樹脂なんですけど、そこに今回の石目調のシボを使っていますので、かなり質感が高く、見た目にも粒々が入っていますので、傷つきのタフネスさも担保されています。ですから安心してガシガシ物を置いて使えることを狙っています。ただ、作り上げるためにこの粒々を混ぜたようなものはこれまでなかったので管理の部分ではかなり苦労しました。

---:管理というのはどういうことですか。

松村:塗装やフィルムとは違って、樹脂の打ちっぱなしですからこの粒々の入り方が微妙に違ってくるんです。本来であれば全部同じであったり、一色でできているのが普通なんですが、今回はその粒々の混ざり方によってちょっとだけ明度が変わったり、色味が変わったりするのですね。そういった管理、工差の部分で、どこを基準にするかを工場側と話し合いながらかなり長い時間をかけて仕上げていきました。

---:そうすると品質はきちんと担保したうえでクルマによって微妙に違っている可能性はあるということでしょうか。

松村:そうですね。大きくは変わらないので、よっぽど見比べないとわからないのですけど、でもその粒の入り方はそれぞれ違っています。ですから本当に自分専用の1台になるかなと思っています。どちらかというと自然物に近いようなイメージですね。

ホンダ N-BOXカスタムのミックス樹脂トレイホンダ N-BOXカスタムのミックス樹脂トレイ

◆オータムイエロー・パール、スレートグレー・パールがお勧め

---:ボディカラーについてもお話を聞かせてください。標準車のN-BOXとカスタムとではかなりイメージを変えてのラインナップですね。それぞれの特徴を教えてください。

松村:まずN-BOXのカラーラインナップですが、国内では白黒シルバーの需要がかなり高いんです。ですので、そこはきちんと担保しつつ、あまり派手すぎず、さりげなく日常と暮らしに馴染みながらも、自分の個性をちょっと出したい人に向けて“ファッションスタイル”というラインナップを新設しました。ファッションスタイルでは3つの外装色のトーンを揃えてラインナップすることで、この色は自分には合わないというのではなく、どれも自分に合いそうだからどれにしようかなと選ぶ楽しさ、所有する喜びにつながってくれればいいなと思って、あえて同じようなトーンで提供しています。

ホンダ N-BOX 新型ホンダ N-BOX 新型

---:ホンダとして新色のオータムイエロー・パールは特徴的ですね。

松村:はい、いままでの黄色はもっと明るくて、パッションに寄った感じだったのですが、これはもうちょっと肌なじみ良い、普段使いでも目立つというより華やかさを持ちながらもおうちや自分に馴染むような方向で作っています。

ネイルもボディカラーに揃えた本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さんネイルもボディカラーに揃えた本田技術研究所デザインセンターCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)デザインPLの松村美月さん

---:意外に思ったのは標準車に赤系がないことです。

松村:これはN-BOXカスタムとN-BOXとでしっかりと世界観を切り分けたかったからです。N-BOXカスタムには、コーディネートスタイルで唯一赤がラインナップされています。この目的は、カスタムのコーディネートスタイルでしか選べない色ということで、所有感、特別感をこの赤に付与させたいということです。この赤は彩度が高くちょっとクールでダークな感じがカスタムにあっていると思いますし、カスタム自体もクールで、夜の街に馴染むようなイメージです。

そのほかカスタムの特徴としては、ベーシックのカラーラインナップの中では、2代目で人気のミッドナイトブルー・メタリックやトワイライトミストブラック・パールは引き続き採用し、色味の強いものをラインナップ。ベーシックカラーでも無彩色と有彩色を選べるようになっていますので、カスタムならではの特別感があると思います。

一方でコーディネートスタイルは、もうちょっとモダンで、スポーティーさとか走りといったところを満喫できる外観にしたかったので、スレートグレー・パールと赤と白を入れました。

ホンダ N-BOXカスタムホンダ N-BOXカスタム

---:この中で一番おすすめのカラーはどれですか?

松村:スレートグレー・パールですね。ソリッド調なんですが、ハイライトが黄色や、オレンジっぽく光るので、かなり質感の高い外装色になっていてます。本当にいまっぽい、モダンなのですが、きちんと走りを予感させるという特徴も捉えている色ですので、このN-BOXカスタムに似合う色になっているでしょう。

ホンダ N-BOXカスタム(スレートグレー・パール)ホンダ N-BOXカスタム(スレートグレー・パール)

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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