マツダから「Retro Sports Edition」が登場---ハズしの抜け感という新たな世界観

Retro Sports Editionが新設定されたのはCX-5、CX-30、マツダ3の3車種
Retro Sports Editionが新設定されたのはCX-5、CX-30、マツダ3の3車種全 46 枚

マツダは『CX-5』と『CX-30』、『マツダ3』に特別仕様車「Retro Sports Edition」を追加し、9月4日から予約受付を開始した。好評の「Black Tone Edition」をベースに専用のカラーコーディネーションを施し、新たな世界観を提示するスポーティグレードの誕生だ。

◆イメージカラーはジルコンサンド

CX-5 グロスブラック塗装のグリルにブラックメッキのシグネチャーウイングという組み合わせはBlack Tone Editionと同じだが、バンパーの黒いガーニッシュはBlack Tone Editionの材着からグロスブラック塗装にグレードアップ  ホイールアーチやサイドシルのクラッディングも同様にグロスブラックで引き締めることで、視覚的な質感を上級のSports Apperanceに匹敵するレベルにまで高めているCX-5 グロスブラック塗装のグリルにブラックメッキのシグネチャーウイングという組み合わせはBlack Tone Editionと同じだが、バンパーの黒いガーニッシュはBlack Tone Editionの材着からグロスブラック塗装にグレードアップ ホイールアーチやサイドシルのクラッディングも同様にグロスブラックで引き締めることで、視覚的な質感を上級のSports Apperanceに匹敵するレベルにまで高めている

「Retro Sports Edition」のエクステリアは、「Black Tone Edition」と同様に、グリルやガーニッシュなどの外装パーツをブラックで引き締めたデザイン。ただし2020年12月から『CX-8』も含めて展開してきた「Black Tone Edition」がポリメタルグレーメタリックをメイン訴求色にするのに対して、今回の「Retro Sports Edition」のイメージカラーはジルコンサンドメタリックだ。

ジルコンサンドは2021年11月にCX-5で初めて設定された新色。砂型鋳造に使われるジルコニウムからヒントを得たベージュ系のアースカラーだ。「Retro Sports Edition」の発売を機に、CX-30/マツダ3でもソニックシルバーを落としてジルコンサンドが新設定された。

しかしアースカラーのジルコンサンドがなぜ「レトロ・スポーツ」なのか? マツダは昨年11月、ロードスターにジルコンサンドを設定。「Retro Sports Edition」のデザイン企画を手掛けた松田陽一チーフデザイナーは、「ロードスターとジルコンサンドの組み合わせは、レトロ感のあるカフェレーサーのようなテイストを表現するものだった」と告げる。

ソウルレッドやマシーングレーは魂動デザインのモダニズムを体現するボディカラー。それらとジルコンサンドは、きわめて対照的だ。だからこそロードスターに新たな世界観を加えることができた。そう考えるとき、ジルコンサンドにアースカラーというだけではないメッセージ性があることに気付く。

◆ハズしの文化としてのレトロ

CX-30のRetro Sports Edition 「スタイリッシュなCX-30にちょい悪感を加えることで、新たな選択肢を提供する」と松田チーフデザイナーCX-30のRetro Sports Edition 「スタイリッシュなCX-30にちょい悪感を加えることで、新たな選択肢を提供する」と松田チーフデザイナー

そもそもなぜレトロなのか、というのも大きな疑問だ。魂動デザインに、そしてマツダ・ブランドに、レトロのイメージがフィットするものなのか…。松田チーフがこう答える。

「スポーツ表現の新たな選択肢を探したのが今回のスタート。スポーツカーのスポーツではない、カルチャー感のある切り口はないか? クルマ以外のトレンドも観察して、レトロがスポーツ表現としてあり得ると考えた」

例えばスポーツバイクの世界では近年、ネオクラシックなデザインが全盛だ。モダニズムだけでは趣味性の高い人々を満足させられない現実が、そこにある。

「以前は新しいモノや新しいが技術こそが良いモノだったけれど、今は自分にとって本当の良いモノは何かを見直すことが時代の潮流になっている」と語るのは商品企画部の新田諒氏。「そういう世の中の動きにも目を向けて、スポーツ表現の新しいカルチャーを表現したのが今回の「Retro Sports Edition」です」。

カルチャーを表現したとは興味深い言葉である。「レトロはハズしの文化なんです」と松田チーフ。「王道からちょっとハズして、抜け感を楽しむ。そういう肩肘張らない楽しみ方に、今の時代の気分があるのではないか」。言われてみれば、ファッションもそうだ。型通りに決めるのではなく、抜け感や着崩し感のあるファッションがトレンドになっている。

スポーツ表現にアースカラーを使うのは、確かにハズしだ。黒いパーツでボディを引き締めるのは「Black Tone Edition」と同じ。しかもパーツ色を材着から塗装に、あるいは塗装から漆黒メッキにアップグレードして黒さを増しているが、引き締める相手はジルコンサンドである。引き締まって見えにくいアースカラーだからこそ、そこに抜け感が生まれ、スポーツ表現がカルチャー表現に昇華されるのだろう。

◆テラコッタ&ブラックは本物感のあるハズし

マツダ3  天井も含めてブラックを基調としたインテリアに、テラコッタ色が映える。シートの黒いメイン材はパーフォレーションのないスエード調人工皮革  そこに縦長に入れた黒いアクセントは、馬のお尻の皮を使ったコードバンと呼ばれる最高級の革を模したものマツダ3 天井も含めてブラックを基調としたインテリアに、テラコッタ色が映える。シートの黒いメイン材はパーフォレーションのないスエード調人工皮革 そこに縦長に入れた黒いアクセントは、馬のお尻の皮を使ったコードバンと呼ばれる最高級の革を模したもの

「Retro Sports Edition」の内装色はスポーティなブラックを基調としつつ、シートをテラコッタ&ブラックで張り分けることでレトロ感を醸し出す。

シートのサイド材がテラコッタ色の合成皮革で、ブラックのセンター材は「レガーヌ」と呼ばれるスエード調人工皮革。セーレンというファブリックメーカーが生産する「レガーヌ」は、これまでマツダがときどき使ってきた同社製「グランリュクス」の進化版だ。カラー&トリム担当の星 正広デザイナーによれば、「繊維がより細く、組織がより緻密になった」という。

テラコッタはもともと素焼きの焼き物のこと。素焼きの色も原料の土によりさまざまだが、なかでも赤味を帯びた茶色をテラコッタと呼ぶようになった。乗馬の鞍に古くから使われてきたように、革の色としても定番のひとつだ。そんな伝統性がレトロな感覚を呼び起こす。

マツダの最新作で茶系のインテリアと言えば、CX-60のスポーティ系最上位グレード「Premium Sports」のタンがある。こちらは赤味より黄色味が強く、もう少し明るい色。魂動デザインの王道でスポーティモダンな茶系を追求したのがCX-60のタン内装だとすれば、テラコッタはちょっとハズし。本物感を担保した巧いハズしの色と言えそうだ。

センター材の黒いスエード調表皮はスポーティ表現の王道だが、それとテラコッタの組み合わせに懐かしさを覚える人も少なくないだろう。ファッションの世界で茶系とブラックのコディネートは、70年代から何度も流行を繰り返してきた。調べると、どうやら昨今はテラコッタ&ブラックのファッションが若い世代に人気らしい。年配者には懐かしく、若者には新鮮。レトロデザインのそんな二面性は、このテラコッタ&ブラックのシートにも当て嵌まるようだ。

ボディカラーはそれぞれの車種の設定色から自由に選べるので、ユーザーがイメージカラーのジルコンサンドを選択しない場合、「Retro Sports Edition」のレトロ感やハズしの抜け感を味わえるのはインテリアだけになる。テラコッタ&ブラックのシートが演じる役割は重要だ。ただし、デザイン意図を横に置いて内外コーディネートの観点だけで言えば、ジルコンサンドだけでなく、プラチナクォーツやマシーングレー、ジェットブラックもお薦めできると思う。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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