「軽の王者」に改良の余地はあるのか? 新型ホンダ『N-BOX』超キープコンセプトな理由と、6年の技術進化

ホンダ N-BOX カスタム 新型
ホンダ N-BOX カスタム 新型全 36 枚

軽四輪車の新車販売台数で8年連続第1位、登録車を含む新車販売台数でも2年連続第1位(いずれも直近の2022年含む)など、日本を代表するクルマに成長したホンダ『N-BOX(エヌボックス)』が、2017年8月の先代登場からおよそ6年2か月ぶりに、新型に生まれ変わった。

「従来型は商品としての総合力が高く、全方位でお客様から高い満足度をいただいていた」とは開発責任者・諫山博之さんの話。そこで新型『N-BOX』では、どこかを良くするというよりも、先代の良かった部分をより伸ばし、さらにいいクルマにしよう……というのが開発の方針だったようだ。

では実車の出来栄えは? 今回はホンダの本拠地である栃木のプルービンググラウンド内での限定的な時間、状況での取材からわかったことをお伝えしておこう。


◆超キープコンセプトな外観

ホンダ N-BOX 旧型(左)と新型(右)ホンダ N-BOX 旧型(左)と新型(右)

まず外観からいくと、写真でもおわかりのとおり超キープコンセプトだが、側面視で天地方向の窓とドアの比率を歴代のそれとしていることが、ひと目でN-BOXと判るポイント。スペックを見ると、ホイールベースも先代(もっといえば初代)と同じ2520mm。実は窓ガラスも、デザインの変わったリヤクォーターと、カメラ類が変わり上部のシェードをなくし視界をスッキリさせたフロントガラスがモノとしては新しいが、カタチとしては先代をキャリーオーバーしている。

一方でフロントマスクはデザインを大きく変えており、とくにノーマルの“人の瞳”を意識したというヘッドランプ、ボディ色を取り込んだフロントグリルのデザインは、シンプルで愛着の湧きそうな道具感を醸し出している。カスタムのフロントマスクも、それなりの主張はあるものの、いわゆるオラオラ感を出した訳ではないそうで、どちらかといえばサルーンのような落ち着いた上質感を出したといえばいいか。

◆格段にスッキリしたインパネと室内空間

ホンダ N-BOX カスタム 新型のインパネホンダ N-BOX カスタム 新型のインパネ

インテリアでは、乗り込んで最初に目に入るインパネまわりが、先代に対して格段に整然とスッキリした。先代は目の前のメーターをステアリングホイールの上から眺める配置でやや目に障ったが、新型ではインホイールタイプといい、TFT液晶メーターがステアリングホイールの内側に収まってみえるように再配置。このためフロントガラス下端の視界が開け、データ的にも従来よりも1.5m手前側まで路面が見えるようになっているという。

また(前述のフロントガラス上部のシェードの廃止で)後席からの前方視界も広がっており、これは乗物酔いをしにくくする効果もあるという。視界でいえば今までは左側方を確認するための小さな“ピタ駐ミラー”は側方/下方の2枚組み合わせだったが、下方についてドアミラー下に移設。つまり側方ミラーがひとつになったことで、パッと見て迷わず認識しやすくなった。

室内は先代も広々としていたが、新型では後席の肩口を内部構造とトリム形状の変更で幅方向に片側27.5mmずつ拡大。実際に座ってみるとその効果が実感できる。そのほかラゲッジルームでは、自転車の積み下ろしに配慮しフロアに凹みを作るなどの配慮も。

◆走りに進化の余地はあるのか?

ホンダ N-BOX カスタム 新型ホンダ N-BOX カスタム 新型

他方で走りの進化には驚かされた。実は先代の登場時に軽の水準を超えたスムースで快適な走りを体感しており、そこから進化の余地があるのだろうか?と思っていた。が、余地どころか実は「技術的な時代進化分を取り込んで仕上げた」(車体研究開発責任者・比嘉良寛さん)という力作で、先代のオーナーなら乗り替えれば違いが肌で感じられるはずだ。

とくに注力されたのが走行中の“雑味をなくす”ことで、たとえばサスペンションは、工場での組み付け方法を変えたことで、フリクションを減らし、良く動くようにし、このことでスムースで快適な乗り味が実現されている。サスペンションはノーマルとカスタムではタイヤサイズの差(14インチと15インチ)の微調整をしながらも味付けの狙いは共通だそう。ただしカスタムには専用のダンパーと、強化型のスタビライザー、スプリングを採用し、このことで性能に見合ったセッティングが施されている。

ホンダ N-BOX カスタム 新型ホンダ N-BOX カスタム 新型

またパワートレイン系では、CVTについても「ハード的には従来とまったく同じだが、制御を細かくやり直すことで雑味のない走りを実現させた」(トランスミッション研究開発担当・鹿子木健さん)という。そう話を聞き実車に試乗してみると、確かにCVTとは思えないリニアでダイレクトでスムースなマナーで「なるほど、だから先代よりも加・減速もスムースで、だから一層ドライバビリティが快適なのか」と肌で実感した。

パワーステアリングもEPSの制御が変わり、従来の予測制御から新型ではVSAの舵角センサーからダイレクトに信号を拾う方式の制御に変更。これにより応答遅れのない、スッと気持ちのいい操舵感が実現されているのもわかった。

◆軽自動車の王道であるからには

ホンダ N-BOX 新型(左)とN-BOX カスタム 新型(右)ホンダ N-BOX 新型(左)とN-BOX カスタム 新型(右)

「ホンダは人の感覚を大事にしたものづくりの会社。何かあればデータに出なくても自分たちで乗って“ん?”と感じ取りながら開発している。軽自動車の王道であるからには“乗り換えてよかった”と思っていただけるクルマに仕上げた」(パワーユニット開発責任者・秋山佳寛さん)という新型N-BOX。

今回の取材では一般公道に飛び出し、開通したばかりの宇都宮LRT(路面電車)の横に並んでの試乗は残念ながら叶わなかった。が、次回はジックリとリアルな自分の生活シーンの中で、行きつけのスーパーの立体駐車場のスロープや、高速道路や、我が家の愛犬を後席に乗せてのドライブを試すなどして“進化の真価”をさらに再確認しておきたい、と思った。

《島崎七生人》

島崎七生人

島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト 1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。

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