SDV時代、ソフトウェア産業が自動車開発にもたらすメリットとは...マイクロソフト オートモーティブ&モビリティ部門のCTOに聞いた【EdgeTech+ 2023】

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マイクロソフト オートモーティブ&モビリティ部門 CTO Pasula Reddy(パスーラ・レディ)氏にインタビュー
マイクロソフト オートモーティブ&モビリティ部門 CTO Pasula Reddy(パスーラ・レディ)氏にインタビュー全 4 枚

CASEの大きな潮流の中、自動車開発の現場はかつてないスピードで変化している。中でもより一層存在感を増しているのが、ソフトウェア分野のプレイヤーだ。ソフトウェアが車両の性能を左右するSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)は、従来の自動車とは異なる価値基準を持つ。

マイクロソフトはこれまでも自動車産業とつながりの深い企業だったが、近年ではAIの開発・活用にも力を入れておりその動向に注目が集まる。世界最大のソフトウェア会社として、どのようなスタンスを取りどのような技術やソリューションを提供するのか。11月開催予定の「EdgeTech+ 2023 オートモーティブ ソフトウエア エキスポ」において基調講演に登壇する、マイクロソフト オートモーティブ&モビリティ部門 CTO Pasula Reddy(パスーラ・レディ)氏に話を聞いた。

SDVにより自動車の設計プロセスが変わる

自動車の作り方が変わる。テスラの登場以来、そんな言葉が囁かれるようになってはいるが、イマイチ、ピンとこない人も多いだろう。ギガプレスなどの部品製造の変革も大きいが、なによりも自動車の価値の定義がハードウェアからソフトウェアに重きを置くようになっていることが重要だ。

従来、自動車は「すり合わせ」の妙のような作り方をしてきた。いわゆる垂直統合型の産業構造であり、自動車メーカーを頂点に掲げて、部品メーカーがそれを支えてきた。しかし“自動車がつながる時代”に差しかかり、自動車の開発もハードウェアを先に作った上にソフトウェアを搭載するのではなく、ソフトウェアを開発する視点から自動車のハードウェアを定義しようという時代になると、これまでとは自動車の設計プロセスが変わってくる。そのことを表現する言葉が、SDVである。これにより、自動車の設計が根底から変わる可能性を秘めている。

そうはいっても、まだピンとこないという人も多いだろう。時計の針を戻すことになるが、2016年にメルセデスベンツが「CASE(Connected, Autonomous, Shared & Service, Electric)」の考え方を発表して以降、自動車産業に大きなうねりが起きている。昨今騒がれている電動化や自動化は、単なる車載技術にすぎない。本当の変化は、クルマがつながる時代になって、モビリティサービスが生まれることだ。つまり、90年代以降にパソコンの世界で起きた変化と同じだ。スマホが生まれたことで、GAFAMのようなソフトウェア産業が加速した。当然、自動車もコネクテッドになると価値の定義がハードウェアからソフトウェアへと軸足を動かすことになるということだ。

実際、半導体不足でクルマが作れないという問題が起きたことでも、最近の自動車が半導体の塊になってきていることは実感できる。その観点からも自動車のあちこちに点在していた半導体を、車載コンピューター制御として統合するのは必然の流れだ。さらに、ハードウェアの設計においても、パソコンの世界と同じことが起きることになる。それがSDV、つまり仮想化技術によって、ITインフラやハードウェアを抽象化し、ソフトウェアによってこれらを統合的に制御しようという考え方だ。

Open AIと連携、LLM活用で市場投入への時間短縮

自動車開発にSDVの概念が導入される際、ソフトウェア開発の視点から自動車産業にもたらされるメリットとは何だろうか?

「車載ソフトウェアを開発するプロセスは、非常に構造化されており、リジッドです。それに対し、クラウド環境下でのアプリケーションソフトウェア開発は、非常に柔軟性があります。SDVはこれら2つの異なる視点からの設計手法の良い点を生かしながら、それらを結び付けます。SDVはクラウドネイティブのツールやツールチェーンの自動車開発フレームワークへの採用と組み込みを促進します」とレディ氏は語る。

要は、車載組み込みソフトウェアの開発と昨今のクラウド・ベースのソフトウェア開発では異なる世界観があるが、SDVの考え方を導入することで、これらの異なる世界をつなげることができる、というワケだ。

「マイクロソフトでは、オープンソースの統合開発環境であるEclipseを軸にしたEclipse Projectを運営するNPO『Eclipse Foundation』のサポートを拡大しており、その中にあるSDVワーキング・グループ内では、ツールチェーンとフレームワークの作成と採用を推進しています。SDVの導入によって、アプリケーション・ソフトウェアの開発を加速し、E/EアーキテクチャとECU/HPCを抽象化することが可能になります。ソフトウェア開発者は、E/Eアーキテクチャを抽象化することにより、クラウド環境下で車載アプリケーションを開発・テスト・検証できるようになるのです。また、これらのアプリケーションを車載で展開し、クラウドネイティブのフレームワークとツールチェーンを活用して継続的にメンテナンス、更新することもできます」(レディ氏)

「Eclipse Foundation」のSDVワーキング・グループ「Eclipse Foundation」のSDVワーキング・グループ Eclipse FoundationのSDVワーキング・グループ内では、ツールチェーンとフレームワークの作成と採用を推進しているEclipse FoundationのSDVワーキング・グループ内では、ツールチェーンとフレームワークの作成と採用を推進している

確かに、これまでにもマイクロソフトは自動車産業に寄り添う姿勢を見せてきた。加えて、同社はOpenAIに100億ドル(約1.5兆円)もの投資をするだけではなく、長期的なパートナーシップを結んでいる。最近では、「CoPilot」なるソリューションを展開し、マイクロソフトとOpenAIが協力してAIの開発を始めているなど、AIの開発でも抜きん出ている。実際、LLM(大規模言語モデル)は、AIによる様々なソフトウェアの開発を加速すると言われている。自動運転を例に挙げると、従来の機械学習が教師データをもとに一つ一つの操作を教えることを積み重ねるのに対して、LLMを活用した強化学習では、運転する世界観を教えてアルゴリズムに判断させる。

「LLMが自動車産業に提供できる価値は、複数あると考えています。第一にLLMは、コードや設定の自動生成において重要な役割を果たします。マイクロソフトではすでに『Github Copilot/Codex』を提供しており、これにより自動車の開発からマーケットに送り出すまでの時間が短縮できます。今後さらに、自動車に特化した言語や、サーバ・OS・ソフトなどの設定をサポートすることで、より高い次元に機能を向上させていく方針です。具体的に中核となる機能を挙げると、例えば、AD/ADASの開発環境で活用する場合、多様な運転のシナリオをあつかうための機械学習モデルを効率的に開発し、トレーニングするために使用することができます。この機能は、数億ものシナリオをシミュレートして、AD/ADASスタックをテスト・検証し、改善するためにも使用することができるのです」と、レディ氏は続ける。

オープンソースで提供、ティア1などの開発を支援する立場

マイクロソフトは自動車メーカーと築いてきた関係性をベースにすると同時に、AIの世界における注目株であるOpenAIとも深い関係性を築くことで、生成AIやLLMの手法を車載ソフトウェアの開発にも取り込もうとしているのだ。加えて、ソフトウェア開発のプラットフォームとして広く活用されているGitHUBのような自動でプログラムを書いてくれる機能を活用して、車載ソフトウェアを開発する動きも始まるに違いない。そうなると俄然気になるのが、Googleのような競合との差異だ。

「マイクロソフトのアプローチの重要な点は、再利用可能な自動車向け機能を開発するために、自動車産業を一気通貫できるオープンソース・エコシステムの構築にあります。Eclipse Foundation内のSDVワーキンググループでは、自動車メーカーはもちろん、大手部品メーカー、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)、SI(システムインテグレーター)、ハイパースケーラー(大規模クラウドサービスプロバイダー)といった自動車産業を横断した非常に強固な枠組みとなっています。すでに、Eclipse ChariottやEclipse Ibejiといったプロジェクトを担っており、それらをオープンソース化しています。これによって、ソフトウェア開発者は、車両ハードウェアへの依存を減らしてアプリケーションを開発・テスト・検証・展開することができます。これらの2つのプロジェクトがもたらす意味とは、アプリケーションソフトウェア開発者がE/Eアーキテクチャの詳細を理解する必要がなく、基礎となるE/Eインフラストラクチャの機能を有効に利用するために必要な抽象化レイヤーを提供することができるということです。マイクロソフトの役割は、車載ソフトの開発を活性化させて、エコシステムに属するパートナー企業の皆さんにとって活用しやすいビルディングブロックを提供し、垂直統合された自動車特化型ソリューションの開発を支援することなのです」

レディ氏の言わんとすることは、自動車のような垂直統合された産業構造に最適化された開発環境をオープンソースで提供するというマイクロソフトの役割は、あくまでティア1やソフトウェアベンダーの開発を支援する立場であるということだ。この姿勢は、他の競合するIT企業が、ティア1やISVと競合するソリューションの開発を推し進めようとしている姿勢とは対照的だ。実際、今年9月に独ミュンヘンで開催されたIAAモビリティ2023では多くのティア1サプライヤーがSDVについて発表していたが、マイクロソフトと従来の自動車サプライヤーや車載ソフトウェアベンダーとは役割が異なるのだろうか。

「マイクロソフトの理念は、ティア1も含む顧客や開発パートナー企業が、既存の開発プロセスや手法にSDVの原則を取り入れやすくすることです。ティア1に代表されるパートナー・エコシステムと深く連携しており、クラウドネイティブのソフトウェア開発フレームワークやツールチェーンに関する数十年にわたるノウハウと専門知識を自動車産業に応用することに取り組んでいます」とレディ氏は胸を張る。

ソフトウェア・デファインド・ビークルという言葉が飛び交うようになり、自動車の設計が根底から変わる時代に差し掛かりつつある今。マイクロソフトは、従来の自動車サプライチェーンを破壊するのではなく、自動車産業に高効率でアジャイルなソフトウェア開発ツールチェーンとフレームワークをもたらすのを支援するという重要な役割を担おうとしているのだ。

マイクロソフトのSDVにおけるアプローチマイクロソフトのSDVにおけるアプローチ

「EdgeTech+ 2023 オートモーティブ ソフトウエア エキスポ」で講演

レディ氏は11月15日(水)~11月17日(金)までパシフィコ横浜で開催される「EdgeTech+ 2023 オートモーティブ ソフトウエア エキスポ」の初日に行われる基調講演で、「SDV : Driving Business Value with Configurability(SDV:設定可能性とビジネス価値の推進)」をテーマに登壇する。

同イベントは、エッジテクノロジーの総合展として活動する「EdgeTech+」にて新たに開催される特別企画だ。自動車関連業界ではハードウェアや部品における催しが多い中、自動車開発におけるソフトウェア技術にフォーカスを当て、関連の技術、製品、情報が一堂に会する場を目指す。

レディ氏はインタビューの最後に、長年の知見を活かしながら「ティア1も含む顧客や開発パートナー企業が、既存の開発プロセスや手法にSDVの原則を取り入れやすくすること」を理念としていると語った。基調講演ではより詳細な取り組みの内容やビジョンが解説される。

翌16日には、Eclipse Foundationによる講演「Eclipse Software Defined Vehicle-自動車業界におけるオープンコラボレーション」も行われる。レディ氏の講演と合わせて参加することで、よりSDVへの理解を深めることができるだろう。

オートモーティブ ソフトウエア エキスポ公式HPはこちら

■EdgeTech+ 2023 オートモーティブ ソフトウエア エキスポ
会期:2023年 11月15日(水)- 17日(金)
会場:パシフィコ横浜
主催:一般社団法人 組込みシステム技術協会
企画・推進:株式会社ナノオプト・メディア
※10月25日現在。最新情報は展示会HPをご確認ください

事前来場登録はこちら

11月1日(水)にはレスポンスにて「ジャパンモビリティショー VS IAAモビリティ 日独自動車ソフトウェア出展比較 『失敗が許されないSDVシフト、2025年とその次』」(『EdgeTech+ 2023 オートモーティブ ソフトウエア エキスポ』開幕直前SP)も開催された。セミナー動画本編はレスポンスYouTubeチャンネルにて公開中!下記をご覧ください。

11月1日(水)開催の無料セミナーの概要はこちら

《川端由美》

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