プラグアンドチャージ、充電体験が車の価値を決める…メルセデスがEV充電に投資する理由【特集 EV充電インフラビジネス最前線】

メルセデスベンツグループのオラ・ケレニウス会長
メルセデスベンツグループのオラ・ケレニウス会長全 12 枚

メルセデスベンツが8月に『EQE SUV』を日本で発表した。その際、異例ともいうべきメルセデスベンツグループのオラ・ケレニウス会長が来日してスピーチを行った。日本市場にわざわざCEOが乗り込んできたのは、新型車の発表だけが目的ではないはずだ。

以下、その理由について、EQE発表会、IAAモビリティ他、関連の取材情報をベースに考察する。

◆CEOが世界でトップセールスを行っている

この席でケレニウス会長は、自社のEV充電ネットワーク整備について、日本でも展開すると発表した。メルセデスは、グローバルの主要市場で1万基以上の急速充電器ネットワークを整備する計画を発表している。日本は「Mercedes me Charge」を利用したネットワークが検討されている。会長は発表会が終わると、その足で、東京都庁に向かい小池百合子都知事と会談を行っている。話題はカーボンニュートラル政策の中で、東京都の電動化政策(2030年までに都内の新車販売をすべて電動車にする)についてだ。会長は東京都の取り組みを評価し、メーカーとして協力することを表明した。そして、EV普及には充電インフラの整備が欠かせないとし、行政の協力が必要であることもアピールした。

ケレニウス会長のこのような活動は、もちろん日本に限ったことではない。各国の政策決定者に会い充電インフラ整備の重要性を説いて回っているという。

メルセデスの充電ネットワークへのコミットメントは、EQE SUV日本発表のおよそ10日後に開催されたIAAモビリティ2023の展示にも現れていた。IAAモビリティはミュンヘンに会場を移してから、メッセ会場と市内に設けられた特設会場(Open Space)の2か所で行われている。

このOpen Spaceの会場には、目玉の『コンセプトCLAクラス』の他、EQシリーズの新型やプロトタイプが並べられていたのだが、メルセデスブランドの普通充電器(ウォールボックス)のソリューションも大きく取り上げていた。ソリューションなのでガレージ用の充電ケーブルだけでなく、HEMS(パワーコンディショナー)と連動するエネルギーストレージ(蓄電池)とのセットでの提案となっていた。

◆メルセデス充電インフラ担当役員をIAA会場で直撃

なぜ、メルセデスがEVだけでなく充電インフラまでコミットするのか。幸い、IAAモビリティ2023ではメルセデスの充電インフラ担当の役員にインタビューをすることができた。その際、端的に「充電ビジネスは収益化が難しいが、戦略はあるのか?」と聞いてみた。

回答は「我々は(EV充電インフラ整備)をマーケティング面だけで見ているわけではない。これは新しいビジネスだ。欧州ではIONITYの事業(VW、BMW、メルセデス、フォードらによる合弁企業)を展開済みで、すでに単独で収益を出している。この戦略は我々の充電ネットワークにも生かされるものだ」(Merceds-Benz Mobility Chief Opereating Officer/Charging Unit ニコ・デットマー氏)と、いたってシンプルなものだった。

もちろん電力行政やビジネスの背景が日本と異なるため、単純な比較はできない。しかし、ガソリンスタンドとちがってEV充電はビジネスにならないというのは事実ではないようだ。メルセデスは北米でのEV充電規格に関する7社連合に加わっている。これもIONITYのスキームを北米に応用しようとしたものと見ることができる。

電力行政や規制が異なるので単純な比較はできないが、少なくともメルセデスはEV充電ビジネスは儲からないとは考えていない。

◆EVは新しいビジネスを創出する

そうだとしても、これまでOEMがガソリンスタンドの経営やビジネスに直接かかわることはなかった。EVだからといってOEMが充電インフラや充電ビジネスに関わる必要はないのではないか。もっともだが、メルセデスは違うようだ。8月のEQE SUV発表で来日したケレニウスCEOは、プレゼンテーションで「メーカーがガソリンスタンドを作ることは、これまででは考えられなかったが、EVにおいては違う。我々は事業領域も変えなければならない」とも述べている。この理由については「よりよい充電体験が車の価値を決めるからだ」とする。


《中尾真二》

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