【ロイヤルエンフィールド ヒマラヤ 海外試乗】初の水冷エンジンに「らしさ」はあるか…小川勤

ロイヤルエンフィールド初の水冷エンジンを採用。DOHC形式もロイヤルエンフィールド初。排気量は452ccで、ボア×ストーロークは84×81.5mmのショートストローク。40.02psを8000rpmで発揮。ミッションは6速。標高が高くない場所でこの実力を体感してみたい
ロイヤルエンフィールド初の水冷エンジンを採用。DOHC形式もロイヤルエンフィールド初。排気量は452ccで、ボア×ストーロークは84×81.5mmのショートストローク。40.02psを8000rpmで発揮。ミッションは6速。標高が高くない場所でこの実力を体感してみたい全 45 枚

ロイヤルエンフィールドのアドベンチャーバイクである『ヒマラヤ』がフルモデルチェンジ。ロイヤルエンフィールドが水冷エンジンを搭載した市販車を発表するのは初めてのこと。インド北部のヒマラヤの麓にある街、マナリで開催された試乗会にモーターサイクルジャーナリストの小川勤が参加した。

◆4000m超の山々を1週間で駆け抜ける

マナリで開催された試乗会マナリで開催された試乗会

僕は2022年に、ロイヤルエンフィールドが開催している「モトヒマラヤ」に参加。これは標高約3500mのレーという街を起点にヒマラヤの4000~5000mの山々を1週間かけて巡るツアーである。

同行したメンバーに高山病が続出し、血中酸素濃度が下がり酸素を吸入する人もいた。そんな中、ひたすら頼りになったのが、モデルチェンジ前のヒマラヤである。空冷411ccエンジンを搭載するミドルアドベンチャーは、どんな道も突き進み、僕らを力強くサポートしてくれた。

驚きだったのは、毎日1000台以上のヒマラヤとすれ違うこと。「ヒマラヤでないとヒマラヤは登れない」と現地のライダーやスタッフは口を揃える。確かにヒマラヤは懐が深く、ダートや荒野、ガレ場を難なく走破。オフロードやアドベンチャーバイクの経験が少ない僕を存分に楽しませてくれた。

「ピュアモーターサイクリング」をコンセプトに掲げるロイヤルエンフィールドらしい1台で、そんな背景を知った僕は完全にヒマラヤのファンになってしまったのだ。

様々なカラーバリエーションを用意する。黒×黄はロイヤルエンフィールドをイメージさせるゴージャスなカラー。それ以外はヒマラヤの山々からインスピレーションを受けたカラーである様々なカラーバリエーションを用意する。黒×黄はロイヤルエンフィールドをイメージさせるゴージャスなカラー。それ以外はヒマラヤの山々からインスピレーションを受けたカラーである

そんなヒマラヤがフルモデルチェンジをするという。実はSNS上では1年以上前からエンジンが水冷化されたヒマラヤのスクープ写真が出ていたが、僕の心境は複雑だった。「果たして空冷エンジンの味わいや独自の車体パッケージが持つヒマラヤらしさはキープされているのだろうか」と……。

僕は、そんな気持ちを整理するためにインドへと飛んだ。新型ヒマラヤの試乗会が行われる標高2000mほどのマナリは、ヒマラヤに登る人たちが入り口にする街。マナリの宿ではずらりと並んだ新型ヒマラヤが迎えてくれた。デザインもディテールもかなり洗練されているのが一目でわかる。

◆フレンドリーなアドベンチャーバイク、それがヒマラヤだ

90%のトルクを3000rpmで発揮し、最大トルクは5500rpmで発揮。このキャラクターが常用回転域を下げている。ちなみにエンジンは前作から10kgも軽量化されている90%のトルクを3000rpmで発揮し、最大トルクは5500rpmで発揮。このキャラクターが常用回転域を下げている。ちなみにエンジンは前作から10kgも軽量化されている

新型ヒマラヤ最大のトピックは、ロイヤルエンフィールド初の水冷エンジンを搭載したこと。完全新設計のDOHCエンジンは452ccの排気量が与えられ、車体も刷新。前後サスペンションはショーワ製、タイヤも専用のシアット製を採用する。電子制御も充実し、メーター内にはナビも装備。各部の高性能化と高品質化が凄まじい。

ロイヤルエンフィールドのスタッフは「アクセッシブル」という言葉をよく使うが、これはアクセスしやすいバイクという意味。ヒマラヤは、インドでは圧倒的多数であるスクーターや小排気量モデルに乗っていたライダーが憧れるバイク。ライダーの技量的にも彼らがすぐに乗り換えられるアドベンチャーなのである。技術説明を聞くとそのコンセプトは前モデルから変わらないようだ。

跨ると前モデルより少しだけ大柄。ただ、身長165cmの僕でも足着き性に不安はない。シートは825mmと845mmの2段階に高さを調整でき、最初は低い方にセット。エンジンは洗練されていて、振動は少なめ。常用するのは3000-4000rpmとなる。エンジンはショートストロークだが、そのフィーリングはロイヤルエンフィールドらしい中速を大切にした味付けだ。

ロイヤルエンフィールド ヒマラヤロイヤルエンフィールド ヒマラヤ

「果たしてヒマラヤらしさは残っているのだろうか?」という心境で試乗をスタートしたが、走るほどにそんな疑問が楽しさや期待に変わっていく。かなり高めのアベレージでワインディングを抜けて到着した1回目の休憩ポイントは、ロイヤルエンフィールドのディーラーだった。

「40psはこんなものなのかなぁ」と思ってスマホで標高をチェックすると3200m。標高の高さを忘れさせてくれるくらい新型ヒマラヤは低中速で力強かった。開発陣曰く「この標高だと30psくらいじゃないかな」とのこと。

標高が高い場所での空冷ヒマラヤの常用回転域は5000-7000rpmだったことを思い出す。とにかくぶん回さないと走らない印象だったが、新型ヒマラヤは余裕に溢れ、確実に力強さを増していた。

◆ダート、川、ガレ場……道なき道を力強く突き進む!

452ccにしては大柄な車体。パニアケースやトップケースなどアドベンチャーに相応しいアクセサリーも多数用意する452ccにしては大柄な車体。パニアケースやトップケースなどアドベンチャーに相応しいアクセサリーも多数用意する

新型ヒマラヤはまるで異なるバイクに進化していたが、アクセッシブルで頼りがいのあるところはそのままだった。ダートやガレ場は、最初は上手く走れるかわからなかったが、新型ヒマラヤの懐の深さがそんな緊張を解いてくれる。スタンディングして大きな石を避けながら道なき道を行き、何本も川を渡る。そんな時でさえ慣れてくると走りを楽しむ余裕が生まれる。

これがビッグアドベンチャーだったら……、僕のキャリアだったら足を踏み入れることさえしなかっただろう。もちろん新型ヒマラヤでも油断できない緊張感はある。しかし、そこには期待しかなく、その先にある美しい景色や知らなかったバイクの可能性を求めてひたすら突き進んでみたくなるのだ。

試乗は2日間に渡り、ガレ場ではハードエンデューロごっこをしたり、泥でヌルヌルの場所にも勢いだけで入り込んでみたが、身体を存分に使い、アクセルを開け、汗だくになりながらも転倒もなく乗り切った。

様々なカラーバリエーションを用意しており、ヒマラヤの山々からインスピレーションを受けたカラーとなっている様々なカラーバリエーションを用意しており、ヒマラヤの山々からインスピレーションを受けたカラーとなっている

ワインディングでは高いシートも試した。こちらの方が圧倒的にハンドリングが良い。シートの高さは一瞬で変えられるから、もっと頻繁に変えればよかった。また、新開発のシアット製タイヤが全てのシチュエーションで抜群のバランスだったこともお伝えしておきたい。

この環境で開発されたヒマラヤの強みはとても大きい。「ヒマラヤはヒマラヤでないと走れない」という言葉の重みもよくわかった。新型ヒマラヤで走り出せば、バイク趣味の可能性はもちろん、自分自身の可能性も広げることができると思った。バイク最高!と改めて感じた新型ヒマラヤの試乗会だった。その楽しさを美しい写真からも感じ取っていただけると嬉しい。

ロイヤルエンフィールド ヒマラヤと小川勤氏ロイヤルエンフィールド ヒマラヤと小川勤氏

■5つ星評価
パワーソース:★★★
ハンドリング:★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★

小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

《小川勤》

モーターサイクルジャーナリスト 小川勤

モーターサイクルジャーナリスト。1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

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