【マクラーレン 750S 新型試乗】これぞ内燃機時代の最高のエンジニアリングの結晶だ…渡辺敏史

マクラーレン 750S
マクラーレン 750S全 12 枚

『750S』はマクラーレンのラインナップにおいて、一部の限定車群を除けば最もハイパフォーマンスなスーパースポーツという位置づけのモデルとなる。前身は22年いっぱいまで生産されていた『720S』だ。その去就が注目されていた後継モデルは、激動の時代を戦うために熟成という手法を採った。いってみれば、造り続けて知り尽くした素材の旨味を徹底的に搾り取る作戦でもある。

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◆進化のツートップは「軽量化」と「エアロダイナミクス」だが

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720Sに対するコンポーネンツの刷新や置換率は約30%及ぶという750S。エクステリアでは前後バンパーやエアインレット&アウトレット類に加えて、後端側に面積を広げたカーボン製リアウイングなど、些細なところまでエアフローが見直され、空力特性のアップデートを図っている。リアウイングだけでも20%の面積拡大で15%ダウンフォース量を増加、トータルでは5%の向上をみながら空気抵抗は低減されたという。

この空力特性の改善に加えて、件のリアスポイラーやステンレス製エキゾーストシステムなどは車両の軽量化にも寄与している。他にも4本で13kg以上の軽量化を果たす新設計の鍛造ホイール、新しいデザインとなったイストゥルメントパネルやフロントウインドウなど、細かに数値を積み上げた結果、750Sの重量はクーペの乾燥重量で1277kgと、720Sに対して30kgの軽量化を実現した。マクラーレンの代々のモデルは軽さを売りにしており、720Sでも実質的なライバルに対して軽く100kg以上は軽い体躯を走りの武器としていたが、750Sではその差が更に際立つこととなる。

進化のツートップが軽量化とエアロダイナミクスというのは、いかにもレーシングをバックボーンに持つスーパースポーツらしい話だが、エンジンや足回りといった項目がおざなりになっているわけではない。リカルドが製造を担当する4リットルV8ツインターボのM840T型はエキゾースト変更に伴うマネジメントの見直しなどで車名通りの750psと800Nmを発揮。これは720Sより30psと30Nmの向上ということになる。

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足回りはサスの形式こそ前後ダブルウイッシュボーンと同一だが、前トレッドは6mm拡大。コイルばねは出力向上や軽量化に合わせて前を3%ソフトに、後ろを4%ハードに設定し直したほか、独自構造のダンパーによって姿勢の安定制御を図るプロアクティブシャシーコントロールが第3世代へとアップデートされた。

油圧制御を担うするアキュムレーターの内圧チューニングやレートの最適化など、車両特性に合わせた変更を伴いつつ、サスペンションシステム全体でも2kgの軽量化に寄与している。細かなところではフロントリフターの作動速度が2倍になるなど、ユーザビリティにも配慮されている点が嬉しい。公道試乗中では幾度かリフターを要する場面があったが、そのレスポンスにまったく不満はなかった。

◆スポーツカーのインターフェースとして世界最良の部類

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750Sのコクピット回りは先出の『アルトゥーラ』で一新されたデジタルアーキテクチャーやインターフェースを共有するかたちで一新されている。センタースタックはドライバー向きに配置されるほか、インフォテインメントのキーとなるセンタースクリーンはApple CarPlayに対応、手持ちのスマートフォン環境を車内でも活かせるようになった。

そして720Sではその画面横に据えられていたシャシー&パワートレインのドライブモードセレクターはメーターナセル左右に移設されスイッチも大きなノブ型に変更。レーシンググローブを着用していても扱いやすい上、走行時の切り替えも視線移動なく行えるように配慮されている。

こういったディテールの機能改善もマクラーレンらしいところだが、一方でステアリングやパドルは720Sやそれ以前のモデルと大きく変わってはいない。素っ気ない見た目にみえるかもしれないが、練り込まれた断面形状やクリック感、スイッチ類を配さないことで得られるイナーシャの軽さなど、スポーツカーのインターフェースとしては相変わらず世界最良の部類だと思う。

◆“まろやか”とさえ評したくなる乗り心地のお見事さ

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表面的にはマイナーチェンジにみえるかもしれないが、720Sから750Sへの進化の体験はエンジンの始動時から始まっている。音・振動の両面で濁音的な濁りが取れて、いかにも節々の精度が高まった感が伝わってくるはずだ。エキゾーストシステムの変更は単に軽量化のみならず、そのサウンドは高音成分が増強され、回して昂ぶれる心地よさがしっかり加わっている。

軽さもパワフルさも前進しているのだから、その速さは推して知るべし。全開加速ではタイヤのキャパシティが心配になるほどの激烈なダッシュをみせる。くれぐれも、回して昂ぶれる新しいサウンドは然るべき場所での体験に留めておくべきだ。が、ワインディングでは宝の持ち腐れというわけではない。そういう場所で感じられるのは加減速や旋回の姿勢を伝えるサスの表現力が大いに高まったことと、それで得られる運転実感の濃密さ、そして物理的な振る舞いの軽やかさだ。

同級の火力や動力性能を持つライバルがそのパフォーマンスを成立させるためにクルマの動きがマッシブなタッチに偏っていく、そんな常道に対して750Sは重量を見方につけてセンシティブな振る舞いを維持している。ステアリングのギアレシオはよりクイックに躾けられているが、コラム回りの剛結感も高められている上、件の細身なステアリング形状が繊細な操舵入力を促してくれることもあって、普通にまっすぐ走らせることもまったく苦にならない。

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そして特筆すべきはスポーツカーらしい清涼感を持ちながらも“まろやか”とさえ評したくなる乗り心地のお見事さだ。代々のマクラーレンの銘柄はその独自のダンピングシステムもあってライドコンフォートは一目置くところがあったが、750Sはさもすれば同門の『GT』のお株を奪うほど、そのフットワークは優しい。バネ下重量の軽減や摺動部位の精度向上、そしてモンロー=テネコが供給するプロアクティブシャシーコントロールの世代交代が奏功しているのだろう。

その印象をもってクローズドコースでの試乗に臨むと、やはり軽さがもたらす機敏な身のこなしの一方で、ねっちりと地面を捉え続けてじんわりと滑り出しを伝えてくるインフォメーションの濃密さが際立っている。きっちりと地面を掴んでいる感触は物理的重量以上にエアロダイナミクスによるところが大きい。ストレートでのトップスピードは270km/h超に及んだが、そこからのフルブレーキングでもリア側から姿勢を乱す素振りすらなくピタリと狙ったポイントに向かっていける辺りは、減速エネルギーを瞬時に最大化するリアスポイラーの仰角調整機能も一助している。

◆内燃機時代の最高のエンジニアリングの結晶

純然たる内燃機を基とする750Sは、今時分の空気感に照らせば、言い訳なしのいかにもバンカラなスーパースポーツだ。が、その洗練ぶりは想像を大きく超えていた。このカテゴリーにいる数多のライバルの完成度も相当なものだが、それらと相まみえたとしても総合力で同等以上にいることは間違いない。内燃機時代の最高のエンジニアリングの結晶として、好事家が想いを託すにも最適なモデル足り得ると思う。

マクラーレン 750Sマクラーレン 750S

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

《渡辺敏史》

渡辺敏史

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト 1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。

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