【ボルボ XC40リチャージ 新型試乗】EVだからこそわかる後輪駆動の恩恵…諸星陽一

ボルボ XC40リチャージ アルティメイト
ボルボ XC40リチャージ アルティメイト全 17 枚

ボルボのピュアEVである『XC40リチャージ』に試乗した。昨年の3月に大きな変更を受けた最新モデルである。

XC40リチャージ最大の変更点は駆動方式の変更だ。デビュー時は4WDでスタートしたXC40リチャージ、シリーズ途中で前輪駆動モデルを追加した。ここまではよくある話なのだがこの先がすごい、というかいままでの常識では考えられないような出来事だったのだ。それはFWD(前輪駆動)をやめてRWD(後輪駆動)に変更したということだ。

エンジン車でFF車をRR車に変更するなどということはまずやらない。これはEVだからできるワザだと言えるだろう。言ってみれば、ひとつのボディで4WDもFWDもRWDも作れるのがEV。用途に応じて駆動方式を変更できるというわけである。

ボルボ XC40リチャージ アルティメイトボルボ XC40リチャージ アルティメイト

私はエンジンが載っているクルマの場合はFFやRRという表現を使うが、バッテリーEVはFWD、RWDと表現する。エンジン時代はエンジンの重量が重く、それがどこに搭載されるかが重要だったが、バッテリーEVの場合はバッテリーの重量が重い。そしてバッテリーはどの車輪を駆動する場合も、床下に搭載されるからである。

今回のRWDへの変更は4WDのフロントモーターをレスにしたというような簡単なものではない。RWD化にあたってはモーターを内製に変更。従来は170kW/330Nmであったモーター出力は175kW/418Nmへとスペックアップ。バッテリー容量も69kWhから73kWhへと増加している。

◆走ればわかるRWDの恩恵

ボルボ XC40リチャージ アルティメイトボルボ XC40リチャージ アルティメイト

発進からしてフロントタイヤに駆動が伝わっていないのは快適。4WDにしても、FWDにしてもフロントタイヤが駆動も担うので、ステアリングに微妙な振動などが伝わってくる。EVは駆動力をモーターから得ているのでエンジン車ほどの振動はないので有利だが、それでも違いはある。また車軸にモーターが付いていないので、ステアリング操作が素直になる。もちろんパワステは付いているのだが、重量物がある、ないは素直に違いがでるものだ。低速走行でもFWDのよさは伝わって来る。

速度を増していき、80km/hで車線変更してみる。ステアリングを切った際のノーズの向き方はじつに素直だ。しかし速度一定での車線変更よりも、加速しながらの車線変更のほうがフロントタイヤにとってはキツい仕事になる。そこで今度は加速しながら車線変更を試す。すると速度一定のときとほぼ変わらないフィールで車線変更が可能だ。FWDの場合フロントタイヤは加速という仕事をしつつ、横方向の曲がる力を出さないとならないが、RWDならばフロントタイヤは曲がる力だけでいい。そこでクリアさが生まれるのだろう。

上位グレードのアルティメットは20インチのタイヤ&ホイールを装着する上位グレードのアルティメットは20インチのタイヤ&ホイールを装着する

かつてのクルマはRWDが当たり前だったが、車内を広くするためにはプロペラシャフトが不要なFF方式が有効であることは明白で、多くのクルマがFF化されていった。ところがモーターを使う駆動方式となれば、モーターを後部に配置することで簡単にRWD化が可能なわけだ。そうなるとなにもFWDにこだわる必要はなく、RWD化が進んでいくのだろう。

フォルクスワーゲンの『ID.4』やヒョンデの『アイオニック5』はRWDの駆動方式を採用している。エンジン車の場合は、フロントにエンジンがあることで前面衝突時の安全性を向上(エンジンが衝突の衝撃を受け止め、周囲がクラッシャブルゾーンとなる)できたが、リヤにモーターを積む場合はこの効果は期待できない。しかし、フロントにモーターを積んでもエンジンほどの質量はないので、やはりエンジンが存在するほどの安全性向上は期待できず、どちらにしろフロントまわりは衝突時に強く、そして十分なクラッシャブルゾーンを確保しなければならない。となると、RWDは賢い選択で今後は増加することになるのは明確だ。

◆進化した「ワンペダルモード」

ボルボ XC40リチャージ アルティメイトボルボ XC40リチャージ アルティメイト

全体的にスッキリしてクルマ本来の魅力を増しているXC40リチャージだが、使い勝手の面でも進化を遂げている。XC40リチャージにはワンペダルモードがある。従来のワンペダルモードではアクセルを緩めたときに回生ブレーキが働くタイプだったが、最新のモデルにはオートというモードがある。

オートに設定しておくとADASセンサーによって先行車の有無をチェックし、先行車がいない場合はアクセルペダルを戻してもコースティングとなる。ワンペダルのオートとノーマル(設定はオンとなる)、オフの切り替えはモニター操作で行うだが、これでは走りながらの調整はしにくい。先行車がいなくてもワンペダルで減速したいことはあるのだから、ノーマル状態のときはパドルスイッチなどを使って回生量調整ができたほうがいいだろう。

XC40リチャージのボディサイズは、全長×全幅×全高が4440×1875×1650(mm)となっている。1875mmの全幅は『GRスープラ』よりも10mm広いので、コンパクトなイメージながらもやはり欧州車は幅広だと感じてしまう。RWD化によってハンドル切れ角をアップして最小回転半径を稼ぐこともできただろうが、RWDのXC40リチャージの最小回転半径はFWD時代と同じ5.7mである。

価格は標準タイプの「プラス」が679万円、ハーマンカードンの上級オーディオやピクセルLEDヘッドライト、20インチのタイヤ&ホイールが付く「アルティメイト」が719万円となる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★

諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

《諸星陽一》

諸星陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

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