後方車両の接近が「耳」で直感的にわかる、ヤマハの新技術「感覚拡張HMI」のねらい…人とくるまのテクノロジー展 2024

聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するヤマハ発動機の「感覚拡張HMI」
聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するヤマハ発動機の「感覚拡張HMI」全 16 枚

視覚ではなく「聴覚」で直感的に後方の危険を知らせる…そんな新技術を「人とくるまのテクノロジー展 2024」で初公開したのがヤマハ発動機だ。

自車周辺環境の認識を支援する技術はミラーやカメラなど「視覚」を介した技術が主流だが、人間は本来、死角を「視る」のではなく「聞く」ことで認識するのが自然だという。こうした発想から聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するものとして「感覚拡張HMI」(HMI=ヒューマン・マシン・インターフェース)の研究が進められている。

この技術は、ヤマハ発動機とカリフォルニア工科大学の共同研究から生まれた特許技術。聴覚を利用することで、後方など死角に位置する物体を、「まるで気配のように自然な感覚」として運転者に通知することを目指している。

◆音で後方の「気配」を作り出す

聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するヤマハ発動機の「感覚拡張HMI」聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するヤマハ発動機の「感覚拡張HMI」

ミラーに後方車両の接近を通知する機能は四輪の世界では標準化されつつあるが、これは視線の移動を誘発すること、さらに前方にある鏡に映った鏡像を、後方の正像へと脳内で変換する必要があり、認知までのステップが多い。一方で、ヤマハのデバイスでは「視る」ではなく「聴く」ものであるため視線の移動がない。また視界に入らないあらゆる方向に対して対応可能かつ、自然に認識させることが可能で認知への負荷が低い。

具体的には後方の物体を「音源の位置の高さ」で表現する。後方車両が発するロードノイズ=音源が遠い時には耳の高さ(知覚的水平線)に近く、接近するにつれて音源は足元にくる。つまり耳の高さから足元までの軸で距離を測ることができるということだ。これを今回の発表ではヘルメット内に取り付けた7つのスピーカーから、後方車両の位置と距離に応じた音を発することでライダーに通知するデバイスとして公開した。

ヘルメット内に取り付けられた7つのスピーカーから後方車両の接近を知らせる音を発するヘルメット内に取り付けられた7つのスピーカーから後方車両の接近を知らせる音を発する

会場ではバイクでの走行を模したシミュレーターで実際にこの「感覚拡張HMI」を体験することができた。スピーカーが内部に取り付けられたヘルメットを被り、高速道路を100km/hで走っている状態を疑似体験。まずは「感覚拡張HMI」をオフにした通常の環境音のみで走行すると、エンジン音などにかき消され、後方から迫ってくる追い越し車両を認識するのは困難だった。

「感覚拡張HMI」をオンにすると、耳の後ろあたりから高い電子音が徐々に近づいてくる(大きくなる)につれ、後方の死角から乗用車の姿があらわれるというシーンを複数回体験した。個人的な感想としてはそれを音として認識しているというよりも、「そこに何かがある」という漠然とした危機感的なものを感じている状態で、音で気配を作り出すとはこういうことかと実感。ヘルメットを被った状態かつ特に高速走行時には左右の視野はどうしても狭くなる。音での通知は、ライダーの安心につながるものだと感じた。

◆「普段やっているように、世界を認識すること」

聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するヤマハ発動機の「感覚拡張HMI」聴覚を利用して後方認知を直観的に支援するヤマハ発動機の「感覚拡張HMI」

開発を主導したヤマハ発動機の末神翔さんは「ストラテジーリード 人間研究」を専門としており、心理学の博士でもある。自身もライダーであるという末神さんは、「感覚拡張HMI」の開発のきっかけについて、「見えないものを見せてあげるというのが、エンジニアリングとしては自然な考え方。視覚情報で伝えるのも良いが、人間はそもそも色んなものを視覚から得ていて情報量が多い。音の方が気配を感じるにも、認知負荷的にも良いんじゃないかなということで研究がスタートした」と話す。

聴こえてくる音は、ヤマハのサウンドチームが開発したという機械的な和音で、いわゆるアラート音や警告メッセージのようなものではない。直接的にその危険の種類を説明した方が良さそうな気もするが、「言葉では認知負荷が上がるので、直感的ではない。またビープ音、アラート音は、その音が何を意味しているかがわからず、脳内で変換が必要になる。変換の時間や認知的コストというのは、(運転の)楽しみを阻害したり反応時間が遅れたりということにつながる。それをなるべくシンプルにして、その音を聞くだけでどこにどんなものがいるのか、どういう速度でいるのかというのがわかるのが一番いい音」だという。そこに「感覚拡張」と名付けたねらいがある。「我々が普段やっているように、世界を認識する、ということが重要なんです」。

現在は基礎研究の段階で、スピーカーの数や種類、あるいは音色といったものも含め、何が正解かを探っているという。今回はバイクとヘルメットの組み合わせによるデモンストレーションだったが、四輪や車いす、あるいは歩行者などにも応用できる可能性を秘めている。また実用化するとなれば、周囲の環境をいかにしてセンシングするのかという課題もあるが、これについては「どういったものにインストールするのかも含めてパートナーを探さなければいけない。そことの議論や関係性では早く実用化できるかもしれないし、そうなるように今、進めているところ」だと話した。

◆「知能化で解放」「環境と安全」「自由な移動体験」

「知能化で解放」を体現した『ELOVE(イーラブ)』(左)と『MOTOROiD2(モトロイド2)』(右)「知能化で解放」を体現した『ELOVE(イーラブ)』(左)と『MOTOROiD2(モトロイド2)』(右)

ヤマハは技術ビジョンとして、「楽しさ」の追求と社会課題の解決で新しい価値を創る、と掲げている。その中で「技術で実現したいこと」として、「知能化で解放」「環境と安全」「自由な移動体験」の3つを柱とし研究・開発をおこなっている。今回の「人とくるまのテクノロジー展 2024」では、この3つの柱に沿った展示がおこなわれた。

前述の感覚拡張HMIは「環境と安全」、このほか「知能化で解放」として車体が自らバランスをとることで低速時の転倒を防ぐAMSASを搭載した電動スクーター『ELOVE(イーラブ)』と、昨年のモビリティショーでステージを飾った生き物のように自立、画像認識AIによりコミュニケーションをとることができる『MOTOROiD2(モトロイド2)』、「自由な移動体験」としてライダーの心電データから感情を推定しスマートフォンに表示する「感情センシングアプリ」を展示。

企業目的である「感動創造」の核となる基礎研究に人間研究を位置付けていること、さらにエネルギーマネジメント、知能化、ソフトウエアサービスを新たなコア技術としてさらに強化し、既存の基盤技術との組み合わせで、長期ビジョン=「ART for Human Possibilities」の実現を目指すことをアピールした。

《宮崎壮人》

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