今さら聞けない「レスト・モッド」、なぜ注目? あの頃のポルシェが最新技術で蘇る

レスト・モッドされたポルシェ911 リイマジンド・バイ・シンガー「ターボスタディ」
レスト・モッドされたポルシェ911 リイマジンド・バイ・シンガー「ターボスタディ」全 9 枚

フェラーリやロールスロイスなどの正規ディーラー、コーンズグループは、アメリカ・カリフォルニアを拠点にポルシェ『911(タイプ964)』をベースにユーザーの好みで個別にレストアを行っているシンガー・ヴィークル・デザインの日本でのレストア依頼をサポートすると発表した。シンガーが手掛ける911はいわゆる「レスト・モッド」と呼ばれるものだ。

シンガーの手によりレスト・モッドされたポルシェ911シンガーの手によりレスト・モッドされたポルシェ911

◆エンスージアストがつくるレスト・モッド

近年、ヒストリックカーやクラシックカーなどの世界で、レスト・モッドやコンティニュエーションと呼ばれるクルマ達が増えている。そもそもこのレスト・モッドとはレストアとモディファイとをかけ合わせた造語だ。

レストアは古いクルマなどを可能な限り忠実に当時の姿に戻していくこと。従って塗装だけでなく機関に至るまでバラバラにして徹底的に修復され、出来る限り元の部品を使い、それが不可能であれば当時の部品を、それも入手不可能であれば新たにその部品を作り仕上げていく。逆にそういった手を入れていないクルマ達は、ノンレストア車とも呼ばれる。

そのレストアにモディファイが加わるのは、レストアをしながら、ボディはオリジナルのままにエンジンなどのパワートレインは現在のものを用いたり、ベースは同じながら時代の違うクルマを感じさせるように作り替えたりすることと捉えられる。

レスト・モッドされたポルシェ911 リイマジンド・バイ・シンガー「ダイナミクス&ライトウェイトスタディ(DLS)ターボ」レスト・モッドされたポルシェ911 リイマジンド・バイ・シンガー「ダイナミクス&ライトウェイトスタディ(DLS)ターボ」

例えばシンガーであればタイプ964をベースにしながら930の雰囲気を感じさせるスタイルや、ブレーキは最新のブレンボなどで組み上げ、エンジンに関してもウイリアムズと手を組みその技術を惜しみなく投入するなどだ。インテリアもオーナーの好みで仕上げることが可能。つまりヒストリックカーのオートクチュール的な側面もある。

こういったメーカーはエンスージアストがそのクルマに惚れ込み、今の時代に蘇らせたらどうなるかと夢見て始めるパターンが多い。繰り返すがベース車をもとに作り上げていくので、基本的には欧米でのナンバー取得は可能だ。

◆コンティニュエーションは自動車メーカーによるもの

アストンマーティン DB4 GT Zagato コンティニュエーションアストンマーティン DB4 GT Zagato コンティニュエーションベントレー・ブロワー・コンティニュエーション・シリーズベントレー・ブロワー・コンティニュエーション・シリーズ

ではコンティニュエーションとは何か。これは自動車メーカーが自らの過去を振り返り、エポックメイキングなクルマを再び蘇らせるもの。とくにイギリスの自動車メーカーが積極的でアストンマーティンであれば『DB4GTザガート』を、ジャガーでいえば、『Cタイプ』や『Dタイプ』を、ベントレーは『ブロワーベントレー』を作り上げている。こちらは基本的には新車であり、メーカーだからこそ可能な車体ナンバーの継続性を用い、オリジナルであることをアピールする。

もちろん当時のパーツではなく、最新のパーツや技術を用いながらも、可能な限り当時の雰囲気も感じさせるよう乗り味やステアリングフィールなどは再現されている。しかし、あくまでも自動車メーカーが作る“新車”であることから、安全基準や排気ガスなどが適合できず基本的にはナンバーの取得はできないので、一般公道での走行は不可能とされている。

◆理想を追い求めたレスト・モッド

ダイナミクス&ライトウェイトスタディ(DLS)ターボは、ポルシェ934・935がモチーフダイナミクス&ライトウェイトスタディ(DLS)ターボは、ポルシェ934・935がモチーフ

いま、なぜレスト・モッドやコンティニュエーションなどが注目されているのか。ひとつは、当時を懐かしむ層が、改めて当時のクルマを手に入れたいという思いがあること。そしてもうひとつは、当時を知らないある程度若い層が、往年の名車に興味を持ち始めていることが挙げられる。他とは違う個性的なデザインが最大の魅力とされ、それが新鮮に映るようだ。

一方で当時のクルマそのものを手に入れるにはメンテナンスなどのリスクがある。そこで特にレスト・モッドのクルマであれば、そのリスクを軽減でき、かつ、当時の雰囲気を味わえることが魅力になっている。シンガーもその考えに準じており、新車当時は手に入れられなかったが、いまこそ手に入れたいと思っている人。あるいは、新車当時を知らないが、そのデザインに魅力を感じ、乗ってみたいと思っている人たちに向けて開発をしているとコメントしていた。

開発の上での最大のポイントは、そのベース車の魅力をきちんと残すということだ。シンガーでいえばポルシェ911の実用性や使いやすさはそのままに、週末にサーキットに行けば思い切り走ることができる。そしてデザインの機能美は絶対に外せないという。そこには作り手のこだわり、理想が詰まっている。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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