【ドゥカティ パニガーレV4S 試乗】「もう1度スーパースポーツを!」と奮い立たせてくれる…小川勤

ドゥカティ パニガーレV4S
ドゥカティ パニガーレV4S全 32 枚

ドゥカティの2025年モデル『パニガーレV4S』は、エンジン性能向上と電子制御の進化を遂げ、扱いやすさが向上した。新しいシャシー技術により、高速での安定性やコーナリング性能も改善されている。イタリアのローマ郊外にあるヴァレルンガサーキットで、モーターサイクルジャーナリストの小川勤が試乗した。

◆「パニガーレV4S」3つの進化に注目

ドゥカティ パニガーレV4Sドゥカティ パニガーレV4S

最終コーナーを2速で立ち上がり、スロットル全開のまま、右、左に切り返しながら5速までシフトアップ。軽くブレーキを当てて超高速のまま右にフルバンクしたらすぐにスロットル全開にして切り返し、次のコーナーは2速までシフトダウン。

忙しく身体を入れ替えながら、コーナリング中でも構わずクイックシフトを使ってギヤを選択する。

2025年モデルのドゥカティ『パニガーレV4S』の試乗会が開催されたイタリアのローマ郊外にあるヴァレルンガサーキットは、旋回中に様々な操作が強いられるコース。試乗前にドゥカティのスタッフに「どんなコース?」と聞くと「トリッキーだね」との答え。何人かのジャーナリストは走行後に「難しい…」と呟いていたし、僕も同感だった。

ただ、不思議なことにNEWパニガーレV4Sに不安はない。挙動は安定し、ラインを見失いにくいのだ。

ドゥカティ パニガーレV4Sドゥカティ パニガーレV4S

圧倒的パフォーマンスの塊。それが2018年のデビュー時から変わらないデスモセディチストラダーレと呼ばれるV4エンジンの魅力である。2025年モデルのパニガーレV4Sは、厳しい規制に対応しつつも先代から0.5psアップの216psを発揮し、エンジン単体では1kg軽量化。MotoGPマシンと同じ爆発間隔、同じピストン径を持ち、マフラーなどのレーシングキットを装着することで228psを発揮する。

ご存じの通り、ドゥカティはMotoGP常勝メーカー。ドゥカティのレース部門であるドゥカティコルセがいま考えられる最高のエンジニアリングで開発している市販車がパニガーレV4Sであり、MotoGPだけでなくWSBK(世界スーパーバイク選手権)を含めたレース活動と市販車がしっかりとリンクしている数少ないメーカーだ。

2025年モデルのパニガーレV4Sのハイライトは主に3つ。1つ目は、空力やライダーエルゴミクスを考慮したデザイン。2つ目は、アルゴリズムを導入した予測型電子制御。3つ目は、ドラスティックな形状となったシャシーである。

◆予測型電子制御が走りのレベルを引き上げる

ドゥカティ パニガーレV4Sドゥカティ パニガーレV4S

3つの進化がすべてリンクしたことで、結果ハイパワーが身近になった。実は今回の試乗会は少し変わっていて、事前の説明では「今日はMotoGPライダーのように走行セッション毎にデータを見て、エンジニアがアドバイスをする。タイヤはピレリのスリックだからね」と説明があった。

一体何が始まるんだと思い、ピットに行くとパニガーレV4Sがずらりと並び、僕の名前の書かれた専用ブースと僕専用のパニガーレV4Sが用意されていたのだ。すでにタイヤウォーマーが巻かれ、エンジニアのフランチェスコさんが色々と説明してくれる。「跨ってみて。ハンドルやレバーの角度、シフトパターンは?」とフランチェスコさん。「レバーやペダルはOK。シフトはレーシングパターンで」と伝えて試乗に備える。

これはオプション装着できるデータロガーを使用して走りを解析するというもの。走行を終えるたびに、フランチェスコさんがデータを基にアドバイスをくれる。使用ギヤやブレーキングポイント、ライン取り、スロットルの開け方など、そのアドバイスは多岐にわたる。複雑な電子制御がいつどこで僕を助けてくれているかも一目瞭然だ。

視認性の高い6.9インチのTFTメーター。表示方法は多数で、ドゥカティコルセが開発した電子制御は、6軸IMUをベースに起動。さらにドゥカティ・ビークル・オブザーバー(DVO)というドゥカティ独自のアルゴリズムを使用することで様々なことを予測的に制御するというから驚く。視認性の高い6.9インチのTFTメーター。表示方法は多数で、ドゥカティコルセが開発した電子制御は、6軸IMUをベースに起動。さらにドゥカティ・ビークル・オブザーバー(DVO)というドゥカティ独自のアルゴリズムを使用することで様々なことを予測的に制御するというから驚く。

僕が予測型制御を最も感じられたのは減速域で、市販車として初めて搭載されたレースeCBSは素晴らしかった。これはフロントブレーキをかけるとリヤブレーキもコントロールしてくれるというもの。しかもフロントをリリースしても、シーンによっては一定時間リヤを制動してくれる。

これは減速のためというよりは、姿勢制御が目的。例えばリヤサスが伸びて欲しくないシーンでリヤブレーキをかけることで、リヤサスが伸びる速度を遅くできるというわけ。だからこそ、上手く減速できている実感だけでなく、バイクを曲げやすい実感も得られるのだ。

また、僕は身長165cmと小柄なためそれほど恩恵がなかったが、シートは後方向に伸ばし、幅も広げることでライディングの自由度をアップ。欧米の大柄なテスターたちが皆感銘を受けていた。

◆最高峰スーパーバイクとしては999以来の両持ちスイングアームを採用

両持ちスイングアームが多彩な走りの変化を生み出し、車体設計の自由度をアップさせた。両持ちスイングアームが多彩な走りの変化を生み出し、車体設計の自由度をアップさせた。

もちろん曲がりやすさには、大幅に変更されたシャシーも貢献。パニガーレV4Sはライバルとはまるで異なるシャシー構成なのだが、今回はエンジンから生えるように装着されるフロントフレームとスイングアームを一新。フロントフレームは40%、スイングアームは37%も横剛性を落とし、軽量化と剛性バランスを追求している。

フレームの側面には大きな穴が開き、スイングアームはスーパーバイクのトップモデルとしては久しぶりの両持ちに形状に。シャシーと電子制御の開発にはドゥカティのMotoGPマシンを開発するドゥカティコルセが参画。これがコーナーでの安定性、旋回速度の向上、ライン変更の自由度、深いバンクでのタイヤのグリップの最大化、さらにはタイヤが減ってきた際の安定性などに寄与。MotoGPマシンの特性に近づけるため、同条件で両持ちと片持ちスイングアームを何度もテストしたという。

エンジンをシャシーの一部として考える車体づくりはドゥカティの昔からの手法だ。エンジンをシャシーの一部として考える車体づくりはドゥカティの昔からの手法だ。

その苦労は確実に報われており、さまざまなキャリアのライダーをサポート。実際、柔軟性に富みつつ強大なエネルギーを受け止めてくれるこのシャシーがなければ、僕はトリッキーなヴァレルンガサーキットもこんなにポジティブに楽しめなかったと思う。

また、このスイングアームは、車体やデザインの様々な部分にメリットを与えている。マフラーのデザイン自由度を向上させ、パニガーレV4Sはユーロ5プラス規制をクリアしたスーパースポーツの中で唯一、エンジン下でマフラーを完結。美しいデザインをキープするためにもこれはとても重要だ。他にもステップを1cmも内側に追い込むことができ、広くなったシートと合わせてライダーに動きやすさとフィット感の向上をもたらし、初の自社設計ホイールとすることで2.17kgの軽量化も実現している。

◆ライダーを刺激し、高揚させてくれるスーパースポーツ

ドゥカティ パニガーレV4Sドゥカティ パニガーレV4S

ドゥカティの技術の結晶とも言えるパニガーレV4Sは、5速で曲がるコーナーも1速で曲がるコーナーも難しさを感じさせない。まるで自分が上手くなったような気分にもなるが、それはそれだけ電子制御が連続的にサポートしてくれているから。

2025年モデルのパニガーレV4Sの開発目標は、ドゥカティらしい美しさとエレガントさを持ちつつ、先代モデルやライバルたちよりも速く、乗りやすく、さらにあらゆるタイプのライダーのスキルを向上させることだったという。

この従順さは、初期型の暴れ馬のようなパニガーレV4Sからは想像ができないほど。当時は「この有り余るパワーは、もう僕の手に追えない…」と畏怖し、スーパースポーツがどんどん手の届かない存在になってしまう気がしたが、2025年モデルはそのスーパースポーツが少し寄り添ってくれているような気がした。僕の体力はこの7年で着実に衰えているにも関わらず…である。

サーキットというシチュエーションは必須だが、ポジティブな気持ちでチャレンジできることはとても大切。スーパーバイクの第7世代として誕生した2025年モデルのパニガーレV4Sは「もう1度スーパースポーツを!」と気持ちを奮い立たせてくれる魅力に溢れていた。

パニガーレV4Sの試乗会はイタリアのヴァレルンガサーキットで開催。パニガーレV4Sの試乗会はイタリアのヴァレルンガサーキットで開催。

小川勤|モーターサイクルジャーナリスト
1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

《小川勤》

モーターサイクルジャーナリスト 小川勤

モーターサイクルジャーナリスト。1974年東京生まれ。1996年にエイ出版社に入社。2013年に同社発刊の2輪専門誌『ライダースクラブ』の編集長に就任し、様々なバイク誌の編集長を兼任。2020年に退社。以後、2輪メディア立ち上げに関わり、現在は『webミリオーレ』のディレクターを担当しつつ、フリーランスとして2輪媒体を中心に執筆を行っている。またレースも好きで、鈴鹿4耐、菅生6耐、もて耐などにも多く参戦。現在もサーキット走行会の先導を務める。

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