西武鉄道所沢車両工場で1960年に製造され、1984年まで「おとぎ電車」として親しまれた機関車がレストアされ、生まれ故郷に戻って飾られている。場所は埼玉県所沢市、工場跡地が再開発されて9月に開業した商業施設「エミテラス所沢」だ。
●旧型機関車をレストアして設置
エミテラス所沢は、西武リアルティソリューションズと住友商事が、所沢車両工場跡地を含む周辺一帯で進めた「所沢駅西口土地区画整理事業」地区内において、共同で開発した広域集客型商業施設で、住商アーバン開発が運営している。9月24日に開業した。
展示されたおとぎ電車は、所沢車両工場で1960年に製造されたB11形蓄電池機関車のB15機だ。1984年に廃車となった個体で、前の所有者である鉄道模型メーカーの関水金属から西武リアルティソリューションズに譲渡された。エミテラス所沢には10月17日未明に搬入され、1階東側外構部分に設置された。
設置を記念して10月20日にイベントが開催される。おとぎ電車と西武鉄道公式キャラクター「らびゅーくん」といっしょにの写真を撮れる撮影会が実施され、子ども用の西武鉄道駅員制服も貸し出しされる。時間は10時45分~12時30分。

●西武鉄道所沢車両工場のレガシー
エミテラス所沢の場所は、西武鉄道の車両工場だった。この歴史を未来につなぐシンボルとしてエミテラス所沢には3つの“レガシー”が設置された。1階東側外構部分には工場と鉄道本線の車両の往来に使用していた「引き込み線」が、1階施設内には「2000系運転用シミュレータ」が設置された。これらは9月24日のエミテラス所沢開業と同時に公開されている。そしてこのほど3つ目のレガシーとして、おとぎ電車が設置された。

所沢車両工場の操業開始は1946年。鉄道会社は車両を製造会社から購入することが多いが、西武鉄道では日本の大手私鉄で唯一の直営工場として、所沢で車両を新造していた。1960~70年代、西武鉄道のほとんどの車両は自社製だった。最盛期の1960年代は年間50両を超える数を製造し、全国各地の地方鉄道へも供給していた。車両新造だけでなく、車両の定期点検や自動車の車検・修理、西武園ゆうえんち・としまえんの遊戯物の点検・修理もしている。
車両の新造業務は1999年3月に9000系の出場をもって終了した。検査は、2000年6月の2000系の重要部検査が最後の出場車となり、所沢車両工場は役割を終えた。閉鎖までに1200両以上の車両を新造、2000系をはじめ同工場で製造された車両は現在も活躍中だ。検査機能は2000年開設の武蔵丘車両検修場に移転している。

●引き込み線も再現
西武鉄道の営業線と所沢車両工場との間には長さ100mほどの引き込み線があった。所沢駅1番線(飯能方面)のすぐ南から、西側へ急な右カーブで別れ、踏切2カ所を横切って工場に向かっていた。エミテラス所沢の敷地内で、当時の引き込み線があった場所の一部にレガシーとしてレールを設置した。もうひとつのレガシーとして館内に、乗務員の養成・教育用の運転シミュレータの一部が設置された。シミュレータ機能はないが、2000系の前頭部を間近に見ることができる。
3つ目のレガシーとして展示されたのがおとぎ電車だ。路線は1950年に開業し、遊園地前駅からユネスコ村駅を結ぶ約3.6kmの路線で、蓄電池機関車が客車をけん引して走行していた。線路の幅は762mmの軽便鉄道規格で、かわいい機関車と客車が走る様子から「おとぎ電車」と呼ばれていた。
車両は、西武鉄道所沢車両工場で1960年に製造されたB11形B15蓄電池機関車だ。全長4985mm、全幅2040mm、全高2710mm、重量10.0t。遊戯施設だったおとぎ電車は1952年に西武鉄道山口線となり、機関車と客車は路線が改修される1984年まで運行していた。工事運休を経て、1985年から山口線はいわゆる新交通システムとなり、現在はレオライナーの愛称を得ている。