【VW Tクロス 新型試乗】クルマの良さとは裏腹に、評価を下げるカーナビ…中村孝仁

VW Tクロス R-ライン
VW Tクロス R-ライン全 37 枚

2024年7月、VWは一気に4モデルの新車を発表した。それらはすべて基本的にICE(内燃機関)を中心とするモデルだった。それまで盛んに「ID」と名の付くBEV(バッテリー式電気自動車)の訴求に勤めてきたVWが、ほぼ180度方向転換をした印象を受けたものである。

【画像全37枚】

その先陣を切って販売が開始されたのが、『Tクロス』である。このクルマは2020年に日本に導入が開始されたモデルで、VWラインナップの中では最もコンパクトなSUVである。必要にして十分な装備と、VWらしい質素で質実剛健なイメージを押し出したモデルだったので、発売開始からその人気が高く、同セグメントでは3年連続してベストセラーの座を守ったヒット作である。

今回初めてのマイナーチェンジを受けて、姿かたちはほとんど変わらないものの、実質的な改良を受けたモデルに進化した。

初代のモデルは、確かにサイズ感や走りの面では評価できたものの、ハードプラスチックを多用したインパネをはじめとした室内の質感については、個人的にあまり納得がいかなかった。2015年に起きたVWによるディーゼルゲートに端を発し、BEVに舵を切ったその開発姿勢の中で、ICE搭載車へのリソースが切り取られてしまったとも感じたのである。

今年7月の発表会は、あくまでも日本市場にフォーカスしたものかもしれないが、それでもICEをもっと訴求するというVWの方向転換が現れていて、今回試乗したTクロスにもそうした質感的進化と、メカニズムの進化が見て取れたのである。

◆要改善の最上位は「カーナビ」だ

具体的な話をしよう。以前はハードプラスチックオンリーだったインパネは、ソフト素材が多用されて、叩くと安っぽいポコポコと音を立てる部分は皆無になった。それにデザインそのものも変更されて、独立したセンターディスプレイが装備される点も今風である。

ただし、以前から指摘していることだが、「ディスカバープロ」に含まれるナビゲーションの使い勝手だけは、依然として全く評価できない。ITリテラシーの高い人なら何とかしてしまうのかもしれないが、果たしてそうした人がユーザーにどれほどいるのか。何度指摘しても治らないので改めて言わせていただくが、このナビの使い勝手は最低である。

そもそも、ナビ画面を呼び出すまでに3度も画面をタッチしなくてはならないところに持ってきて、今回は同じ案内先を純正ナビと、手元の携帯に入っているヤフーカーナビに入れて、同時に使ってみた。結果はもちろんヤフーカーナビの圧勝で、純正ナビは案内の遅れが出るだけでなく、その案内の音声も時々腹が立つほどイラつくことがある。最新の『ポロ』を購入した知人も、このナビの使用を諦めて携帯を使っているというほどだ。要改善の最上位はこのナビである。

◆ICE一辺倒の潔さに、買うなら「今でしょう!」

走りは良くも悪くもVWらしい。VWの走りは距離を伸ばして走った時にじわっと伝わる良さを持っている。この点、ラテン系は乗ったその瞬間からウキウキする印象を持つモデルが多く、時間が経つとそれに疲れることがあるのだが、VWの場合はそれとは正反対の性格なのかもしれない。

今回は300km強を走行して、個人的にはフィットしない(チビには座面長が長すぎる)シートを除けば、快適さと信頼感の高いフィールを持つハンドリング、適度に締まって剛性感を感じさせるボディなどが、じわじわと「なんか良いぞ」と感じさせてくれる。初期型では気になった発進時のギクシャク感もDSGを改良したのだろうか、全くと言ってよいほど感じさせない。つながりもスムーズだし、乾式DSGに在りがちだった渋滞中のギクシャク感も皆無だった。

1リットル3気筒ユニットは、それが3気筒を感じさせない音作りが功を奏して、安っぽさが無いのも良い。所詮1リットルだから、性能的には可もなく不可もないレベルだが、流れをリードして走る力強さは持ち合わせているので日常的にはこれで十分である。

ただし、このクルマは電気とは無縁である。つまりマイルドハイブリッドの設定もない。そうした面では今後に期待すべきなのかもしれないが、ICE一辺倒の潔さがあって、あと数年でこうしたモデルに乗れなくなると考えれば、買うなら「今でしょう!」となる。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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