日本におけるプジョーの現在地と進むべき方向とは、新型『3008』を前にジャクソンCEOが語った

プジョー 3008 新型(本国仕様)
プジョー 3008 新型(本国仕様)全 36 枚

1月末日、オートモーティブ・プジョーのリンダ・ジャクソンCEOが来日し、報道陣向けに新型『3008』の本国仕様を披露して、マーケティング・ディレクターのフィル・ヨーク氏とプジョーの電動化とブランドの現在地についてプレゼンテーションを行った。この日は今年からステランティス・ジャパンでプジョー、シトロエンというフレンチブランド事業を統括する小川隼平氏が、折々でモデレーターを務めた。

◆「パワー・オブ・チョイス」から「ジャーニー・トゥ・エレクトリック」へ

取材日の時点ではCEO職にあった彼女だが、2月に月が替わった翌週、ブルームバーグで匿名ソースからのCEO交代の見込みが報じられた後、VWグループやレンタカー会社を経験したアラン・フェヴェイ氏がプジョーの新CEOに就くことをステランティス・グループは発表。新CEOは前々CEOでグループの欧州全域担当のCOO、ジャン=フィリップ・アンパラートの責任下に置かれ、2014年から6年間シトロエンを、そして2021年から4年間プジョーを率いたリンダ・ジャクソン氏は退職の途を選んだことも同時発表された。

ちなみに昨年12月、カルロス・タバレス元会長が1年半の任期を残して即時退任した際も、第一報はブルームバーグ。彼の退任理由は、他の経営幹部との戦略的相違といわれているが、電動化やブランドの中長期的な方向性よりも、現実的な生産ペースおよび販売台数の目標に関するものだった。市場環境の激しい変化を前に、ステランティス・グループ内部での再編が急ピッチで進む様子がうかがえる。

ただし、210年もブランドとして存在しているプジョーの長期的な戦略、モビリティ・カンパニーとして顧客の要望に沿ったプロダクト群を提供していくことに、変化はないといえる。ジャクソンCEOの指揮下では電動化が着実に進められ、日本への未導入モデルもあるとはいえ、『208』から『5008』、商用車まで、今やプジョーは全ラインナップにBEVを揃えている。

並行して、車格に応じてPHEVやMHEVをも揃え、ハイブリッドのラインナップも充実させている。実際、今回披露された新しい3008は、1.2リットルターボに48VシステムのMHEVが組み合わされた仕様だった。

数年前までプジョーは「ICE(ガソリンかディーゼル)かBEVか」、パワートレインの選択肢をユーザーの乗り方や好みに委ねる「パワー・オブ・チョイス」を強調していた。が、グループとして2038年にカーボン・ネットゼロを公約に掲げる現在、「ジャーニー・トゥ・エレクトリック(電気への旅程)」へと、次のステージに移っていることを、ジャクソン氏とヨーク氏は強調する。電動化の度合いはメーカーが課するものではなく、市場環境や状況に応じて、顧客が選ぶものだというのだ。

「電動化戦略のひとつは、顧客を説得して‘旅に出てもらうこと’でもあります。私たちが人々を動かして電動化への旅に出てもらう必要があるのです」

◆「アリュール」をキーワードに実現した新世代の『3008』

そもそもフィル・ヨーク氏は、世間に広く共有される自動車業界の現在から未来について、「同じような車ばかりになって、AIなど自分の意思とは別のものに支配され始め、複雑な規制やルール下に置かれることで、『モビリティの未来は期待したほどエキサイティングでない』ように捉えられている」と指摘する。

プジョーは「オルタナティブ」という言葉こそ使わないものの、自動車市場でボリュームゾーンとなるメインストリーム(ブランド)を仮想競合相手と仮定し、明らかに距離を置いている。最大公約数的なブランドに対し、乗り手に喜びをもたらすテクノロジーを生み出す、または再定義するブランドとして、異なる未来を切り拓くのがプジョーだというのだ。

それは具体的にどのようにプロダクトに結実しているか? ジャクソン氏はプジョーに就任してから一貫として、それを「ALLURE(アリュール)」というひと言で表してきた。アリュールとは市販モデルのグレード名としてもお馴染みだが、一般名詞としては、外観全体から醸し出される雰囲気や、動作や振る舞いの仕方、あるいは移動する速さ自体を指すこともある。

これまでもプジョーは歴代CEOが、プジョーらしさやプジョー車の特徴を、「猫科らしさ」や「セデュクション(魅了すること)」「モーション、エモーション」といったパワーワードでまとめてきたが、各世代ごとに微妙に異なっているようで、じつは一貫している。

「私たちの顧客は、デザインが美しくてドライビングから喜びを得られる車として、プジョーを選んでいるのです」と、ジャクソン氏は強調する。

新しい3008は、アリュールをキーワードに実現した新世代モデルの先陣でもある。まず車型として「SUVファストバック」という、シャープなシルエットと実用性のみか、空力効率とエレガントさを兼ね備えている。ドライバーシートに着座するとヒップポイントと視線こそ上がっているが、GTカーのようにドライバーを包み込む高さのあるセンターコンソール、21インチの大型にして、ドライバーに対しコンケーブ形状のメーターパネル一体型タッチパネルを備え、まるで宇宙船のように近未来的なインターフェイスの最新世代「i-コクピット」が目を楽しませる。


《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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