正常進化か、独一流の一言居士なのか? 最新世代のVW『ゴルフ8.5』から見えたもの

VW ゴルフ eTSIスタイル
VW ゴルフ eTSIスタイル全 30 枚

『パサート』、『ティグアン』のフルモデルチェンジに続いて、フォルクスワーゲン(以下VW)が矢継ぎ早にニューモデル攻勢をかけている。そして周知の通り、昨年欧州でデビュー50周年を迎えた『ゴルフ』はVWの押しも押される大看板モデルだけに、今回もマイナーチェンジとはいえ大きな節目といえる。

ゴルフは世代ごとに「ゴルフI、II、III、IV、V…」と、以前はローマ数字だったが、ユーザーやプレス側が用いていたこの順数の名称、まるで王朝や諸侯の歴史のごとき重厚さを嫌ったか、当のVWも6~7世代目あたりからは時折、便宜的にアラビア数字を用いるようになった気がする。

さしずめ「2.0」とか「シン~」が新しく見えるのと似た理屈だが、車が人命を乗せるプロダクトである以上、β版が許されないのは大前提で、今年から日本市場で本格的に展開する「ゴルフ8.5」とその数値には、やはりプライドというか実績と新しさの丁度よさ、平板ならざる貫禄が、いい意味で滲み出ていると思う。


◆すっきりスマートな佇まいとなったゴルフ8.5

前期型たるゴルフ8からガソリンエンジンは48VのMHEVオンリーだったが、3気筒1リットルターボのeTSIが廃され、4気筒1.5リットルターボのeTSIにガソリンは一本化された。

「TDI R-ライン」と「GTI」は別物として、「アクティブベーシック/アクティブ/スタイル」という「エントリー/通常/高級」に相当する3種類のグレードのうち、アクティブ系は220Nm・116ps仕様であるのに対し、スタイルにはR-ラインのガソリン仕様と同じ250Nm・150psが与えられている。サスペンションも前者がリアはトレーリングアームで、後者は4リンク式、標準ホイール&タイヤサイズも16インチと17インチという違いがある。

最初に乗ったのは「eTSIスタイル」。外観上での前期型モデルと異なるのは、フロントグリル中央のVWエンブレムがイルミネーション化されたこと、IQ.ライトことLEDマトリックスがハイビームで500m先まで照らせるほどさらに進化して、日中は4灯顔から2灯顔になったこと。

またアンダーグリルのルーバー状の意匠がボディ同色3枚+クローム1枚から同色2枚に改められ外枠もすっきりしたこと。フロントフェンダー脇のサイドガーニッシュも廃され、リアコンビランプも整理された感じで、全体的にすっきりとよりスマートな佇まいとなった。全長4295×全幅1790×1475mmというサイズは変わっていない。

◆スイッチ改善、質感も上がったインテリア

より変化が著しいのは内装だ。最たるものは、使いにくいと評判の悪かったスライダースイッチが、バックライト付きに改められたこと。感度もよくなっていて、インフォテイメント音量の上げ下げやエアコンの温度や風量といった、生理的な部分にかかわる操作がずいぶんと楽になった。

だが前期型から明らかに長足の進歩といえるのは、12.9インチもの大画面となったタッチスクリーンだ。MIB4と呼ばれる最新世代のインフォテイメントが採用されているが、単純に表示が大きくて見やすいのみならず、演算速度も改善されて指先操作のサクサク感、つまりイージーさが増した。音声認識コマンド“IDA(アイダ)”が備わったことも、車内インターフェイスの一環といえるだろう。

それよりもインテリア自体の質感や素材感が、前期型よりもこなれてきたと感じる。メタリックな加飾のダッシュボードは、メタリック調はそのままに打ち目模様のようなパターンに改められた。後で知ったことだが、このダッシュボード加飾はR-ラインやGTIとも共通するトリムだった。

またスタイル独自のスポーツコンフォートシートも、起毛素材とファブリック、人工レザーという素材も構成も変わらないのだが、簡素なステッチパターンでフラットさより張りが強調され、やや青みがかったミディアムグレーに改められた分、高級感を増した。シフトコンソール周りもピアノブラック風の艶が与えられ、見た目の質感が少なからず向上しているのだ。

また、より大型のSUVでもパンク修理キットで済ませがちな昨今、テンパータイヤとはいえスペアがちゃんとリアトランク床下に備わるのはやはり頼もしい。リアシートは6:4分割だが、トランクスルー機構の使い勝手から足元スペース、3ゾーンのエアコンに軽く腰をはめこむような座り心地まで、すこぶる申し分ない。

◆進化したパワートレインと動的質感

ただし、8世代からの進化はパワートレインと動的質感そのものに表れている。1.5リットルターボのMHEVはスペック値では変化がないように見えるが、オルタネーターを水冷式とし、セルモーターを廃して冷間時もBSG(ベルトスタータージェネレーター)での始動に一本化しつつ、モーター出力自体も従来の12kW(約16ps)から14kW(19ps)へと向上している。いわば電装系システムを見直してサポートトルクを増強させただけではなく、むしろこっちが本筋とばかり、ICE側にも思い切り手が加えられている。ミラー燃焼サイクルと可変ジオメトリーターボは元よりだが、その制御も最適化が図られたという。

つまりMHEV関連の制御のみならず、シリンダーマネージメント自体が大幅に進化している。高速巡航や低負荷時に4気筒を2気筒に切り替えるシリンダー休止機構はこれまでもあった。以前はコースティング走行時に2番と3番のピストンが休止しても上下していたところを、8.5では2気筒走行時にカムをスライドさせ、1番と4番を専用プロファイルとすることで、完全休止させるのだという。こうした僅かなメカニカル・ロスをも追い込むICE技術の開発をVWが継続していたことが、そもそもグッド・サプライズといえる。

いざ走らせてみた感触だが、スタート時から必ずエンジンが目覚めるわけではない。ストップ&ゴーを繰り返しても、どこでモーターとエンジンが切り替わっているか判じかねるほど、その境目は曖昧ながら、一貫してスムーズな加速フィールとマナーに舌を巻く。まだ1500kmも走行距離をこなしていないせいか、60km/h以下の速度域では路面の凹凸を拾って細かな上下動を伴う乗り心地ではあったが、高速道路の段差のような局面で、入力が大きくなるほどに素早く一発収束する。そんな足まわりの懐の深さにも、流石と思わされた。

ステアリングフィールについても、8の初期に感じたイージーな手応えによる演出したような軽さより、扱いやすいが操作に対する忠実さゆえ、結果的に感じられる軽快さが印象に残った。130km/hが推奨速度になって久しいながらも、アウトバーンに焦点が合っているという事実の片鱗が、以前よりも色濃く感じられるのだ。MHEVの積極サポートと回生が介入し、気筒休止を含むコースティングや再点火によって動力源が目まぐるしく切り替わるとはいえ、ギクシャク感や前につんのめるような、嫌気を催す現象はまったく起きなかった。


《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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