「ミラノデザインウィーク2025」が4月7日から13日まで開催された。世界有数の規模で開催される家具やプロダクトの展示イベントで、デザインの最新トレンドを発信する。本記事では、自動車関連の主なトピックをリポートしよう。
ミラノデザインウィークは世界最大級の家具見本市「サローネ・デル・モービレ Salone del Mobile」と、市街で展開される「フォーリサローネ Fuorisalone(展示会場の外の意味)」の2つで構成されている。フォーリサローネは家具以外にも、デザイナー、建築家、アーティストそして各業界のブランドなどが参加。自身や自社のデザイン概念を反映したインスタレーションを展開したり、製品を展示する。2025年度は公式ガイドブックに掲載されたものだけでも、1066の企業団体が参加した。
◆早くもグランデパンダを題材に
歴史的にイタリアと深い縁があるステランティスは、服飾および家具ブランドとの協業を展開した。
フィアット・ブランドは、カラフルな色づかいでしられるイタリアの靴下ブランド「ガッロ」と協力、14歳から乗れるマイクロカー『トポリーノ』のラッピング車両4台を市内に走らせた。
いっぽう、家具見本市会場ではプラスチック家具を得意とする「カルテル」社とともに、コンセプトカー「グランデパンダ・カルテル」を公開した。カルテルがすでに使用している再生可能資源由来のポリカーボネイト2.0を内装に活用。自動車-プロダクト共通の素材・製造プロセスを活かした再生技術も導入し、カルテル製椅子用布の端切れを再生ポリエステル糸にして再利用し、グランデパンダのシート地とした。


マセラティ・ブランドは高級家具メーカー、ジョルジェッティと協業。BEVの『グレカーレ・フォルゴーレ』をベースにした一品製作車「ジョルジェッティ・エディション」を市内ショールームで公開した。ジョルジェッティはマセラティのイメージを投影した新作家具コレクションを発表した。

◆日本ブランドのアプローチ
日本の自動車関連ブランドの主舞台は、市内随一のデザイン街区であるトルトーナ地区だった。
第1回の出展を2005年にさかのぼるレクサスは、2019年以来会場としている展示施設「スーペルスタジオ・ピュー」でクリエイターたちとの共創を発表した。今回のモティーフは、レクサスが次世代BEVに搭載が予定しているコクピット操作デバイス「ブラックバタフライ」だった。
館内に入った来場者はまず、2023年東京モビリティショーに展示されたBEVコンセプト『LF-ZC』および同車に装着されたブラックバタフライと対面。それはブラックバタフライの形状を模した大画面インスタレーション『A-Un』へと続いていた。
レクサスの内装材としても使われている竹製スクリーンに、炎のゆらめきなど自然界に存在する「1/fゆらぎ」からサンプリングした映像の組み合わせだ。来場者の心拍と一致すると映像が変わってゆくことで「あ・うんの呼吸」を表現した。レクサスによれば、自動車が人と通じ合って新しいモビリティが拓かれる様を表現したという。制作は東京のクリエイティブエージェンシー「SIX」と、デザインスタジオ「STUDEO」による。

最後はブラックバタフライの実機を来場者が操作するインタラクティブ作品「Discover Together」のコーナーだった。こちらには3組が参画。米国ノースイースタン大学は「大気汚染」を、東京のデザインスタジオ「バスキュール」は「宇宙」、レクサスのインハウスデザイナーは「蝶」をテーマに選び、作品を公開した。

いっぽう2011年からミラノにデザインスタジオを構えるトヨタ紡織は、継続出展11回めとなった。今回は日本の座布団に着想を得た展示『S-CORE』を繰り広げた。3Dプリンター会社、マテリアル企業など4社との共創。コンベア状の造作物上に、同じシルエットでも構成する素材や構造により異なる特性をもつクッションを展示した。

トルトーナ地区では、愛知県の「リーンモビリティ」による都市型小型3輪車『リーン3』も展示を行っていた。同社はトヨタ自動車出身の谷中壯弘氏が立ち上げたスタートアップ。車両はジャパンモビリティショー・ビズウィーク2024ですでに公開済みだ。
ミラノを含む欧州の大都市では、欧州連合規格でクアドリサイクルと呼ばれる軽便車規格が再認識されつつある。従来このカテゴリーの主要ユーザーは高齢者だった。だが、ロードプライシングによる一般車の市内乗り入れ制限導入や、前述のフィアット・トポリーノに代表されるようにOEMがEVモデルで参入したした結果、近年になって広い世代に注目されつつある。
リーン3のデザインを担当したフィアロ・コーポレーションのデザインディレクター平田滋男氏も、今回ミラノでそうした傾向を目の当たりにした。加えて、展示会場が道路上に設営されたブース上にもかかわらず大きな注目を浴びていたことから、相応の手応えを感じたようだ。

◆回帰指向も
ところで、過去数年欧州でも70~80年代のレトロが一種の潮流である。LPレコード、カセットテープ、フィルムカメラ、さらに初期のテレビゲーム機やPCは、若者にとってクールなアイテムである。そうした雰囲気を巧みに反映した出展にも出会った。
吉利(ジーリー)は持ち株会社傘下のロータスによる『エスプリ』シリーズ1を路上展示した。ジョルジェット・ジウジアーロのデザインによる同車は、誕生からほぼ半世紀が経過する。にもかかわらず、写真に収める通行人が後を絶たなかった。

レンジローバーは、カリフォルニアのデザイン集団「Nuova(ヌオーヴァ)」の協力を得たインスタレーション「タイム・トラベリング・ショールーム」で臨んだ。来場者が最初に訪れるのは、往年の空港チェックインカウンターを模した受付だ。スタッフのユニフォームも昔風である。最初の一室には初代『レンジローバー』が置いてあり、内装・調度は1970年の販売店を史料にもとづき忠実に再現されている。当然セールスパーソン役の服装も当時のファッションだ。続く「未来」の部屋で、来場者は2025年レンジローバーと出会う、という仕掛けである。


◆目立った中国プレミアム
韓国ヒョンデ・グループに関して記せば、キアは没入型インスタレーションを継続したが、ヒョンデ・ブランドは2024年まで務めていたフォーリサローネのメインスポンサーから撤退した。
対照的に、2025年で目立ったのは、欧州進出を見据えた中国系BEVブランドの台頭だ。トルトーナ地区では吉利汽車系のジーカーZeekrがミニバン『Mix』を展示。ちなみに同ブランドは、会期中のイベント「ハウス・オブ・オートモビル」のメインパートナーも果たした。

同じく吉利系で、すでに欧州においてサブスクリプション方式で知名度を上げてきたリンク&コーは、2024年に発表した2代目『02』を展示した。なお、ジーカー、リンク&コーともに、デザインセンターは同じく吉利の1ブランドであるボルボの本拠地であるスウェーデンのイェーテボリに置いている。会期中は同地からスタッフが出張し、解説を繰り広げた。

GAC(広州汽車)は、常設のR&Dセンター・ヨーロッパを今回も舞台とした。屋外には同センターがデザイン開発を主導したBEV『アイオンUT』を展示。スタジオ内では、2022年以来継続してきた連作「カー・カルチャー・プロジェクト」の第4弾をスケールモデルで公開した。1930年代中期のブガッティ『タイプ57Cアトランティーク』のデザインなどにインスパイアされたハイパー・ラクシュリースポーツで、AI時代に敢えてそれに頼らなかったデザインを探求している。


対して、一般人の人気を集めていた中国ブランドといえば、BYDの子会社「デンツァ」である。彼らがアピールに注力したのは2024年北京ショーで発表した『Z9GT』だ。同車の目玉装備である4輪操舵機構「クラブ・ウォーキング(カニの横歩き)」は、カットモデル展示と同時に、路上デモも実施。来場者だけでなく通行人もの注目を浴びていた。


◆活発化する人材発掘
もうひとつ注目すべき動きは、新しい才能との接点探しである。最も象徴的だったのは、イタルデザインが展示した1/1モックアップ『ラピダ』だ。私立専門高等教育機関「IEDトリノ」のマスターコースの修了制作に協力した。
IEDの関係者によれば、参加学生21名が範をとったのは日本のトヨタ『スープラ』に代表される2+2クーペだった。ワンボックス車やミニバンで育った世代にとって、日本のコミックスに登場するそうした車型が新鮮な題材してとらえられたのは興味深い。

中国ブランドも有能な人材の発掘に熱心だ。GACは2022年に開始したデザインアウォードの優秀作を展示。ちなみに2025年のテーマには、前述の社内コンセプトと対照的にAIの活用が盛り込まれている。ジーカーも第1回デザインアウォードの結果として、学生による優秀作5点の作品を展示した。


イタリアの著名デザインファームの関係者が筆者に明かしたところによると「イタリアのカロッツェリアは熟練人材が豊富であることは強みだが、新人の発掘が急務である」という。中国メーカーも収益性の高いプレミアム・ブランドの海外展開にあたり、より国際的かつ新鮮な感覚を必要としている。ミラノ・デザインウィークが才能発掘やその成果発表の一拠点として機能するようになれば、より自動車業界にとって貴重な催しとなるに違いない。
