ホンダ『レブル250』は、ネオアメリカンスタイル(ホンダは“軽二輪クルーザー”と呼ぶ)とホンダらしい軽やかな走行性能を組み合わせたモデルだ。そのレブル250にクラッチ操作を必要としないマニュアルトランスミッションシステム「Eクラッチ(E-Cluych)」が追加された。本稿では、「レブル250 Eクラッチ」にどんなメリットがあるのか、走行性能の上から検証する。
ホンダ独自の技術Eクラッチは2024年4月にスポーツバイクである『CB650R』と『CBR650R』に初めて搭載された。もっとも大きな特徴は前述のとおり、クラッチ操作なしで操れることにある。
レブル250は2017年4月に販売を開始した249ccの単気筒エンジンを搭載する軽二輪車だ。アップライトなライディングポジションに低いシート高(690mm)を組み合わせ、ベテランをも唸らせる奥深い走行性能とともに販売台数を伸ばした。以降、カラーや装備の変更、法規対応などを経て現在にいたる。

追加されたEクラッチモデルは、併売する通常のマニュアルトランスミッション(以下、MTモデル)の「レブル250」(63万8000円/以下、価格は税込)のクラッチ機構にEクラッチシステムを組み合わせた一台だ。価格は69万3000円とMTモデル比で5万5000円高になるが、レブル250を購入検討されているのであれば、是非、このEクラッチモデルを選んでいただきたい。なぜなら、MTモデルの素直さをいっさい邪魔しないからだ。
なお、今回の試乗モデルは専用装備をまとった「レブル250 S Edition Eクラッチ」で73万1500円。
◆Eクラッチだけじゃない、レブルの「乗りやすさ」へのこだわり

早速、実車と対面。MTモデルとの違いはごくわずかで、右側ステップ上部にEクラッチシステム(クラッチワイヤーを操作するアクチュエーター類)と、そのカバーがあるのが大きな識別点。ワイヤーの取り回しもEクラッチモデル向けに再設計するなど機能美にもこだわった。
MTモデルから車両重量は3kg増えた。Eクラッチシステムがある車体右側で2kg、車体左側で1kgだが、装着タイヤの重量を軽くするなど細やかな対応でMTモデルと乗り味を揃えた。
ライディングポジションは、Eクラッチモデルの追加に合わせMTモデルを含めて変更している。フルロックさせたUターン時などハンドル位置が遠くなるという市場からの声を受けた改良だ。ハンドルをライダーが握った状態で片側で8.9mm内側に入れて(ハンドルの全幅は約10mm内側にして)、6.5mm手前に移動させ、5.0mm高くした。いずれも数値にすれば僅かだが、実際のUターンでは効果絶大で人馬一体感が強まった。同時にシートもウレタン素材を高反発タイプへと変更し、シート高をそのままに乗り味を向上させている。

◆クラッチレバーを握らずにシフトチェンジ、スムーズさはベテラン級
イグニッションを捻りメインスイッチ・オンにするとEクラッチシステムが自動的に起動する。するとメーター内部(メーター直径はそのままで表示部分のみEクラッチ専用)に緑色の「クラッチ自動制御インジケーター」が点灯しシステムが機能していることが示される。なお、エンジンをスタートさせていない状態ではクラッチレバーの遊びが大きいため、ここでもEクラッチがスタンバイしていることがわかる。
エンジンを始動。そのままクラッチレバーを握らずに1速へとシフトレバーを踏み込み、スロットルを捻ればスルスルと発進する。速度に合わせて2速~6速へのシフトアップ、またその逆のシフトダウンの際もライダーによるクラッチ操作はEクラッチシステムが行うため、ライダーは発進から停止まで適宜、シフトレバー(ペダル)操作のみ行えば、クラッチレバーを操作する必要はない。

一方、ライダーがクラッチレバーを握って1速へシフトするとEクラッチは一時的に無効(機能しない)状態になる。よってMTモデルと同じ操作で発進し、その後、2~6速間のシフトアップ/ダウンにもライダーによるクラッチ操作を受け付ける。このとき、最後のクラッチ操作から数秒間が経過すると自動的にEクラッチが有効(機能する)状態になる。こうした一連の流れは先にEクラッチを搭載したCB650R/CBR650Rと同じだ。
実用性は想像以上に高かった。発進時のクラッチ操作からしてベテランライダー並で、その後も終始スムースだ。ここはCB650R/CBR650Rでも実感していた美点だが、いくら現代のエンジンとはいえ単気筒249ccが生み出せる低回転域でのトルク値は小さい。なので多少なりともギクシャクするかと思ったが、どんなスロットル操作で発進しても最小限の半クラッチでやり抜けた。
例えば急いで発進するイメージでスロットルを大きく捻っても、やみくもにエンジン回転数を上げるのではなく、ライダーがイメージする加速度を百発百中で探り当て、駆動力として繰り出してくる。さらに坂道発進では、適切なリヤブレーキを併用すれば極低回転のまま動き出すし、渋滞を見越した発進/停止(≒長時間では左手が痛くなる状態)を繰り返しても、ベテランぶりをまったく崩さない。
◆限界を試したくなるほどの優等生ぶり

あまりにも優等生なので、限界を試したくなった。1速ギヤでリヤブレーキを使った2~3km/h程度の微速走行、そこからハンドルをフルロックにした転舵走行や八の字走行を行ってみた。
結論からいえば心配事はまるでなし。とはいえ、この速度域だから絶対的な回転数やトルク値は不足する。しかし「カタ・カタ・カタ」と軽いノッキング音が3回出る頃にはEクラッチシステムのアクチュエアターがわずかにクラッチワイヤーを巻き取り、微少なエンジン回転アップをいざなって微速走行を継続させるのだ。タコメーターがないので“耳頼り”だが、その変化代も極僅かだから回転数アップは100回転程度のはず。
今回の試乗はシビアコンディションでの検証も兼ねていたので、一度だけじんわり6速ギヤでの発進を行ってみたが、ここも絶妙なクラッチワークで動き出し、速度の上昇こそ緩やかだが巡航までもっていけた。なお取扱説明書には、「クラッチの異常摩耗をシステムが検知するとEクラッチは自動的に機能を停止することがある」との記載とともに、「発進は1速ギヤで行うべし」と併記されている。
◆エンストからの立ちゴケとは無縁に

このように高い分解能をもつEクラッチは高度なシステム制御により、CB650R/CBR650Rのようなハイパワー4気筒スポーツバイクのスポーツ走行を安全・快適にしてくれる。ここは以前、クローズドコースで全開走行を繰り返した際に確認済みだ。
加えて今回、レブル250との組み合わせではEクラッチの高い実用性を体感した。小排気量バイクになればなるほどギヤ比の関係から発進から巡航までのギヤ操作も頻繁になる。つまりシフトアップ/ダウンの回数は増えるわけだが、これがEクラッチのアシストを受けることで左足のシフトレバー操作だけになり、結果的にライディングがより快適に、そして安全に楽しめた。
今回は、撮影と検証を兼ねた試乗で意図的に発進/停止を繰り返したにも関わらず車載の燃費計は30.6km/リットルを示した。ここから予測するに、ツーリング時のライディングスタイルならば、難なくカタログのWMTC値である34.9km/リットルを達成できるはずだ。

また、よほどの外的要因(≒極端な冷間始動時など)が重ならない限り、Eクラッチはエンストからの立ちゴケとは無縁の世界だ。ここはビギナーライダーだけでなく、ベテランライダーからも支持されるであろう美点になる。
ホンダは2050年に、現存するホンダの二輪車/四輪車が関係する交通事故死亡者ゼロを目指している。四輪車では衝突被害軽減ブレーキをはじめとした運転支援技術群「Honda SENSING」が大きく貢献するが、二輪車では大きな車両挙動を伴う運転支援技術の早期実用化はむずかしい。よって、Eクラッチのようにライダーの身体的負担を軽減することで、安全なライディング時間を少しでも長くする、そんなサポート/アシスト技術が要の一つになるのではないか。
◆レブル500やCLへの搭載は秒読み?

昨今の二輪車は、ライディングをアシストする新技術の実装が目立つ。従来からの「クルーズ・コントロール」にミリ波レーダーを組み合わせ、前走車との車間距離を保ちなら走行する「ACC」(アダプティブクルーズコントロール)や、そのミリ波レーダーを使って死角にいる車両を検知してライダーに教える「BSI」(ブラインドスポットインフォメーション)などがそれだ。いずれも四輪車の搭載車が増えたことでセンサーが安価に、そして小型・省電力化が進み二輪車にも搭載できるようになった。
同様にトランスミッションでは、Eクラッチのようにクラッチレバー操作からの解放を目的にしたがシステムが一般化してきた。歴史を振り返ればホンダでは、1949年の『ドリームD型』(2速MT)が先駆けで、1977年の『エアラ』がスポーツAT二輪車のルーツだ。そして2010年7月には二輪車世界初の「DCT/Dual Clutch Transmission)を搭載した『VFR1200F DCT』を発売。その後、搭載車種を増やしている。
競合するヤマハでは、『MT-09 Y-AMT』や『トレーサー9 GT+ Y-AMT』、に「Y-AMT/Yamaha Automated Transmission」としてクラッチレバーとシフトレバーのないシステムを、BMW Motorradでは、『R1300 GS Adventure』に「ASA/AUTOMATED SHIFT ASSISTANT」としてクラッチレバーのないシステムを搭載するが、いずれもライダーの負担軽減が目的だ。
なお、Eクラッチはシステムがクラッチ操作を行うものの、車両にはクラッチレバーが装備され、実際にライダーによるクラッチ操作ができることから、AT限定免許では公道を走行することができず普通二輪免許以上が必要になる。
これだけ高い完成度を誇るEクラッチ(しかも安価でMTにもなる!)だから、個人的にはレブル500や、スクランブラースタイルの『CL250』、『CL500』などへの展開にも期待したい。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。