スズキは5月21日に横浜で開幕した「人とくるまのテクノロジー展2025」に出展。二輪向けの新技術として、スズキの主力市場であるインドに投入するEVスクーター『eアクセス』、フレックス燃料車の『ジクサーSF 250 FFV』を展示。新中期経営計画の柱となる次世代の環境技術を紹介した。
今回は日本初公開となったフレックス燃料車『ジクサーSF 250 FFV』に注目したい。
◆ガソリンでもバイオエタノール燃料でも走るフレックス燃料車

ジクサーSF 250 FFVは、スズキ独自の油冷エンジンを搭載した250ccロードスポーツバイク『ジクサーSF 250』をベースにインジェクターや燃料ポンプ、エンジン制御等を改良することでバイオエタノール燃料に対応するフレックス燃料車(FFV)としたモデルで、すでにインドで発売されている。
バイオエタノールは古くは1930年代からブラジルなど一部の国で燃料として使用されてきた。近年ではカーボンニュートラルの観点から欧州などでも堆肥や植物由来のバイオエタノールの利用が増えてきているという。スズキが主戦場とするインドではガソリンへのエタノール混合率が20%まで高められたほか、一部のガソリンスタンドではブラジルと同様に燃料用エタノールの販売も始まった。
インドではバイオエタノールの利用拡大と同時に生産能力も高まってきているという。人口14億人を超えるとされるインドは農業大国でもある。めまぐるしい経済成長を遂げている一方で、貧富の差も大きい。政府は農業の発展をインドのさらなる持続的な経済成長の柱とすることを掲げ、バイオエタノールの生産にも積極的だ。化石燃料からバイオエタノールへの転換は、環境保護だけでなく、エネルギー自給率の改善、そして農家の所得向上にもつながるからだ。
こうした背景から、スズキはバイオエタノールを積極的に活用できる車両として、幅広いエタノール濃度の燃料に対応できるFFVの開発に取り組んだという。
◆ガソリン車とFFVでは何が違うのか

ではガソリン車とFFVでは何が違うのか。高濃度のエタノール燃料はガソリンと違い、金属部品の腐食(サビ)や燃焼室周辺部品の摩耗が問題となる。このため、ジクサーSF 250 FFVでは燃料タンクをはじめ、インジェクター、燃料ポンプや燃料ライン、ピストンリング、バルブ、バルブシートの材質変更や表面処理をおこなっている。
さらに、エタノール燃料はガソリンとは蒸発性が異なり、エタノール濃度が高くなるほど、エンジンが冷えている時には燃焼しにくいなどの特徴がある。これに対応するため、エンジンコントロールユニット(ECU)を変更した。
FFVは“フレックス”の名の通り、通常のガソリンで走ることも可能だ。つまり、まったく燃焼のしやすさが違う燃料が注がれても、同じように走り出すことができるために、燃料に合わせた燃料噴射制御をおこなう必要がある。

四輪の場合では「エタノール濃度センサー」を搭載することで、給油時に燃料を判別することができるが、二輪では搭載スペースに限りがあることやコストの面から採用が難しい。ではどうやって判別するかというと、スズキは「O2センサー」の出力からエタノール濃度を推定するシステムを採用した。
O2センサーではストイキオメトリック(最適な燃焼比率を指す理論空燃比)の状態を制御するために排気管の中の酸素量を計り、その状態をつくるための燃料噴射量を見ることでエタノール濃度が高いか低いかを判別するのだという。これによって、始動に問題が生じる場合には、専用に追加されたスピードメーター内の「ガソリン濃度警告灯」や「低温環境警告灯」でユーザーに知らせ、ユーザー自身がタンク内のエタノール濃度を管理できるように工夫されている。
◆バイオエタノール、ユーザーのメリットは

では、これだけインド政府やメーカーが力を入れるバイオエタノール、ユーザーのメリットはどれだけあるのだろうか。実は燃費でいうとガソリン車と比べおよそ25~30%程度劣るとされている。では燃料そのものの価格が安いかというと、インドでは現在ほぼガソリンと同じ価格だという。つまりユーザーとしては、よほど車両本体価格が安くない限りはメリットがほとんどない状態だ。エタノール燃料の普及率が高いブラジルでは、ガソリンより30%安く販売するなどの対策が取られているというが、こうした手段も今後必要となろう。
ただインドでは前述の通り、農業の発展やエネルギー自給率向上、エネルギーセキュリティの面でバイオエタノールを推していることもあり、政府主導により生産量が多くなればなるほどスケールメリットも生まれてくる。まだ産声を上げたばかりの二輪FFV、このジクサーが一石を投じることになるのか、今後に注目だ。
スズキは、「本機種がバイオエタノール普及の一助となり、環境保護と経済成長の両立を目指したインドの発展に貢献していくことを期待する」としている。
