次期『日産エルグランド』にも搭載、第3世代「e-POWER」に注目すべき“3つのポイント”

日産『キャシュカイ』(欧州仕様)に搭載される第3世代「e-POWER」
日産『キャシュカイ』(欧州仕様)に搭載される第3世代「e-POWER」全 13 枚

エンジンを発電のみに用い、駆動を100%電気モーターで行う純シリーズハイブリッド「e-POWER」を展開してきた日産自動車。初出は2016年の『ノートe-POWER』、2020年にノートがフルモデルチェンジされた際にe-POWERのシステムも改良を受け、第2世代へとなった。

第3世代「e-POWER」が搭載された新型『キャシュカイ』

そして今年、欧州市場で販売中のコンパクトクロスオーバー『キャシュカイ』のハイブリッドシステムが第3世代に刷新される。今後、日本、北米などグローバルモデルに展開する計画であるという。

第3世代e-POWERとはどのようなものなのか。性能指標が最初に示されたのは日産が経営再建策「ターンアラウンド計画」を発表した時で、内田誠前社長は「コストは第1世代e-POWERに対して20%低減、高速燃費は第2世代に対して15%向上」とアピールしていた。日産は今年3月、一部メディア向けに技術説明および試乗を行うイベントを開催しており、その内容はあらかた報じられているが、いま一度概要を書き記してみる。

第3世代e-POWERのトピックは次の3点に集約される。

(1)エンジンを駆動に用いない純シリーズハイブリッド方式を堅持
(2)新燃焼理論STARC採用の可変エンジンのピーク熱効率は42%
(3)パワートレインの一体化でコストダウンと質感向上を両取り

◆純シリーズハイブリッド式を堅持した日産の狙い

日産「e-POWER」の進化アプローチ日産「e-POWER」の進化アプローチ

まずは1番目。第1世代、第2世代と同様、エンジンを直接駆動に用いず100%発電のみに従事させる純シリーズハイブリッド方式を取る。高速燃費15%改善という前情報が出たときにはエンジンをドライブシャフトと直結するためのクラッチを設ける可能性も考えられたが、日産はそれはやらなかった。

e-POWERの開発に従事しているエンジニアによれば、現状でも発電効率自体は90%ラインを超えているという。その電力で駆動用電気モーターを回す時の損失をかけ合わせてもトータルのエネルギー変換効率で80%台後半は十分に達成できていると推察される。伝達効率としてはエンジン駆動車の遊星ギア・トルクコンバーター式ATとマニュアル変速機の中間くらいに位置する数値だ。

もっとも1段減速の直結方式や遊星ギアによるスプリット式にくらべると伝達効率では負ける。それを押して日産が純シリーズハイブリッド式を堅持した狙いは、エンジンを直接駆動に使う場合に求められるアイドリング、極低速域でのフレキシビリティ、応答性などの要件が緩和されるため、エンジンのピーク熱効率向上や高効率の領域の拡大に有利であるからだという。

◆さらなる高速燃費の向上が期待できる

第3世代「e-POWER」が搭載された日産『キャシュカイ』(欧州仕様)第3世代「e-POWER」が搭載された日産『キャシュカイ』(欧州仕様)

そこで登場するのが2番目の新燃焼理論「STARC」を採用した1.5リットル可変圧縮比3気筒ターボエンジン。可変圧縮比ターボ自体は現行『エクストレイル』に搭載済みだが、そこに吸気から圧縮、燃料噴射を経て点火のタイミングまでタンブル流(縦方向の空気の渦)が安定的に持続する気筒内の流体設計を加えた。これによってEGR(排気ガスの気筒内への再循環)の比率を高めた時や酸素が余るほど空気を吸い込む希薄燃焼時でも安定的に燃焼させられるようになった。

この新エンジンのピーク熱効率は42%と、競合メーカーの41%に対するアドバンテージはごく僅かだが、日産が資料に載せたチャートで注目に値するのは40%以上の領域の広さで、ドライブパターンの大半がその領域に収まるようになることが示唆されていた。エンジンを発電専用化することで得られるメリットが発電→電気モーター駆動のロスぶんを上回れれば、動力・発電兼用のエンジンを直動に使うシステムと十分勝負できるという算段だ。

発電特化型エンジンの設計発電特化型エンジンの設計

筆者が過去に行った長距離テストの実績値をひもとくと、1.2リットルエンジンをセットアップしていた時代の第1世代、第2世代e-POWERは高速燃費が出にくい傾向をたしかに持っていた。が、排気量1.4リットルの発電専用エンジン「HR14DDe」が採用されたミニバン、現行『セレナ』で急に高速燃費の落ち込みが小さくなった。

純シリーズハイブリッドは高速燃費が悪いというイメージが浸透しているが、e-POWERの場合、1.2リットルが理想的コンディションから外れた時の効率の落ち込みが大きく、それが燃費低下の主因だった可能性が高い。第3世代のSTARC燃焼エンジンの出来次第ではさらなる高速燃費の向上が期待できよう。

◆エンジンと電動部のユニット一体化によるメリット

電動ユニットの統合化によるメリット電動ユニットの統合化によるメリット

第3は日産が「X-in-1」と呼ぶエンジン、発電機、電気モーターの統合。これはBEV(バッテリー式電気自動車)との部品共通化、構造共通化、およびこれまで分かれていたエンジンと電動部のユニット一体化。これはコストダウン、製造の簡素化などが狙いだが、開発陣によれば固有振動数の異なる複数のユニットを結合する方式に比べて騒音・振動を減らせるという副次的効果も得られたという。

第3世代e-POWERは欧州向けのクロスオーバー『キャシュカイ』を皮切りに日本の次期『エルグランド』、北米向けSUV『ローグ』と、順次展開される予定。果たしてオンロードでいかほどのパフォーマンスを示すか興味深いところだ。

第3世代「e-POWER」が搭載された日産『キャシュカイ』(欧州仕様)第3世代「e-POWER」が搭載された日産『キャシュカイ』(欧州仕様)

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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