ヤマハ発動機が提唱する新しい汎用小型電動プラットフォーム「DIAPASON(ディアパソン)」が、市販に向けて着実に歩みを進めている。6月5日に試作車ながらメディア向けの試乗・発表会が開催された。
◆オートサロン以降の進化ポイント

DIAPASONはパイプフレーム構造の小型電動モビリティプラットフォーム。用途やボディ形状によって現在7種類のコンセプトモデルが提案されている。今回用意されたのは「C580」という4輪バギー風のモデルだ。C580は2025年の「東京オートサロン」でも展示されたが、その後の研究や調査によっていくつかの点が改善・改良されているという。今回、試乗会を設定したのもメディアや記者からのフィードバックを今後の改良につなげる目的もあるそうだ。
C580は、見た目はバギー風だが、免許区分は小型特殊を想定した作業用ビークルだ。バッテリーはホンダの交換式バッテリー「モバイルパワーパックe:」を2個搭載する。ヤマハでは2026年下期には「モニター販売」を開始したいとする。モニター販売の意味は、発売後も顧客からのフィードバックをもとに随時改良やカスタマイズを継続していく想定だからだ。
オートサロンの展示では、趣味的なオフロードバギーや牽引カーゴや各種アタッチメントがついた作業用車両だったが、今回の試乗会では農作業用として、圃場や牛舎、牧場などでの用途を意識したピンポイントの装備、改修がなされていた。
オートサロンからの改良点は以下のとおりだ。
・運転席スペースの拡大
・右ハンドル化
・バッテリーの搭載位置変更
・座席後部にトランク(物入れ)を増設
・リアヒッチキャリア
・ルーフキャリア
・ドーザーアタッチメント(フロント)
◆改善のポイントは現場の声:プラウは牛舎用餌寄せドーザーに

オートサロンの展示車の運転席は狭く、体格のいい大人の場合、乗り降りがしにくく、膝や脛がダッシュボードにあたることもあった。今回の改良版試作車は乗り降りのスペース、足の空間確保は十分だった。最初の試作車は、アクセル、ブレーキが踏みやすいようにあえて左ハンドルにしていた。こうすると右足がタイヤハウスに干渉することがない。だが、実際の農家の人に聞くと「右ハンドル」の声が多かったという。バッテリーを移設してその位置に物入れを作ったのも現場の意見を取り入れたからだ。
ドーザーは、より用途を明確にし、牧場の牛舎内で飼料や草を寄せる作業向けのものが展示された。これも現場の声を拾って製品化を目指すものだという。オートサロンでは雪避けのプラウがサンプル展示されていたが、水気の多い雪は相当に重くなりC580ではパワー不足になる場合があるため、牧場での用途に絞った。EVであるため静かで、牛舎の中で動かしても牛のストレスにならないメリットもある。
農業従事者からは4WD化の声も高い。だが、実際の農作業で4WDが本当に必要な場面はあまり多くはない。軽4WDオーナーの多くが、4WDレバーを操作するのは年に数えるほどという声もある。いざというときの安心のためかもしれないが、現場の声は無視できない。いまのところ1モーター・リヤ駆動だが、ヤマハは4WD(2モーター)モデルも検討しているという。
◆試乗でわかる、さらなる改善点

今回は試作車ながら、より実用的になったC580を運転することができた。コースは芝生に設定されたパイロンと鉄板で作ったスロープ。そして舗装路に設置された。芝生のコースは、整地されているわけではなくかなり凹凸がある。一部砂利の路面があったり前日の降雨で湿地のようになっているところもあった。
オープンバギータイプであるため、乗り心地はいいとはいえない。サスペンションのセッティングは変えられるとのことで、試走や試作が進めばもう少し改善されるだろう。広くなった運転席は大人が2人のっても問題ない。乗り降りや足の操作も問題ない。ただし、右ハンドルになったためアクセルの右足がどうしてもタイヤハウスと干渉する。アクセルがセンター側にオフセットされるので、ブレーキ時の踏み間違えもしやすい。この点は早急に対応が必要と思った。

タイヤハウスの形状やペダル位置の調整が検討されているようだ。せっかくEVとしたので、いっそブレーキは完全停止する回生ブレーキをメインとする制御にして、ワンペダル走行ができるようにしていいかもしれない。小型特殊車両(ナンバー付き公道走行)を想定するため保安基準適合を考える必要はあるが、アクセル・ブレーキを手で操作するタイプ(バーハンドル方式や障碍者用レバー方式など)にする、あるいはブレーキは(ゴーカートのように)左足専用の設計にするといった大胆な改良を加えてもいいかもしれない。
EVのドライブモードはエコ・スタンダード・パワーを切り替えることができる。EVなのでエコでも十分なトルクを感じられるが、パワーがでやすいスタンダードもしくはパワーモードのほうが運転はしやすかった。というのは、ステアリング機構がシンプルなため、ハンドル操作が重い。農作業用としても高齢者・女性にはつらい重さだ。低速では路面の凹凸によってはステアリングを押さえつける力がいる。そのためある程度スピードに乗せたほうが操舵は楽だった。

耕運機やトラクターと思えば、機械に合わせる運転をすればいいだけの操作性レベルだが、万人向けではない。だが、どの問題もヤマハなら対策可能なものだろう。
◆社内バーチャル協力体制でスピード開発
DIAPASONの開発プロジェクトは、技術研究本部 共創・新ビジネス開発部という部署が主体となるが、プロジェクトメンバーはさまざまな部署から集められる。コアメンバーは少数精鋭で、ヤマハ発動機のマインドを新しいビジネスにつなげていく。それ以外の各プロジェクトは部署や役職を超えたメンバーが自由に参加する。これを「社内バーチャル協力体制」というそうだ。
このプロジェクトのもうひとつの特徴は、ヤマハがDIAPASONをビジネスプラットフォームとして考えている点だ。プラットフォームには、物理的な車台という意味と、実際のアプリケーションやサービスはパートナーシップ戦略を採用するという意味がある。

ヤマハとしては、新しいEVプラットフォームを開発することもできたが、それだと資金も時間もかかりスピード感のある意思決定ができない。それより、幅広いパートナーシップ戦略で、販社・サービスプロバイダー・メーカーに自由にカスタマイズしてもらった方が現場ニーズに柔軟かつ迅速に対応できる。
たとえば、C580など小型電動モビリティは、自動運転やロボカーなどとの相性がよい。ヤマハ自体、AGV・AMRといった無人倉庫などでの自律走行車両や小型ドローンを手掛けている。技術についてはノウハウを持っているが、DIAPASONのロボカー展開については、パートナーの技術にまかせる方針だ。
すでに、特殊車両のメーカー、架装メーカー、アフターパーツメーカー、販社、サービスプロバイダーなどが「共創パートナー」となっており、DIAPASONエコシステムを作ろうとしている。
