今も昔も、ドライブと音楽は親密な関係にある。その音楽の聴かれ方が、時代とともにどのように移り変わってきたのかを振り返る新連載をスタートさせる。なお、ここでは、一般的な車載用音響システムよりもむしろマニア度の高い機材にフォーカスし、その変遷を追っていく。
◆ラジオから「8トラ」、そしてカセットデッキへと進化!
さて、昭和の時代にクルマが普及していく頃から、運転中に音楽を聴くドライバーは多くいた。
車載用音響機材のルーツはラジオである。そして、その後「8トラ」と呼ばれる大型のカセットテープも使われるようになっていく。さらに70年代にはカセットテープの普及が進み、クルマの中でもこれにより音楽が聴かれ始める。
ちなみに市販のカーステレオシステムのハシリは、パイオニアから登場している。同社は70年代半ばに、カセットデッキとパワーアンプが別体となったカーコンポーネントステレオをいち早く市場に投入し、その後に「ロンサムカーボーイ」というカーステレオブランドを立ち上げ(1977年)、カセットデッキを中心とする車載用音響機器を続々と発売した。同時期には「クラリオン」からも『シティコネクション』が発売され、人気を博した。
◆かつてカースピーカーは、リアトレイに置かれていたのだが…
ところで現在ではカースピーカーはドアに取り付けられている場合がほとんどだが、80年代はそうではなかった。リアトレイに置き型のスピーカーが載せられるのがスタンダードだった。
このスタイルは今にして思えば、ステレオ再生のセオリーには反している。というのも、家でステレオ機材にて音楽を聴くとき、スピーカーは背面に置かれることはまずない。リスナーはスピーカーと正対して音楽を聴く。コンサート会場に行っても、ステージに背を向けて演奏を聴く人はいない。しかし、クルマの中では、音楽は後ろから聴こえてくるのが普通だったわけだ。
しかしながら、実はドアにスピーカーをセットするという形は70年代の終盤から存在していた。やはり、パイオニアが「ロンサムカーボーイ」ブランドからマルチスピーカーシステムを登場させ、それではフロントスピーカーはドアへの装着が前提とされていた。
◆80年代には、ドアに取り付けることが前提の市販スピーカーも徐々に登場
ただし、そのスピーカーシステムは他の製品と比べて売り上げは芳しくなかったようだ。なぜなら、当時は普通、純正スピーカーはドアには装着されていなかったため、ドアにスピーカーを取り付けるにはある程度の改造が必要だった。そのため、80年代はリアトレイに置き型のスピーカーばかりが売れていった。
その一方で、80年代の前半に「アルパイン」と「ナカミチ」からもドアに取り付けることが前提のスピーカーシステムが発売され、この形が徐々に浸透し始める。
なお、「ナカミチ」はカセットデッキを核とする超高級フルセットも発売し、ハイエンドカーオーディオブランドとして一時代を築いた。ただ、90年代になるとCDデッキが主流となり、「ナカミチ」の人気は陰り始めた……。
今回はここまでとさせていただく。次回は90年代のカーオーディオシーンを振り返る予定だ。お楽しみに。