最新の排ガス規制に適合した水冷90度Vツインエンジンは、心地良い鼓動感を伴いながら実用回転域で力強いトルクを発揮する。唐突にトルクが立ち上がるのではなく、スロットルワークに従順で意図した通りに扱えるから、ギクシャクすることはない。ハンドリングはクセがなく軽快。フロント19インチならではの大らかさがあり、道を選ばずどこまでも走って行きたくなる。
そして大柄なボディで、見るからに立派! 傑作と呼び声高いスズキ『Vストローム650 ABS』だ。

冒頭から価格の話をして恐縮だが、100万円で新車が買えるのだから、人気があるのも納得がいく。上級モデルとして設定されるクロススポーク仕様の『Vストローム650XT ABS』でも、103万4000円というリーズナブルな設定となっている。
販売店では「いつまで買える?」と、問い合わせが増えている。生産終了のニュースが報じられたからで、いよいよラストチャンスとなってきた。
◆ミドルクラスを人気者にした「Vストローム650」

「Vストローム650」は、ミドルクラスと呼ばれる650cc~700ccの排気量帯を「ちょうどいい」「ジャストサイズ」と、バイクファンらに知らしめた立役者と言っていいだろう。ドイツ語で“風の流れ”を意味する「Strom(ストローム)」を名に冠した初代『Vストローム1000』が、輸出モデルとしてデビューしたのは2002年のことだ。
2004年には「Vストローム650」が登場し、冒険心をくすぐるアドベンチャーツアラーは欧州で特に人気を博した。
高い防風効果を持つフェアリングとウインドスクリーン、荒れた路面も走破できるストロークの長いサスペンションを備え、長距離でも快適なアップライトなライディングポジションとしたことから、アルプス越えをするようなタフな長距離ライダーたちに高く評価されたのだ。

2012年式でフルモデルチェンジされた「Vストローム650」は、翌年より国内導入がスタート。2014年にはクチバシスタイルのフロントマスクと、ワイヤースポークホイールを採用する「Vストローム650XT ABS」も登場している。
そして、2017年にはスズキ初のアドベンチャーバイク『DR750S』(1988年)をモチーフとしたスタイリングに全面刷新され、現行モデルのスタイルへ至る。
同年に『Vストローム250』も加わり、スズキVストロームシリーズはアドベンチャーバイクブームを牽引。その中で「Vストローム650」は、余裕あるパワーを持ちながら大きすぎず重くない、ミドルクラスの優位性を強くアピールしてきた。
◆クラスを越えた高速巡航力

クルージング性能もひときわ高い。ホイールベースが1560mmと長く、高速巡航では抜群の直進安定性を発揮する。4本のボルトで位置決めされているウインドスクリーンは、上下3段階の調整が可能。トップ6速での100km/h巡航は4500rpmでこなし、剛性の高いシャシーとしなやかなサスペンションで、スピードレンジが上がっても不快な振動など発生せず快適そのもの。
ダイヤモンドフレームとスイングアームを贅沢なアルミ製としているが、剛性が高すぎて乗り心地が悪いということがなく、秀逸なバランスで成り立っている。燃料タンクは20Lの容量を確保し、ツーリングでの目的地はより遠くを設定したくなる。
インストルメントパネルは液晶画面が埋め込まれ、ハンドル左のスイッチで表示内容を切り替えできる。燃料計が備わるのはもちろん、航続可能距離や平均燃費、瞬間燃費もわかる。

あらゆるシチュエーションで扱いやすく、幅広い回転域で潤沢なトルクを発揮するVツインエンジンがまたスポーツアドベンチャーツアラーとしての完成度を高めている。ミドルレンジからシャープに立ち上がり、高回転域では伸びやかなフィーリングを兼ね備え、レッドゾーンがはじまる10,000rpmまでよどみなく回っていく。
また、「ローRPMアシスト」が備わっているから、発進時にはエンジン回転の落ち込みを緩和し、スムーズな発進を実現している。Uターンの際など半クラが必要になるシーンでも、エンジンの回転の落ち込みを感じにくく、安心できる。
◆ダートでもその気にさせてくれる欲張りマシン

扱いやすいエンジンと素直なハンドリング、そしてストロークに余裕があり、しなやかに動くサスペンションを持つおかげで、キャストホイール仕様の「Vストローム650」でもダートを苦手としない。
ツーリング先で出くわす未舗装路も臆せず入っていける。というか、むしろニンマリ「待ってたぞ」と言わんばかりに楽しめてしまう。リッタークラスのアドベンチャーバイクなら躊躇してしまう狭いダートでもその気にさせてくれるから、欲張りなツーリングが楽しめる。
高速道路を使ってのロングライドは、ワインディングやダート、いかなるシュチュエーションも「Vストローム650」なら楽しめ、日本をツーリングするにはうってつけと言っていいだろう。
傑作の名を欲しいままにするスズキのミドルアドベンチャー。欲しいなら、もう迷っている時間はない。

青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。