BMWのアドベンチャーモデルに冠される「GS」とは何か? その意味をあらためて問われたような気持ちになるのが、この『R 12 G/S』だ。GSとは“G(ゲレンデ)=オフロード”と“S(シュトラッセ)=ストリート”の頭文字。つまり、あらゆる道を駆け抜けるためのバイクというわけだ。
その精神の起点は1980年代初頭、パリ・ダカールラリーを席巻した「R 80 G/S」にある。R 12 G/Sはそのオマージュにして、現代のテクノロジーで再構成された“原点回帰”モデルなのである。
◆見た目にも機能的にも正統派GSの血統を感じさせる

心臓部には『R 12 nineT』でお馴染みの1170cc空油冷ボクサーツインを搭載。最大出力109psとスペック的には控えめだが、驚くほど豊かな低中速トルクがライダーに寄り添う。レスポンスは柔らかく、まったりと回るそのフィールは、水冷エンジンとはまったく違う味わい深さを持っている。回さずとも楽しいーーこれこそ空冷ボクサーの醍醐味だ。
フレームは専用設計のスチールパイプ構造で、前後サスペンションはたっぷり210/200mmのストロークを誇るフルアジャスタブルタイプ。21インチのフロントホイールに17インチのリア、そしてワイヤースポークの組み合わせは、見た目にも機能的にも正統派GSの血統を感じさせる。

加えて、電子制御も現代仕様。ライディングモードは「レイン」「ロード」「エンデューロ」の3種を備え、トラクションコントロール(DTC)、一部前後連動タイプのコーナリングABS、エンジンブレーキ制御までもが標準装備で、今どきのツーリングバイクとしての安心感も兼ね備えている。高速域ではさすがに風の影響を受けるが、長い足と自由度の高いシートのおかげで疲れにくく、ワンデーツーリングなら余裕でこなせる快適性を実感できた。
◆オンもオフも楽しめる、ちょうどいい「冒険仕様」
続いてオフロードでは、リア18インチ+オフロードタイヤ、大型ガード類を備えた「エンデューロ・パッケージ・プロ」仕様でトライ。BMW専用のオフロードコースにはヒルクライム、ガレ場、砂地と多様なセクションが用意されていたが、なんと軽々とクリアできてしまったではないか!? 21インチのフロントホイールとロングストロークの足まわりが生み出す走破力はさすがのひと言。

そしてボクサーツイン特有の低重心バランスが抜群の安定感をもたらしてくれる。印象的だったのが、豊かなトルクバンドとワイドなギアレシオがもたらす扱いやすさ。オプションのクイックシフターは駆動力が途切れないのでダートでは本当に便利だが、実際のところ1速のみでほぼ半クラも使うことなく、あらゆるセクションをこなすことができた。加えて、DTCやABSなどの電子制御がもたらす「ここ行けるかも」と思わせてくれる安心感。砂利でリアが軽くスライドする場面でもコントロールを奪われる不安はほとんどない。
さらに「エンデューロ・プロ」モードに設定すれば電制の介入が緩やかになり、よりアドベンチャーらしいダイナミックな走りが楽しめるようになる。郊外の林道ではその性能がいっそう際立ち、ミュンヘン郊外の丘陵地帯の森を越え、川を渡って、草原を駆け巡る爽快感に思わず笑みがこぼれた。R1300GSのような超絶マシンではないが、凄すぎないところがかえって普通の人には「ちょうどいいい」と感じるかも。

◆まさに大人のためのアドベンチャーバイクだ
R 12 G/Sは、単なるレトロスタイルではない。シンプルな中に現代的な装備と電子制御を絶妙なバランスで織り交ぜつつ、かつての“冒険の記憶”を忠実に再現してくれる、まさに大人のためのアドベンチャーバイクだ。空冷ボクサーが好きな人はもちろん、初めての本格アドベンチャーを求めるライダーにも、自信を持っておすすめできる1台だ。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★★
快適性:★★★★
オススメ度:★★★★★
佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。