車内はリスニングルームとしても機能する。クルマの中では、好きな音楽を誰にはばかることなく大音量で楽しめる。その音楽の再生装置が、時代とともにどう変遷してきたのかを振り返っている当コラム。第2回目となる当回では、90年代の“ブーム”を回顧する。
◆90年代に入りカセットからCDへとメディアが替わり、さらにはスピーカーが…
前回は、70年代から80年代にかけての「 カーステレオ」文化の発祥を振り返った。その頃にクルマの中でカセットテープが聴けるようになり、車載用音響機器がさまざま登場しヒットした。そして時代は90年代へと進み、音楽の再生メディアがカセットテープからCDへと徐々に移行し、カーリスニングの形も変容していく。
なお、その頃には、再生メディアが変わった以外にも大きな変革が起きている。それは、「スピーカーの取り付け位置」だ。
カーステレオの時代にはスピーカーはリアトレイに置かれることが多かったが、90年代に入るとドアに装備される車種が増えていく。このことが、車内におけるステレオ再生のありようを変えたとも言える。
というのもステレオ再生とは、音楽を左右のchに分けて録音しそれらを左右のスピーカーにて再生することで、演奏を目前に立体的に再現しようとするものだ。しかし……。
◆スピーカーがドアに移動したことで、“ステレオ”の再現性がアップ!
でも80年代にはクルマのスピーカーは後方に置かれていたことにより、目前にリアルな音像が広がりにくかった。しかしスピーカーがドアに取り付けられるようになり、クルマの中でも演奏が前方から聴こえてくるようになる。結果、ステレオの仕組みが成り立ちやすくなっていく。こうしてカーステレオは、「カーオーディオ」へと進化を遂げることとなる。
このような状況の変化もあり、90年の前半には車内での“音の良さ”を競う大会が全国各地で開催されるようになる。「IASCA(アイアスカ)」と呼ばれる競技会がアメリカから持ち込まれ、またたく間にこれが日本でも普及した。なおIASCAとは、「インターナショナル・オート・サウンド・チャレンジ・アソシエーション」の略称だ。
ちなみにIASCAではルールが厳格に定められていて、その中ではどのような聴こえ方が良い音なのかが明確に規定されていた。で、キーポイントの1つとなったのは「ステレオイメージの再現性」だ。ステレオの仕組みが正しく発動されているかどうかも、厳しくジャッジされていたのだ。
◆音質競技、カスタムインストール、音圧競技、これらが技術の進歩に多大に寄与!
かくしてIASCAが盛り上がることで、クルマの中で良い音が再現されることに関しての理論や技術が全国の「カーオーディオ・プロショップ」に浸透し、こうして90年代に「カーオーディオ文化」の礎が築かれた。
なおそれと並行してその時代には、「カスタムカーオーディオ」と「音圧競技」もブームとなった。前者はカードレスアップの一ジャンルとしてオーディオ機材のインストールのカッコ良さが表現され、それが実践される車両は車外に高音質で音楽を流しストリートで注目を浴びた。
また「低音ブーム」も起こり、サブウーファーを多発搭載する車両も多々製作される。そして室内でどれだけの音圧を出せるかを競うコンペティションも各地で盛んに開催された。
これらもカーオーディオ機材の取り付け技術の浸透と進化に、それぞれ大きく寄与した。
今回は以上だ。次回は90年代に起こったもう1つの革新的な事象について説明する。お楽しみに。