【ボルボ XC60 ウルトラB5 新型試乗】大胆緻密なマイチェンが証明する、ベストセラーであり続けている理由

ボルボ XC60 ウルトラB5 AWD
ボルボ XC60 ウルトラB5 AWD全 18 枚

欧州DセグメントSUVと聞いて思い浮かぶのは、BMW『X3』、メルセデスベンツ『GLC』、アウディ『Q5』のいわゆるドイツ御三家で、あとはポルシェ『マカン』とレクサスの『RZ』、さらに穿ってみればジャガーの『Fペイス』辺りだろうか。これだけ挙げてもまだ物足りない気がするのは、ボルボ『XC60』の存在感の強さに他ならない。

ドイツ御三家は軒並みボディバリエーションとしてクーペ版も水平展開して、X3などはもう4世代目に突入している老舗銘柄である一方、Fペイスは残念ながら来年ディスコンが見込まれる1代銘柄となってしまった。そんな激戦区で、いまだ2世代目で車種として後発ながら、先代と比べてもっとも進境著しいモデルがXC60といえるだろう。そのマイナーチェンジには、やはりザワつくものが多々ある。

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マイチェン前からXC60のブリリアントぶりは、枚挙にいとまがない。2017年に日本市場に上陸し、2017-18年日本カー・オブ・ザ・イヤーを輸入車として初めて獲った。そんな事実さえ序の口で、先代からずっとボルボのグローバル販売におけるベストセラーであり続け、直前の2024年ですら『XC40』(あらためEX40)、『EX30』といった同門のよりコンパクト車種に対しても、その座を守り続けている。

しかも23万台強と、前年の2023年より+2000台強の僅差とはいえ微増したぐらいだ。つまりマイチェンの必要すら感じさせないほど不調の谷間がなく、当初からワールドワイドに販売順調、それがボルボの屋台骨たるXC60なのだ。

◆フロントグリルの印象以上に変わったのがインテリア

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今回、試乗に借り出したのは新色のヴェイパーグレー メタリック。単なるガンメタではなくオリーブグリーンの微妙なニュアンスをまとった「XC60 ウルトラB5 AWD」こと、MEHVのAWD仕様だ。これまでも235/55R19という扁平率高めのタイヤを装着したB5のMHEVはラインナップされていたが、ホイールもより空力に優れそうなフラット気味のデザインで、空気圧監視システムも備わった。

ただしマイチェン後のMY(モデルイヤー)2025-26顔の特徴は、フロントグリルにある。以前の縦格子から斜め格子を左右から重ねたような意匠となった。もちろんBMWの最新グリルモチーフを思い起こさない訳でもないが、ボルボは元の矢印の角度に合わせつつ、重なりはなくとも衿合わせのごとく、ちゃんと左前のところが何ともクラシックではある。

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他に外装の変更点といえば、テールランプの内部構造がクロームメッキからグロッシーブラックになったこと。確かにコーナー周りが締まって、全体的により柔らかなグラデーションに落ち着いた。枠やインサートがブラックトリムで扁平タイヤ仕様のPHEVなら、よりスポーティな外観だが、ほどよくコンサバ加減を間違わないところが、ボルボの巧さだと思う。フレームレスグリルの面積を競うのは、一部の仕向け地と量の理屈に、そこまでして媚びたいメーカーに任せておけばいいのだから。

個人的に大きな変化を感じたのは、内装だ。往時の「インスクリプション」に相当するウルトラというグレードでは、ファインナッパレザー内装が標準となる点にホッとしつつ、FFのB5はノルディコ内装になる。つまりはMEHVのみならずPHEVの「T6」もそうだが、オプションでネイビーのヘリンボーン・テキスタイルが選べる点も、上位グレードたるAWDの2モデルの特長だ。いまだメインはレザーとはいえ、リサイクル素材を積極的に選べるトリムラインナップということではある。

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◆「スナップドラゴン」テクノロジーの恩恵は絶大

細かい造りについては良し悪しがある。スピーカーネットに穿たれたパーフォレーションが、以前のスリット穴からスノーフレーク的な柄模様になり、少しキラキラした感じ。ただしセンタートンネル上ではオレフォスのクリスタルガラスのシフトレバーは継続だが、収納スペースを隠す前後2枚合わせだったシャッターが1枚減り、前側はシンプルな物入れトレイとなった。2枚合わせのシャッターの開閉ツマミに、北欧のモダン家具のような繊細さと“用の美”を感じていたタイプには、残念と映る変更ではある。

しかし、それらのコストがどこに向かったかといえば、ダッシュボードの天地に収まらずアドオン式にマウントされるほど大型化したタッチ式センターディスプレイ、ならびにCPUにクアルコム・テクノロジー社の最新鋭、スナップドラゴン・コクピット・プラットフォームを導入したことだろう。

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その効果は絶大で、従来の9インチから11.2インチにまで画面は拡大、解像度も21%向上しているという。かくしてグーグル搭載インフォテイメントの処理速度は2倍、グラフィック生成速度は10倍にまで速まり、その上で新UIを採用している。じつはまだこれらのメニューはフラッグシップたる『XC90』にも施されていないほど最新の装備だが、ベストセラーたるXC60でインフォテイメントの質を上げてくる判断は、スケーラブル・コストの面でも、顧客が強く要望する項目を強化する意味でも、戦略的に正解なのだろう。

もちろん内装とインフォテイメントだけが差異化ポイントなら、既存の在庫車かユーズドを当たればいいだろうという考え方もある。だがボルボが抜かりないのは、2リットル・直4ターボエンジンをも大きく改良したことだ。ミラーサイクル化することで、燃費を約5%改善したという。WLTCのカタログ値で12.8km/リットルではあるが、高速モードで15.3km/リットルにまで伸びる点は小さくないメリットといえる。

◆街乗りで実感できる、さらに上がった静粛性

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半日ほど、郊外路や高速道路まで走った印象だが、確かにタッチスクリーンが大型化してグラフィック処理が速くなっただけのことはある。道が混んでいる状況でセンサーが反応して、360度ビューに切り替わって描画されるときも、切替わりも速ければ近くをかすめていくスクーターや自転車の動きが、カクカクしていない。平たくいえば、死角の見える化が2段階ぐらい高い精度で実現されているのだ。GSR2対応でカメラビューによる後方や周囲の視界が見えて当たり前化する今、見えれば安全という話ではなく、見え方が滑らかだと安全性の質が、また変わってくる。

市街地でのストップ&ゴーではMHEVのアシストは最小限だが、駐車場の登りアプローチのように徐行がしばらく続く場面では、電気モーターがわりと粘ってくれる。速度域を上げていっても、ファイアウォール周辺やピラー付近に増やしたという遮音材、オプションの合わせガラスがサイドウインドウにまで備わるとあって、静粛性が上がった点もマイチェン後の特徴だ。

XC60のMEHVはトルクやパワーの面で、PHEVに譲るところはまったくない。むしろ360NmのトルクはPHEVより+10Nmほど優り、最高出力も250psとPHEVの253psとほとんど横並び。むしろ電気モーターの仕事量が少ない分、踏み込んでからエンジンの伸びを体感できる。

◆1930kgの重量でも軽快なハンドリング

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ハンドリングも変な話だが、オプションのエアサスペンションを装着しても1930kgという車両重量は、DセグSUVとしては決して重い部類ではなく、軽快でキビキビしている。これもSPA1プラットフォームの恩恵のひとつで、自然な回頭性はダブルウィッシュボーンのフロントサスの効果が大きい。タッチスクリーン上の浅い階層で、車両設定からすぐさまドライブモードを変えられる点も新UIらしいポイントだ。

アイシン製8速ATのシフト動作ももはや熟成の域で、MHEVモーターが介入することでトルク変動がことさら強調されるような場面もない。走り出してしまえば再加速時も至極スムーズだ。普通に走らせる分には、回生ブレーキの効き方も遅過ぎず強過ぎず、MHEVであることすら忘れそうになる。

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ただし動的質感で気になる点もある。まず減速して停止にもっていく際、1速に繋がるのか、停止直前でやや前のめりのショックを感じる。あとはオプションのエアサスだが、まずスタンダード/オフロードという選択肢自体が少なく、ステアリングとサスペンションは別々に設定できるものの、ソフトとハードのみという点は淋しい。しかも装着車の乗り心地は足をソフトにしても都内のパッチ路面ではやや突き上げ気味の乗り心地で、むしろ減衰力の変わらないバネ足の方はどうなのか、そんな興味が湧く。

◆変化の時代にもベストセラーであり続けている

いずれにせよ、距離を重ねるほどに、落ち着いた静寂や平穏に満たされるような経験ができる車種はそう多くないが、XC60はその一台であることは確かだ。前期モデルやその後の年次改良モデルの、攻めていたフィールや機能装備が少し懐かしいが、ADASはマイチェンしてもまったく変化なしという点に、優れた見識を感じさせる。だから変化の時代にもベストセラーであり続けているのだ。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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