【DS N°8 新型試乗】ハンドリングはもはや「賢者」、フランス車の味わいを濃縮した極上の一台…南陽一浩

DS N°8
DS N°8全 23 枚

幸運にも、フランスとスイスの国境で行われたDS『N°8』の国際試乗会に参加することができた。DSが現在、ステランティス・グループの中でフレンチ・ブランド群の最先端かつハイエンドを担っているのは周知の通り。ただし北米市場で不在であり、中国市場の不調を受け、決してグローバルに商業的な成功を収めているわけではない。

【画像】DSの新フラッグシップBEV『N°8』

が、すでに仏大統領のエマニュエル・マクロンが5月のパレードで使用している通り、DS N°8(ニュメロユイット)はメルセデスベンツ、BMW、アウディといったドイツ御三家とはまったく異なるアプローチで、しかも100%のバッテリーEVとして欧州車のプレミアム・セグメントの一翼を担う。要はフランス車としてハイエンドなBEVをどう造り込んでくるか? そこに興味は絞られる。

◆100%BEVのフラッグシップ

DS N°8DS N°8

DSも他の欧州ブランドがアナウンスしたように、2025年以降はICEではなく100%BEVのラインナップ化を急ぐとしていたが、『DS 4』が『N°4』(ニュメロキャトル)にモデルチェンジしてICEもしくはハイブリッドを用意することで、修正を図っている。

しかしそれより以前に、ステラミディアム・プラットフォームからまったくの新規開発BEV、しかもフラッグシップとして計画されたN°8は、話は別だ。これまでもSUVクロスオーバーたる『DS 7クロスバック』次いで『DS 7』、さらに『DS 9』というサルーンが旗艦モデルを担ってきたが、後者のディスコンによって「8」がリードを執ることになったのだ。しかもネーミングは大方の予想を裏切って、「DS 8」ではない。

少し話題が逸れるが、フランス車には数字車名は珍しからず、ニュメロ・サンクといえばシャネルの香水のことで、N°8はイメージ面でも欲張りなネーミングといえる。

車型シルエットは流行りのファストバック・スタイルが採られた。SUVのようにボディ下半分は厚めだが、キャビンはサルーンのように端正でCピラーは寝かされ、それでいて開口部の大きなリアハッチゲートを備える。すでに市場に同じ車型はあまたあるが、『ポールスター4』、BMW『i4』やアウディ『Q6 e-tron』よりもさらに、高級ホテルの車寄せが似合いそうなサルーンのコードに強く寄せている点で、独特といえる。

DS N°8DS N°8

いずれ様々な車型を寄せ集めたモザイクのようなデザインではなく、塊としてのまとまり、彫像性を感じさせるエクステリアは、好悪は分かれるだろうが、流石と思わせる。ちなみにサイズは全長4820×全幅1900×全高1580mm、ホイールベースは2900mm、前後トレッドは1630mmと1646mmとなる。日本の機械式駐車場には高さも幅もアウトだろうが、古い機械式でBEVはそもそも車両重量に引っかかるところ。N°8はバッテリー容量によりけり、2.1~2.3トン弱となる。

ちなみにDSのデザインチーフは変わることなく、その昔ルノーで『アヴァンタイム』を描いたことで有名なティエリー・メトロズ氏が指揮している。一方でDSオートモビルズを率いるCEOは年初から、グザヴィエ・プジョー氏が務めている。これは“DSにライオン来たる”などと、地元フランスの新聞でも話題になったが、フランス車で21世紀以降、走り特化型ではなくスペシャリティ色が売りの車種として成功を収めたのは、『DS 3』以外ではプジョー『406』や『407』にまで遡らなければならない。

その意味でDSは、フランス車の粋を知り尽くしたディレクターたちのドリーム・チームになったともいえる。かなりクセ強めのフレンチ・ドリームではあるが、乗った後だから言えることは、N°8ならではの陶酔感はプレミアム・セグメントでも際立った何かであることは間違いない。

◆フランス車の概念を変える外観と、「ザ・DS体験」な室内

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前置きが長くなったが、N°8の実車を目の前にすると、外観の質感クオリティが明らかに従来的なフランス車とは違う。意匠として全体のソリッド感もさることながら、パネル間の繋ぎ目やエッジラインのシャープさがあり、それでいて優しく抉られた面処理などにフレンチらしい柔らかさを感じさせる。

ヘッドライトもリアコンビランプとも、フルLEDで光源が下に伸びる造形は、ややレクサスを意識したようにも思えるが、ブレード状の四隅で空力を改善する意図もある。ライトオンで光るフロントグリル内の光り方などは「灯され方」といった方が適切なぐらい、精妙だ。ツートンの外装もクラシックだが、グラフィックの斬新さのおかげで古く見えない。

いい意味での驚きは、車内へ乗り込んでも続く。今回試乗した仕様はいずれもFWDのロングレンジ版で245ps仕様で、ブルーマリン内装の「エトワール」とホワイト&ブルー内装の「パレス」だったが、X型でクルー・ド・パリ模様をあしらったステアリングホイールにまず度肝を抜かれた。

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ステアリング自体は上下がややフラットになった形状で、あえて真円ではない。ところが走らせているとこのステアリング、10時10分保持でも9時15分保持でも、じつに握りやすく扱いやすいことが後々から分かってくる。前者なら軽く親指をかけられるし、後者ならグリップが太くなっている部分に手を添えられる。それでいてクルーズコントロールや音声コマンドなどが、ステアリングホイール上でムダに主張することなく、指で操作しやすい位置にある。つまり、まともにステアリングを握ってレベル2をたまに使う程度の“コンサバなドライバー”には、新しいようで素晴らしくしっくりくる。

前方に向かって傾斜したフローティングセンタートンネルは、シフトコンソールを僅かなりとも近づける。16インチの超ワイドなセンタースクリーンといい、ただビジュアル的に奇を衒うのではなく、エルゴノミーを研ぎ澄ました上でシンプルな幾何学的形状に収斂させつつ、美しい。よくよく練られたインテリアなのだ。

N°8の優雅なインテリアを演出する要素は、ドライバーズシート周りだけではない。車内空間の広がりを演出するため、水平基調のダッシュボードはワイドかつシームレスな造形で、下から薄っすらとアンビエントライトに照らされる。

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エトワール仕様にはお馴染み、フォーカル・エレクトラ3Dオーディオシステムが備わっており、14個あるうちのメインスピーカー×2はドア側で、スピーカーパネルにはパーフォレーション加飾が施されていた。これもワイドに見せつつ、音場を広げる工夫だ。ティンテッドのグラスルーフは広大かつ開放的で、放射状のグラフィックも含め、アール・デコを未来的に再解釈したような空間といえる。

しかしN°8が絶対的に注力しているのは、まずドリンクホルダーの開閉式カバーにまで及ぶ、ナッパレザー張りの面積の広さ。そして後席シートにはヒーター&ベンチレーターを備え、前席シートをネックウォーマーとマッサージ機能で、快適性を充実させている。そもそも、時計のブレスレットのコマのようなクッションパターンを施したシートは、DSの伝統といえるものだが、これまたすこぶるつきの座り心地よさだ。五感品質とはいうが、視覚的にも身体的にも柔らかく包み込まれるようなコクーン感覚こそが、静的な「ザ・DS体験」といえる。

◆凡百のBEVとは明らかに異なる乗り心地

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では動的質感についてはどうか?

室内のコンフォート性の高さと並んで、N°8の絶対的防衛圏はクラス随一といえる航続距離だ。FWDのロングレンジ版97.2kWh容量のバッテリーを積む245ps仕様では、WLTP基準で最大750kmを謳う。

航続距離を最優先した以上、最大トルクは343Nmで0-100km/h加速は7.8秒。スポーツ性を押し出すAWD仕様は、350ps・509Nmで、WLTP航続距離は688km、0-100km/hは5.4秒。加速性能は、車選びが正解探しか最適化になっている乗り手には、分かりやすく速さをアピールするスペックだが、加速命のBEVとは、N°8は完璧に一線を画した。いずれもバッテリー電圧は400Vのシステムだが、マッチョやスプリントではなく長距離ランナー志向なのだ。

ちなみに欧州ではFWDで73.7kWh・230ps仕様もあって、そちらはWLTPで最大550kmと、エントリーグレードとしては自律走行距離が長い。このぐらい航続距離があれば、フランスの環境なら平日の通勤で乗っても週1回のフル充電で済ませられるかもしれない、そのぐらいの航続距離だ。これは通勤のためにカンパニーカーを幹部社員に与える企業には都合がいい。家に充電ポストがなくても外で急速充電するのが面倒でも、会社でたまに普通充電できればOK、という理屈になる。

DS N°8DS N°8

だからだろう。N°8はBEVなのに、柔らかくしなやかに、でも十分に力強く加速する。しかも、ある程度の速度に達し、パーシャルスロットルで郊外路を走っていると、初期からよく作動して路面の凹凸を吸い込むダンピングを伴いながら、ヒタヒタと路面を舐めるような感触すら伝わってくる。ホイールベース間に重いバッテリーをぶら下げて、重心は低いが落ち着きのない細かなピッチングが絶えない、凡百のBEVの乗り心地とは明らかに異なるのだ。だから移動体として無機質からほど遠い、有機体になりえている。

そう感じさせるのは、DSアクティブスキャンサスペンション、つまり前方の路面状況をカメラで読み取って減衰力をセミアクティブ制御する機能がより進化して、4輪の荷重変位をときに素早く、ときに緩やかに収束させることが大きい。21インチの大径ホイールをかくも履きこなせるとは。

またエコ/コンフォート/ノーマル/スポーツ(/4WD)という、FWD版では4段階のドライビング・モードも用意され、走るペースや路面に合わせて選択できる。もうひとつは、右が+、左がーと回生の強さを3段階に切り替えられる手元パドルの存在が大きい。さらに強い回生、ワンペダルモードも選べるが、こちらはシフトコンソール側のボタンのオン/オフで切り替えられるようになっており、あえて段階的なパドル回生のステアリング手元側と、分かりやすい棲み分けといえる。

◆もはや賢者のようなハンドリング

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しかしDSが唱える「ダイナミック・セレニティ(動的な静謐)」という、ほぼ矛盾しているとしか思えないコンセプトを乗り手の現実の感覚として結像させるのは、もはや賢者のようなハンドリングだ。

操舵に対して鋭すぎる嫌いはまったくないが、切った分だけノーズが素直にインを向き、N°8の肢体はしなやかに地面を掴んでは、素早く次のコーナーへ駆動力をかけていく。その気になればそれなり以上にスポーティだがエレガントという、スポーツサルーンとして模範的なしなやかさ、軽やかさで、2.2トン前後の重いボディにもかかわらず、左右輪のベクタリング制御は一切ないにもかかわらず、ニュートラル感が持続するのだ。

しかも低速コーナーでもトルクステアは一切、顔を出さず、コーナー頂点を抜けて滑らかに加速しながら直進に戻る際に、残心の美しさのようなニュアンスまで感じさせる。この自在感が恐ろしく静粛性の高い空間で味わえる。というのも、フロントスクリーンと前後左右のウィンドウにアコースティックガラスを採用し、ピラーやフロア、ファイアウォールは言うに及ばず、リアホイールハウス周りは3層の遮音材で覆われているのだ。

DS N°8DS N°8

静粛性の質は、無音であるというより、外部からの高周波音と中周波音の進入を徹底してシャットアウトする方向にある。走行中も車内の会話を妨げることはないし、フォーカル・エレクトラ3Dが恐ろしく透明度の高い、だが温かみある音を響かせる。

バッテリー容量の大きさのみならず、温度管理や制御、EVルーティング機能などで航続距離を伸ばしては動的性能を確保しながら、車内エクスペリエンスを充実させる方向性は、欧州車では共通の認識といえる。しかしフランス的なバランスのさせ方、調律の妙がBEVになってなおのこと、N°8には強く表れている。

喩えていうならヌーヴェル・キュイジーヌ風と聞いていたのにメインディッシュがパンチの効いた一皿で、「美味しい」ではなく「旨かった」。それにも似たインパクトがある。フレンチつまり、フランス車でしか出せない味わいを、N°8は現時点で究め尽くしているのだ。

DS N°8DS N°8

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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